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大阪大学 研究Discovery Saga
2026年6月11日

\世界初!量子コンピュータの「空きスペース」をフル活用/ 計算待ち時間を短縮する量子マルチプログラミングを開発

QIQBの量子コンピュータ・クラウドサービスで提供開始

【産学連携対象 全学共通分野 Discovery Saga】
情報学数物系科学総合理工工学
【持続可能な開発目標(SDGs)】
【Sagaキーワード】
スループット/ハードウェア/アルゴリズム/クラウド/プログラミング/最適化/並列化/量子計算/グラフ理論/整数計画/量子コンピュータ/量子情報/ノイズ/量子ビット/最適配置/持続可能/持続可能な開発/HPC
2026-6-9●工学系量子情報・量子生命研究センター(QIQB)特任研究員(常勤)森 俊夫

発表のポイント

異なるユーザによる量子プログラムを、システムが自動で並列実行する「量子マルチプログラミング(オートモード)」機能を開発
これまでは同一ユーザが手動(マニュアル)で指定した複数のジョブ(プログラム)のみ同時に実行可能だったが、順番待ちのジョブの中から、システムが自動で最適な組み合わせを選出することで、量子チップの空き領域の有効活用を実現
待ち時間を大幅に短縮し、QIQBの運用する量子コンピュータ・クラウドサービスの利用効率を最大化
オープンソースの量子コンピュータの基本ソフトウェア「OQTOPUS」に実装し「量子ソフトウェアコンソーシアム」に参画する機関向けに順次提供を開始

発表概要

大阪大学量子情報・量子生命研究センター(QIQB)の森俊夫特任研究員(常勤)、束野仁政特任研究員(常勤)、桝本尚之特任研究員(常勤)、宮永崇史特任研究員(常勤)、宮地孝輔特任研究員(常勤)、株式会社セックの内田諒テクニカルマネジャー、順天堂大学大学院健康データサイエンス研究科の中田秀基教授らの研究グループは、大阪大学量子情報・量子生命研究センターの量子コンピュータ・クラウドサービスにおいて、異なるユーザの量子プログラムを自動的に並列実行する機能「量子マルチプログラミング(オートモード)」機能を開発し(図1)、提供を開始しました。
計算待ち時間の短縮は、量子コンピュータの実用化に向けた重要な課題のひとつとして取り組まれています。
本成果により、クラウド上の順番待ち(ジョブキュー)にある複数のユーザのジョブを、システムが自動で選び出し、空いている利用可能な量子ビットに割り当てて並列実行することが可能になりました。これは、並列実行の対象が、同一ユーザにより指定された複数のプログラムのみであった「量子マルチプログラミング(マニュアルモード)」機能(2024年10月15日プレスリリース)を大幅に改善したものです。クラウドサービスの混雑緩和に大きく貢献できることを示し、より多くの量子回路を同時に実行することで、貴重な量子ビット資源の「遊び」を最小限に抑え、国産量子コンピュータの稼働効率の向上を実現します。



図1. 量子マルチプログラミング(オートモード)の仕組み

研究開発の背景

次世代の計算基盤として世界中で開発が進む量子コンピュータは、大規模な特殊設備と、ノイズ制御や安定稼働のための高度な研究基盤を必要とします。そのため現在では、先端的な大学や研究機関、企業などが、クラウド経由で実機環境を提供するのが主流となっています。
一方で、基幹部品である量子チップの開発には物理的な壁も多く、現在の量子コンピュータ(NISQデバイス)は量子ビット数が限られています。大阪大学の量子コンピュータ・クラウドサービスでは64量子ビットの量子チップを提供し、運用を行っています。しかし、多くの研究用プログラム実行には10量子ビット程度しか使用しないため、従来の「1ジョブで量子チップ全体を専有する」方式では、多くの量子ビットが未使用のままとなり、非効率でした。
2024年に開発した「マニュアルモード」はこの問題を解決する第一歩でしたが、ユーザ自身がプログラムを複数指定する手間が必要でした。また、別々のユーザが利用する場合は、依然として順番待ちが発生しており、量子コンピュータ実用化に向けた研究開発の大きな障壁になっていました。

研究開発の内容:高度なアルゴリズムによるオートモードの実現

今回開発した「オートモード」は、単に空いている場所へジョブを詰め込むだけでなく、数学的アプローチを用いて(図2)最適化を行っています。[参考文献1]
1. グラフ理論による最適配置(部分グラフ同型問題としての定式化): 量子回路と量子チップの構造をそれぞれ頂点と辺の2つの要素で構成される「グラフ」として捉え、量子チップのグラフの中に、複数の量子回路のグラフをパズルのように当てはめるための判定アルゴリズムを実装しました。整数計画法ソルバを用いることで、複雑な形状の量子回路であっても高速かつ高精度に配置場所を決定します。
2. 物理制約の自動解決(トランスパイル機能): 量子ビット間の接続方向や、離れた量子ビット間の接続性といったハードウェア特有の制約を考慮し、システムが自動的に量子回路を変換(トランスパイル)した上で結合します。ユーザはハードウェアの物理的な制約を意識することなく利用できます。
公平性を考慮したジョブ優先度制御: ジョブキューの先頭から一定数のジョブを参照し、その中から並列実行可能な組み合わせを探します。これにより長く待たされているジョブを優先しつつ、FIFOで効率的な並列化を実現しています。



図2. 量子チップ割当結果の例

本研究開発成果が社会に与える影響(本研究開発成果の意義)

本システムの有効性を検証するため、実際のユーザ利用傾向に基づいたデータセットを用いて評価を行ったところ、以下の結果が得られました。
1. 処理能力の向上: 研究用途で頻繁に利用される小規模な量子回路[参考文献2]を想定し、11量子ビットの量子チップを用意して5ユーザが2量子ビットの回路を110ジョブ投入しました。スループット(一定の時間内に処理できる量)が約3.76倍に向上することを確認しました。実行する量子回路の大きさにもよりますが、量子チップのビット数が大きくなるほどスループットが向上します。これは、クラウドサービスの混雑緩和に大きく貢献できることを示しています。
2. リソース利用効率の向上: 従来の「1ジョブ=全体を専有」方式と比較し、より多くの量子回路を同時に実行することで、貴重な量子ビット資源の「遊び」を最小限に抑え、国産量子コンピュータの稼働効率の向上を実現します。

今後の展望

本機能は、大阪大学の量子コンピュータ・クラウドサービスを利用する「量子ソフトウェアコンソーシアム」参画機関向けに順次提供されます。QIQBと株式会社セック、順天堂大学の研究グループは今後も、量子コンピュータの使いやすさと性能を引き出すシステムソフトウェアの研究開発を推進し、量子技術の実用化に貢献します。

特記事項

本研究開発は、科学技術振興機構(JST)共創の場形成支援プログラム(COI-NEXT)「量子ソフトウェア研究拠点(研究代表者:北川勝浩)Grant No.JPMJPF2014」、内閣府総合科学技術・イノベーション会議の戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)「先進的量子技術基盤の社会課題への応用促進」(研究推進法人:量子科学技術研究開発機構)の研究チームの一つ「国産量子コンピュータによるテストベッドの利用環境整備と運用(研究開発責任者:萬伸一)」によって実施されました。

参考文献

[1] 森俊夫, 中田秀基, 束野仁政, 桝本尚之, 宮永崇史, 宮地孝輔 量子マルチプログラミングによる量子計算機スループットの最適化, 第200回HPC研究発表会(SWoPP2025) 2025年8月4日
[2] ICHIKAWA, Tsubasa, et al. Current numbers of qubits and their uses.Nature Reviews Physics, 2024, 1-3.
[3] DAS, Poulami, et al. A case for multi-programming quantum computers.Proceedings of the 52nd Annual IEEE/ACM International Symposium on Microarchitecture. 2019. p. 291-303.
[4] DOU, Xinglei; LIU, Lei. A new qubits mapping mechanism for multi-programming quantum computing.Proceedings of the ACM International Conference on Parallel Architectures and Compilation Techniques. 2020. p. 349-350.

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