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大阪公立大学 研究Discovery Saga
2026年6月10日

フェムト秒レーザーで多元素合金ナノ粒子の合成に成功

~化学還元剤を用いず室温で均一組成を達成した革新的手法~

【産学連携対象 全学共通分野 Discovery Saga】
環境学数物系科学化学工学総合生物医歯薬学
【持続可能な開発目標(SDGs)】
【Sagaキーワード】
金属元素/パルス/水溶液/イオン化/エントロピー/近赤外/ロジウム/金ナノ粒子/パルスレーザー/イリジウム/貴金属/固溶体/超短パルス/ボトムアップ/持続可能/ヒドロキシラジカル/持続可能な開発/アブレーション/ナノメートル/ナノ粒子/フェムト秒/フェムト秒レーザー/レーザー/レーザーアブレーション/金属イオン/電子顕微鏡/超短パルスレーザー/寿命/パラジウム/ラジカル

2026年6月10日
理学研究科
プレスリリース

発表者

大阪公立大学大学院理学研究科 岩本 奎人氏(博士前期課程2年)、八ツ橋 知幸教授、本学総合技術部 石本 雅嗣氏

発表概要

ハイエントロピー合金※1ナノ粒子※2は、光学・磁気・触媒材料など多くの分野で活用されています。本研究グループは、危険な化学還元剤を使用せず、室温で複数の金属イオンを同時に還元・析出させることで、5つの金属元素が均一に分布したハイエントロピー貴金属合金ナノ粒子の合成に成功しました。
本研究成果は、2026年5月15日に国際学術誌「Journal of Alloys and Compounds」にオンライン掲載されました。


図1 水にフェムト秒レーザーを照射している様子

発表のポイント

    水にフェムト秒レーザー※3を照射し、強力な還元剤である高密度の電子を生成する手法に着目。
    この還元剤により、貴金属元素のロジウム(Rh)、パラジウム(Pd)、イリジウム(Ir)、白金(Pt)、金(Au)からなる、各元素が均一に分布した直径約10ナノメートルのハイエントロピー貴金属合金ナノ粒子の合成に成功。
    このレーザーを用いる手法では、危険な化学還元剤を使用せず、室温で安全かつ簡便に反応を進行させることができる。

<研究者のコメント>
レーザーを用いるナノ粒子の作製法にはトップダウン法とボトムアップ法があり、後者は本研究のようにイオンを原料とするものと分子を原料とするものに分かれます。本研究グループは、これらの手法を全て駆使してさまざまな粒子の作製とその組成および構造の制御に挑んでいます。


岩本 奎人氏

研究の背景

特異な性質を示すナノ粒子は光学・磁気・触媒材料として非常に重要です。複数の金属を混合した合金ナノ粒子の作製は、全く交じり合わない金属の組み合わせがあるため簡単ではありません。しかし、従来の合金とは異なるアプローチで作られる、複数の金属をほぼ等量ずつ混合するハイエントロピー合金では、多様な組み合わせが可能になりました。近年、ハイエントロピー合金ナノ粒子の作製法の提案が盛んに行われており、急速加熱・冷却により金属塩を混合する方法、高温下で複数の金属塩を同時に還元・析出する方法、合金試料にレーザーを照射する液中レーザーアブレーション法※4などがあります。
さまざまな作製法のうち、複数の金属イオンを均一に混合・析出させるには課題があります。金属が電子を放出すると陽イオンとなり、そのなりやすさ(酸化されやすさ)はイオン化傾向として表されます。一方、陽イオンが電子を受け取って金属になりやすい(還元されやすい)順番は、イオン化傾向とは逆になります。このように、金属イオンの種類によって還元されやすさが異なるため、最も還元されやすいイオンから金属として析出します。そのため、複数の金属イオンから均一に合金を作るのは極めて困難です。非常に強力な化学還元剤を使う方法もありますが、試薬が劇物であるなどの問題がありました。

研究の内容

本研究では、特別な試薬を用いず水から強力な還元剤を発生させることで、室温で複数の金属イオンを同時に還元・析出させる合成手法を試みました。近赤外フェムト秒レーザーを水に照射すると、フィラメントというごく狭い領域に最も強力な還元剤である電子が高密度に生成されます。電子は寿命が短く、最終的に水から生じるのは酸素、水素、過酸化水素のみであるため化学的な危険性は低いと考えられます。
この手法を用い、貴金属元素であるロジウム(Rh)、パラジウム(Pd)、イリジウム(Ir)、白金(Pt)、金(Au)イオンの混合水溶液にレーザーを照射したところ、各元素が粒子内に均一に分布した(図2)、直径約10ナノメートルのハイエントロピー貴金属合金ナノ粒子が得られました(図3)。さらに、暗下での自発的な反応がほとんど起こらないこと、水和電子と同時に発生する強力な酸化剤であるヒドロキシラジカルを捕捉すると反応が加速すること、加えて、分散剤※5によりナノ粒子の粒径を揃えることができ、ナノ粒子が1か月以上水に分散した状態を保てることも明らかにしました。これらの結果から、レーザーによる複数金属イオンの同時還元・析出法は、イオン化傾向にもとづく単純な反応を速度的に凌駕するだけでなく、粒径や分散状態も制御できることが示されました。


図2 作製したハイエントロピー貴金属合金ナノ粒子の電子顕微鏡像と元素マップ


図3 作製したハイエントロピー貴金属合金ナノ粒子の電子顕微鏡像

期待される効果・今後の展開

本研究では5つの元素が均一に混合した固溶体と呼ばれる状態を作ることに成功しました。今後は、用途に応じた機能を発揮させるため、構成元素の数を増やすだけでなく、元素の割合、粒子の大きさを制御する必要があります。さらには、特定の元素を、特定の部位に、特定の割合で偏在させる手法の開発が望まれます。

資金情報

本研究は池谷科学技術振興財団(0361015-A)、日本学術振興会科学研究費助成事業(JP24K08204、JP21K04833、JP21H00152)からの支援を受けて実施しました。

用語解説

※1 ハイエントロピー合金:定義は完全に定まっていないが、5種類以上の金属をほぼ均等な割合で均一に混合した合金。
※2 ナノ粒子:10億分の1メートル(1ナノメートル)から百ナノメートル程度のサイズの粒子。
※3 フェムト秒レーザー:本研究で用いたものは 40 フェムト(百兆分の4)秒だけ発光できる超短パルスレーザー。
※4 液中レーザーアブレーション法:液体中に浸漬した固体原料にレーザーを照射してナノ粒子を作る技術。
※5 分散剤:ナノ粒子を保護して凝集(粗大化、沈殿の発生)を防ぐ試薬。

掲載誌情報

【発表雑誌】Journal of Alloys and Compounds
【論文名】 Synthesis of quinary noble‑metal (Rh‑Pd‑Ir‑Pt‑Au) high-entropy alloy nanoparticles via near-infrared femtosecond laser-induced reduction in aerated water
【著者】 Keito Iwamoto, Chihiro Mizuta, Masatsugu Ishimoto, Kenji Sakota, Tomoyuki Yatsuhashi*
【掲載URL】https://doi.org/10.1016/j.jallcom.2026.188667

問い合わせ先

研究内容に関する問い合わせ先

大阪公立大学大学院理学研究科
教授 八ツ橋 知幸(やつはし ともゆき)
TEL:06-6605-2554
E-mail:tomo[at]omu.ac.jp
※[at]を@に変更してください。

報道に関する問い合わせ先

大阪公立大学 広報課
担当:谷
TEL:06-6967-1834
E-mail:koho-list[at]ml.omu.ac.jp
※[at]を@に変更してください。
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