\羊の皮を被った狼を暴く/ くちのがん「孔道癌」の遺伝子異常を解明
早期診断・早期治療に期待
【注目の成果:共同研究・産学連携のためのチェックポイント】
![]() | 遺伝子プロファイルを明らかにしたことから、孔道癌の正確かつ迅速な診断と早期治療に役立つことが期待 |
【産学連携対象 全学共通分野 Discovery Saga】
【Sagaキーワード】
プロファイル/組織化学/TP53/遺伝子異常/遺伝子解析/次世代シークエンサー/組織化/早期診断/病理/病理学/死亡率/分子標的/悪性腫瘍/歯学/がん細胞/上皮細胞/遺伝子/生活の質/早期発見/分子標的薬/免疫組織化学
2026-6-4●生命科学・医学系歯学研究科助教廣瀬 勝俊発表のポイント
非常にまれな口のがんである「孔道癌(こうどうがん)」の症例を調査した結果、遺伝子異常とそれに起因するがん細胞の特徴の一端を解明。孔道癌は悪性のがんにもかかわらず、正常の上皮細胞と似たおとなしい見た目(悪そうに見えにくい)であることから、診断が非常に難しく、治療が遅れることがある。
孔道癌の87.5%で病的な遺伝子異常が見つかり、特徴的な「遺伝子のパターン」がある事が明らかとなり、この異常が「おとなしい見た目」につながっている可能性があるという知見を得た。
孔道癌をより正確に、より早く診断し、早期治療へとつながることに期待。
発表概要
岡山大学学術研究院医歯薬学域の小野早和子助教・山元英崇教授、東京科学大学大学院医歯学総合研究科の布川裕規助教・石丸直澄教授、大阪大学大学院歯学研究科の廣瀬勝俊助教・豊澤悟教授らの共同研究グループは、口の中に発生する扁平上皮癌の特殊亜型である「孔道癌」の遺伝子プロファイルを世界で初めて明らかにしました。また、その遺伝子異常が、低い増殖活性などのがん細胞の特徴へとつながっている可能性を見出しました(図1)。孔道癌は、「正常の上皮細胞」と似たおとなしい見た目(顕微鏡像)であり、「がん」と診断することが非常に難しい病気です。病気の見逃しや間違った診断が起こることが多く、診断の遅れは病気の拡大や死亡率の増加などの患者さんの不利益へと繋がっていきます。一方で、孔道癌は発生頻度が非常に低いため、症例の集積が難しく、これまで孔道癌の分子病理学的特徴についてはほとんどわかっていませんでした。
今回、研究グループは、口の中にできた扁平上皮癌2002例の中から、孔道癌症例を集めました。そして、次世代シークエンサーを用いた遺伝子解析技術により、孔道癌の87.5%で病的な遺伝子異常を同定しました。また、一般的な扁平上皮癌とは異なる特徴的な遺伝子プロファイルを持っていることを明らかとしました。さらに、遺伝子異常と関連して、孔道癌ではがん細胞の増殖活性が低いという特徴を明らかにしました。
本研究成果は、遺伝子プロファイルを明らかにしたことから、孔道癌の正確かつ迅速な診断と早期治療に役立つことが期待されます。また、分子標的薬という新たな治療選択肢が広がることや、孔道癌の生物学的動態の解明にもつながる重要な知見となることが期待できます。
本研究成果は、北米頭頸部病理学会公式科学誌「Head and Neck Pathology」に、2026年5月25日(月)(日本時間)に公開されました。

図1. 顕微鏡で見た孔道癌の写真(左)とがんの特徴(右)。
研究の背景
扁平上皮癌は、口の中(口腔)で最も発生頻度が高い悪性腫瘍で、患者数は年々増加しています。治療の遅れは、食べることや話すことに支障をきたし、生活の質が低下するだけではなく、死亡率が上がることがあります。そのため、早期発見・早期治療が重要となっていますが、孔道癌は、扁平上皮癌全体の0.7-2.7%程度と非常にまれなため、がん細胞の特徴はこれまでほとんど分かっていませんでした。また、顕微鏡でみる細胞の見た目が正常の上皮細胞と同じように見えるため、「がん」と診断することが非常に難しく、診断や治療に遅れが生じているのが現状です。
研究の内容
研究グループは、口の中にできた扁平上皮癌2002例の中から、孔道癌とその類似症例を23例集めました。そして、次世代シークエンサーを用いた遺伝子解析技術と免疫組織化学染色により、孔道癌の病態について包括的な検討を行った結果、以下の重要な知見を得ました。①87.5%の症例で、病気に関わる遺伝子に異常が検出されました。
②FAT1、NOTCH1、PIK3CA、CASP8などの遺伝子に異常が見つかる割合が高く、孔道癌には特徴的な遺伝子プロファイルがあることが明らかとなりました。
③一般的な扁平上皮癌で検出されるTP53、CDKN2Aの遺伝子の異常の割合が低いことが、低い増殖活性やおとなしい見た目などの孔道癌の特徴へとつながっている可能性が示唆されました。
本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)
孔道癌は、診断を専門とする病理医(または口腔病理医)であっても、がんと診断することが非常に難しい病気です。病気を見逃すことや間違った診断が起こりやすく、「異常所見なし」と判断され経過観察となることもあります。診断の遅れは病気の拡大や死亡率の増加などの患者の不利益へと繋がっていきます。詳細な遺伝子プロファイルを明らかとした本研究成果は、正確で迅速な病理診断、ひいては早期治療へとつながることが期待されます。また、孔道癌で高頻度に認められるPIK3CAなどの遺伝子異常は、新たな治療選択肢として分子標的薬の有効性が期待できることを示しています。さらに、孔道癌の生物学的動態の解明にもつながる重要な知見となることが期待できます。
特記事項
本研究成果は、2026年5月25日(月)(日本時間)に北米頭頸部病理学会公式科学誌「Head and Neck Pathology」(オンライン)に掲載されました。タイトル:“Genetic Landscape of Oral Carcinoma Cuniculatum and Its Histological Mimics”
著者名:Sawako Ono, Yuki Fukawa, Katsutoshi Hirose, Yumiko Hori, Daisuke Motooka, Hiroyuki Harada, Eiichi Morii, Satoru Toyosawa, Naozumi Ishimaru and Hidetaka Yamamoto.
DOI:https://doi.org/10.1007/s12105-026-01921-3
参考URL
廣瀬勝俊助教 研究者総覧https://rd.iai.osaka-u.ac.jp/ja/fe549d695da326ca.html
大阪大学 研究