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東京大学 研究Discovery Saga
2026年6月11日

光で草姿をデザインし、光合成を促進する

――レーザーダイオードが切り拓く次世代植物工場の精密光制御――

【注目の成果:共同研究・産学連携のためのチェックポイント】
トマトなど果菜類への応用や、多段式植物工場、都市型農業、さらには宇宙農業への展開が期待
【産学連携対象 全学共通分野 Discovery Saga】
情報学環境学数物系科学化学生物学総合理工工学農学医歯薬学
【Sagaキーワード】
最適化/光エネルギー/人口増加/異常気象/気候変動/広帯域/スペクトル/太陽/光化学/クロロフィル/光応答/光化学系I/光化学系II/光合成/光受容/光受容体/青色光/電子伝達/光環境/太陽光/エネルギー利用/省エネ/LED/発光ダイオード(LED)/レーザー/省エネルギー/生産性/半導体/半導体レーザー/シロイヌナズナ/トマト/環境ストレス/アントシアニン/植物工場/水利用/SPECT/タバコ/光制御/寿命/ストレス応答/形態形成/受容体/立体構造/ストレス/老化

発表のポイント

◆ 植物工場ではこれまで主にLEDが人工光源として利用され、栽培に最適な「光の色(波長)」に関する研究が行われてきましたが、本研究では、「波長の幅(波長域)」にも着目しました。
◆ 同じ青色光・赤青混合光であっても、狭い波長域で照射するレーザーダイオード(LD)と、広い波長域で照射するLEDでは、植物の光合成、葉の角度、葉の黄化(老化)、成長戦略が大きく異なることを明らかにしました。
◆ 特に赤青LD照射では、植物がより立体的で光を効率よく受け取る草姿となり、下位葉の老化を抑えながら、レタス・シロイヌナズナ・タバコにおいて葉面積や新鮮重が大きく向上しました。これにより、植物工場や宇宙農業における“光の精密設計”の新たな可能性が示されました。

光合成と草姿を制御する赤・青レーザー光源による新たな栽培技術

発表概要

 東京大学大学院農学生命科学研究科の矢守航准教授らの研究グループは、スタンレー電気株式会社との共同研究により、植物工場で用いられる人工光について、「光の色(波長)」だけでなく、「光の波長域1)」が植物の光合成や成長を大きく左右することを明らかにしました。
 これまで植物栽培用の人工光としては発光ダイオード(以下、LED)2)が主流でしたが、LEDは比較的広い波長域(約50 nm)で発光します。一方、レーザーダイオード(以下、LD)3)は極めて狭い波長域(数nm以下)で光を出すことができます。本研究グループが以前報告した「赤色LDがLEDより高い光合成促進効果を示す(https://www.a.u-tokyo.ac.jp/topics/topics_20250520-1.html)」では、赤色LDが植物の光合成と成長を向上させることを世界で初めて体系的に示しましたが、本研究では、異なる「光の色(波長)」と「光の波長域」を組み合わせることで、波長域の違いが植物にどのような影響を与えるかを、タバコ、レタス、シロイヌナズナを用いて詳細に解析しました。
 その結果、青色単独光では、広帯域4)の青色LED(LEDB)は乾燥重量を増加させる一方で、狭帯域5)の青色LD(LDB)は葉を立ち上げることで光を下層まで届きやすくし、下位葉の黄化や老化を抑えることが分かりました。また、赤青混合光では、LD照射(LDR+B)がLED照射(LEDR+B)よりも高い光合成活性を示し、葉面積や新鮮重を大きく増加させました。さらに、LD照射(LDR+B)では葉のクロロフィル量が増加し、ストレス応答として蓄積するアントシアニン量が低下していました。
 本研究成果は、これまであまり注目されてこなかった「光の波長域」という光環境パラメータが、植物工場における生産性や葉の健康状態を制御する重要因子であることを示しています。特に、高密植条件で問題となる下位葉の老化抑制や、限られた空間での効率的な光利用に応用できる可能性があります。

発表内容

LEDを超える「次世代の光源」を世界で初めて実証
 近年、世界的な人口増加や都市化の進行、さらに気候変動による異常気象の頻発により、安定した食料生産の重要性がますます高まっています。こうした中、天候に左右されず、省スペースかつ高効率で作物を生産できる植物工場が注目されています。
植物工場では、太陽光の代わりに人工光を利用して植物を育てるため、「どのような光を照射するか」が生産性や品質を大きく左右します。これまで主流となってきた人工光源は発光ダイオード(以下、LED)ですが、近年では、より狭い波長域で高精度に光を照射できるレーザーダイオード(以下、LD)が新たな光源として注目されています。
 研究グループはこれまでに、赤色LDがLEDよりも高い光合成促進効果を示すことを世界で初めて明らかにしました。これにより、植物の光応答には「ピーク波長」だけでなく、「どの程度の幅の波長を含むか」も重要である可能性が出てきました。
 そこで本研究では、赤色光だけでなく青色光も使用し、広帯域のLEDと狭帯域のLDで植物の反応がどのように変化するかを解析しました(図1)。その結果、同じ青色光や赤青混合光であっても、光合成能力だけでなく、葉の角度、葉の老化、葉面積、植物全体の形態形成まで大きく変化することが明らかになりました。

光の「色」だけでなく、「幅」が植物を変える
 植物工場では、天候に左右されずに安定した作物生産を行うことができます。しかし、高密植で栽培するため、上の葉が光を遮り、下位葉が黄化・老化しやすいという問題があります。これは、光合成できる葉の面積を減少させ、生産性低下や管理コスト増加につながります。
 これまでの研究では、「赤色」「青色」など光の“色”に注目した研究が中心でした。しかし実際には、同じ青色でもLEDは広い波長域を持ち、LDは非常に狭い波長域を持っています。本研究では、この「波長域」の違いが植物に与える影響を解析しました(図1)。

図1.光源のスペクトル分布
すべての処理区において、光合成有効光量子束密度(PPFD)は150 μmol m⁻² s⁻¹に統一した。
(A)単色青色LED(破線)およびLD(実線)光源のスペクトル。
(B)赤青混合(R+B)LEDおよびLD光源のスペクトル。

青色光の「幅」が光合成効率を左右する
 まず、異なる青色光条件下で植物の光合成能力を比較しました(図2)。その結果、広帯域の青色LED(LED 450)は、狭帯域の青色LD(LD 450)よりも高い光合成速度を示しました。一方で、気孔開度には大きな差はなく、光合成効率の違いは葉内部の光利用効率に由来することが示唆されました。
 また、波長ピークが異なるLD 407 nmでは、LD 450 nmより高い光合成速度が観察されました。これは、クロロフィルの吸収特性が、光合成効率に大きく影響することを示しています(図2)。

図2.異なる単色青色LEDおよびLD光源下におけるタバコ葉のガス交換特性
(A)光合成速度、(B)気孔コンダクタンス、(C)水利用効率を示す。
各棒グラフ内の異なるアルファベットは、Tukey-KramerのHSD検定によりP< 0.05で有意差があることを示す。データは平均値 ± SE(n = 4)で示した。

青色LDは葉を立ち上げ、下位葉の老化を抑える
 続いて、植物を12日間連続照射し、形態や成長を比較しました(図3)。その結果、青色LED(LEDB)では乾燥重量が増加した一方で、青色LD(LDB)では葉がより立ち上がり、光が植物体内部まで届きやすい構造になっていました(図3A、B)。例えば、タバコでは葉角度が23.5°大きくなっていました。
 また、レタスではLEDB条件でアントシアニン6)が多く蓄積し、シロイヌナズナでは早期抽だいや開花が観察されました(図3A)。これは、広帯域の青色LEDが植物にとって強い光ストレスとして作用していた可能性を示しています。
 さらに、葉の緑色のもととなるクロロフィル量を調べたところ、LDBでは下位葉でもクロロフィル量(SPAD値7))が高く維持されており、下葉の黄化・老化が抑えられていました(図4)。レタスでは下位葉のSPAD値が34.1%高くなっていました。
 これは、狭帯域の青色LDによって葉が立ち上がることで、下層葉まで光が届きやすくなり、高密植条件でも葉の寿命を維持できる可能性を示しています。

図3.単色青色連続光条件下におけるタバコ、レタス、シロイヌナズナの成長と形態
植物は、PPFD 150 μmol m⁻² s⁻¹、ピーク波長450 nmの単色青色LED(LEDB)または青色LD(LDB)下で12日間栽培した。
(A)植物体の代表画像(側面および上面)。各画像中の白色スケールバーは5 cmを示す。(B)地上部乾燥重量、総葉面積、葉面積当たり乾燥重量(LMA)、および葉角度。
データは平均値 ± SE(n = 4)で示した。アスタリスク(*)は処理間に有意差があることを示す(* P< 0.05、** P< 0.01、*** P< 0.001;t検定)。nsは有意差なしを示す。


図4.異なる群落位置におけるタバコ、レタス、シロイヌナズナ葉の相対クロロフィル含量(SPAD値)
(A)タバコ、(B)レタス、(C)シロイヌナズナを示す。
植物は、ピーク波長450 nm、PPFD 150 μmol m⁻² s⁻¹の単色青色LED(LEDB)または青色LD(LDB)による連続光下で12日間栽培した。
測定は上位葉(Upper)、中位葉(Middle)、下位葉(Lower)で行った。
データは平均値 ± SE(n = 4)で示した。アスタリスク(*)は処理間に有意差があることを示す(* P< 0.05、** P< 0.01;t検定)。nsは有意差なしを示す。

赤青LDは光合成活性と光利用効率を向上させる
 次に、植物工場で一般的に利用される赤青混合光条件で比較を行いました(図5)。
その結果、赤青混合LD(LDR+B)条件では、タバコやレタスでは、光エネルギーを光合成に利用する効率が高まり、葉の中で光合成を支えるエネルギーの流れも活発になっていました(図5C:光エネルギー利用効率の指標である光化学系II8)の量子収率[Y(II)9)]、図5D:光合成を支える電子の流れの速さを示す電子伝達速度[ETR10)])。特にタバコではETRが21.4%高くなっていました。
 また、葉の吸光特性を解析すると、LDR+B条件では葉の吸収効率が高まり、植物が光をより効率よく利用できるようになっていました(図5A、B)。これは、狭帯域LDによって光合成色素への光エネルギー供給が最適化されたためと考えられます。

図5.タバコ、レタス、シロイヌナズナにおける葉の吸光特性および光化学系II(PSII)活性
(A)葉の吸光スペクトル(400–700 nm、%)。
(B)葉の吸光スペクトル(A)を各光源スペクトルで重み付けして算出した葉の吸収率(As、%)。(C)光化学系IIの実効量子収率[Y(II)]。
(D)電子伝達速度(ETR;μmol m⁻² s⁻¹)。各パネルの上段、中段、下段はそれぞれタバコ、レタス、シロイヌナズナを示す。データは平均値 ± SE(n = 4)で示した。
アスタリスク(*)は処理間に有意差があることを示す(* P< 0.05、** P< 0.01、*** P< 0.001;t検定)。nsは有意差なしを示す。

赤青LDは葉面積と新鮮重を大きく増加させる
 15日間連続照射して光を照射したところ、赤青混合LD(LDR+B)で育てた植物は、赤青混合LED(LEDR+B)で育てた植物と比べて大きく成長しました。乾燥重量は、タバコで27.5%、レタスで20.9%、シロイヌナズナで84.9%増加していました(図6A、B)。また、葉面積も大きく増加していました。
 さらに、LDR+B条件では葉がより立ち上がった立体構造を形成しており、葉同士の重なりを減らしながら、植物全体で効率よく光を受け取れる状態になっていました(図6)。

図6.赤青混合連続光条件下におけるタバコ、レタス、シロイヌナズナの成長と形態
植物は、PPFD 150 μmol m⁻² s⁻¹の赤青混合LED(LEDR+B)または赤青混合LD(LDR+B)下で15日間栽培した。
(A)植物体の代表画像(側面および上面)。各画像中の白色スケールバーは5 cmを示す。
(B)地上部乾重量、総葉面積、葉面積当たり乾燥重量(LMA)、および葉角度。データは平均値 ± SE(n = 4)で示した。
アスタリスク(*)は処理間に有意差があることを示す(* P< 0.05、** P< 0.01、*** P< 0.001;t検定)。nsは有意差なしを示す。

LDは光ストレスを軽減し、健康な葉を維持する
 最後に、葉の色素量を解析しました(図7)。その結果、LDR+B条件ではクロロフィル量(SPAD値)が大きく増加していました。例えば、タバコでは28.7%、レタスでは25.1%高い値を示しました(図7B)。
 一方で、ストレス応答として蓄積するアントシアニン量(ACI値)は大きく低下していました(図7C)。レタスでは53.7%、シロイヌナズナでは59.5%低下していました。これは、LD照射条件の方が、連続照射環境下でも植物への光ストレスが小さいことを示しています。

図7.赤青混合連続光条件下におけるタバコ葉の表現型およびタバコ、レタス、シロイヌナズナの色素含量
植物は、PPFD 150 μmol m⁻² s⁻¹の赤青混合LED(LEDR+B)または赤青混合LD(LDR+B)による連続光下で15日間栽培した。
(A)LEDR+BまたはLDR+B下で栽培した代表的なタバコ個体の葉表現型。処理間における葉サイズおよび葉色の違いを示す。
(B)相対クロロフィル含量(SPAD値)および(C)アントシアニン含量(ACI値)。
データは平均値 ± SE(n = 4)で示した。アスタリスク(*)は処理間に有意差があることを示す(* P< 0.05、*** P< 0.001;t検定)。
N.D.は検出されなかったことを示す。

「光の精密設計」が切り拓く次世代植物工場
従来、植物工場では「どの色の光を使うか」が重要視されてきました。しかし本研究は、「同じ色の光でも、波長域(波長の幅)によって植物の反応が大きく変わる」ことを示しました。
特にLDには、
• 波長を極めて高精度に制御できる
• 光合成色素や光受容体を狙って刺激できる
• 葉を直立化させ、光を植物体内部まで効率よく届けられる
• 高密植栽培に適した草姿を形成できる
• 位葉の黄化や老化を抑制できる
• 小型化・省エネルギー化が可能である
といった特徴があります。

今後は、トマトなど果菜類への応用や、多段式植物工場、都市型農業、さらには宇宙農業への展開が期待されます。特に、限られた空間で光を精密制御する必要がある宇宙空間では、LDは有力な次世代光源となる可能性があります。

発表者・研究者等情報

東京大学
 大学院農学生命科学研究科
Li Lie 博士課程
矢守 航 准教授

 大学院理学系研究科
寺島 一郎 東京大学名誉教授(現、国立中興大学(台湾))

スタンレー電気株式会社
 杉田 龍星
 十川 博行

論文情報

雑誌名:Frontiers in Plant Science
題名:Beyond Peak Wavelength: Spectral Bandwidth of Blue and Red-Blue Laser Diodes (LDs) Modulates Photosynthesis, Canopy Architecture, Chlorophyll Maintenance, and Whole-Plant Growth
著者名:Lie Li, Ryusei Sugita, Hiroyuki Togawa, Ichiro Terashima and Wataru Yamori*
DOI: 10.3389/fpls.2026.1817114
URL:https://www.frontiersin.org/journals/plant-science/articles/10.3389/fpls.2026.1817114/full

用語解説

    波長域: 光に含まれる波長の広がりのこと。同じ赤色や青色の光でも、含まれる波長の範囲が広い場合と狭い場合がある。本研究では、この波長の幅の違いが植物の光合成や成長に影響することを示した。
    LED(発光ダイオード): 半導体を用いて光を発する光源。植物工場では広く利用されており、省エネルギーで長寿命という特徴を持つ。一方で、発光する波長域は比較的広い。
    レーザーダイオード(LD): 半導体レーザーの一種で、特定の波長の光を極めて狭い波長の幅で発生できる光源。波長を高精度に制御できるため、植物の光応答を精密に調節できる可能性がある。
    広帯域(こうたいいき): 比較的広い範囲の波長を含む光のこと。本研究で用いた発光ダイオード(LED)は広帯域光を発生し、同じ色の光であっても複数の波長成分を含んでいる。
    狭帯域(きょうたいいき): 限られた範囲の波長のみを含む光のこと。本研究で用いたレーザーダイオード(LD)は狭帯域光を発生し、特定の波長を高精度に植物へ照射できる。
    アントシアニン: 赤色や紫色を示す植物色素の一種。強光や低温などの環境ストレスを受けた際に蓄積することが多く、植物のストレス応答の指標として利用される。
    SPAD値: 葉の緑色の濃さからクロロフィル量を簡便に推定する指標。一般にSPAD値が高いほどクロロフィル量が多く、葉の機能が維持されていることを示す。
    光化学系II(PSII): 植物が光を受けて光合成を始める際に最初に働く装置。吸収した光エネルギーを利用して光合成に必要なエネルギーの流れを生み出す役割を担う。
    光化学系IIの量子収率[Y(II)]: 吸収した光エネルギーのうち、実際に光合成に利用された割合を示す指標。値が高いほど光エネルギーを効率よく光合成に利用していることを意味する。
    電子伝達速度(ETR): 光合成の過程で葉の中を流れる電子の速度を示す指標。光合成を支えるエネルギーの流れの大きさを反映し、値が高いほど光合成活性が高いことを示す。

問い合わせ先

東京大学大学院農学生命科学研究科附属生態調和農学機構
准教授 矢守 航(やもり わたる)
TEL:070-6442-9511
E-mail:yamori@g.ecc.u-tokyo.ac.jp

東京大学大学院農学生命科学研究科・農学部
事務部 総務課総務チーム広報情報担当
TEL:03-5841-5484FAX:03-5841-5028
E-mail:koho.a@gs.mail.u-tokyo.ac.jp

関連教員

矢守 航