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東京科学大学 研究Discovery Saga
2026年6月10日

育ちざかりの骨づくりには「しっかり噛むこと」が重要

成長期マウスで、やわらかい食事が運動による骨密度・骨形成の増加を弱めることを確認

【注目の成果:共同研究・産学連携のためのチェックポイント】
子どもの骨の発育を支える生活習慣の改善や、加齢に伴う骨粗しょう症予防につながる研究として期待
【産学連携対象 全学共通分野 Discovery Saga】
複合領域生物学総合生物医歯薬学
【Sagaキーワード】
運動習慣/インスリン様成長因子/神経系/神経生理学/マウスモデル/IGF-1/ホルモン/筋肉/成長期/胎児/骨密度/歯科矯正学/歯学/成長因子/インスリン/マウス/血液/骨吸収/骨形成/低酸素/ストレス/加齢/食習慣/食生活/生理学

2026年6月9日 公開

ポイント

成長期マウスを用いて、"しっかり噛むこと"による刺激が、運動時の骨づくりに重要であることを明らかにしました。
硬い飼料を食べながら運動したマウスでは骨密度や骨形成が増加した一方、やわらかい飼料群ではその効果が弱まりました。
本研究は、成長期の健全な骨づくりには運動だけでなく、“噛む刺激”も重要である可能性を示しました。

概要

東京科学大学(Science Tokyo)医歯学総合研究科 咬合機能矯正学分野の清水康広非常勤講師と小野卓史教授、同 口腔基礎工学分野の青木和広教授らの研究グループは、成長期マウスモデルを用いて、運動による長管骨の骨形成や骨密度の増加には、"噛む刺激(咀嚼刺激:食べ物をしっかり噛むことで骨や筋肉に伝わる刺激)"が重要であり、やわらかい食事はその骨形成効果を弱めることを明らかにしました。
研究グループは、硬い飼料を食べるマウスと、粉末状のやわらかい飼料を食べるマウスに運動を行わせ、骨の状態を比較しました。その結果、硬い飼料を食べながら運動したマウスでは、骨密度(骨の強さを示す指標)や骨形成が増加した一方で、やわらかい飼料を食べたマウスでは、運動による骨形成効果が弱まることが分かりました。
近年、子どもの食生活では、やわらかい食品を食べる機会が増えているといわれています。本研究成果は、成長期における健全な骨づくりには、運動だけでなく「しっかり噛むこと」も重要である可能性を示すものです。将来的には、子どもの骨の発育を支える生活習慣の改善や、加齢に伴う骨粗しょう症予防につながる研究として期待されます。
本成果は、5月21日付(英国時間)に国際科学誌「Scientific Reports」に掲載されました。


図1. 本研究の概要
硬い食事を与えたマウスでは、運動によって骨形成が増加した一方で、やわらかい食事を与えたマウスでは、運動による骨づくりの効果が弱まった。

背景

骨は、成長期に運動などの刺激を受けることで強くなることが知られています。一方で、近年の子どもの食生活では、やわらかい食品を食べる機会が増えており、噛む回数の減少も指摘されています。しかし、食べ物を噛むことで生じる"咀嚼刺激(そしゃくしげき)"が、運動による全身の骨づくりにどのような影響を与えるのかについては、十分に分かっていませんでした。そこで本研究では、咀嚼刺激の違いが、運動による骨形成に与える影響を調べました。

研究成果

研究グループは、成長期マウスを用いて、硬い飼料を食べる群と、粉末状のやわらかい飼料を食べる群にそれぞれ運動を行わせ、骨の状態を比較しました(図1)。
その結果、硬い飼料を食べながら運動した群では、大腿骨および脛骨(けいこつ)における骨密度や骨の強さに関わる指標が増加しました。さらに、骨をつくる速さやつくられる骨の量などの、骨形成指標も高い値を示しました。
一方、やわらかい飼料を食べた群では、こうした運動による骨づくりの効果が弱まることが確認されました(図2-図4)。


図2. 運動による骨密度の増加は、やわらかい食事では現れにくい
図は大腿骨横断面における骨密度の分布を示す。赤い部分は骨密度の低い領域を示す。
硬い食事を与えた群(Hard)では、運動により骨密度が増加した。一方、やわらかい食事を与えた群(Soft)では、運動による骨密度の増加は明らかではなかった。
白いバーは1 mmを示す。


図3. 運動による骨づくりの効果は、やわらかい食事では現れにくい
硬い食事を与えた群(Hard)では、運動により骨密度や骨の強さに関わる指標が増加した。一方、やわらかい食事を与えた群(Soft)では、運動による骨づくりの効果は明らかではなかった。(青色:運動なし、橙色:運動あり)


図4. やわらかい食事では、運動による骨形成の増加が現れにくい
硬い食事を与えた群(Hard)では、運動により骨形成指標が増加した。一方、やわらかい食事を与えた群(Soft)では、運動による骨形成指標の増加は小さかった。(青色:運動なし、橙色:運動あり)

さらに血液中の成分を解析したところ、硬い飼料群では、運動によってストレス関連ホルモンであるコルチコステロンが低下しました。一方、やわらかい飼料群では、運動によるコルチコステロンの明らかな低下は認められませんでした(図5)。

また、成長に関わるホルモンであるIGF-1(インスリン様成長因子-1)は、硬い食事を与えた運動群で高い値を示しました。一方で、骨吸収(骨を壊す働き)に関する指標には大きな違いは認められませんでした。

これらの結果から、"噛む刺激"は、運動によって引き起こされる骨形成を全身で支える重要な役割を果たしている可能性が示されました。


図5. 運動によるストレスホルモン低下は、やわらかい飼料では現れにくい
硬い食事を与えた群(Hard)では、運動によりストレスホルモンの一種であるコルチコステロンが低下した。一方、やわらかい食事を与えた群(Soft)では、運動してもコルチコステロンの明らかな低下は見られなかった。(青色:運動なし、橙色:運動あり)

社会的インパクト

本研究は、成長期における健全な骨づくりには、運動だけでなく「しっかり噛むこと」も重要である可能性を示しました。

近年は、やわらかい食品を食べる機会が増えていることから、本成果は、子どもの食習慣や生活習慣を見直すうえで重要な知見になると考えられます。

さらに将来的には、骨粗しょう症の予防や、生涯にわたる骨の健康維持につながることが期待されます。

今後の展開

今後は、"咀嚼刺激"がどのような仕組みで全身の骨形成に影響を与えるのかについて、神経系やホルモンとの関係を含めて詳しく解析していく予定です。

また、ヒトにおいても同様の影響がみられるかを検証し、成長期におけるより良い運動習慣や食習慣の提案につなげていきたいと考えています。

論文情報

掲載誌:
Scientific Reports
タイトル:
A soft diet attenuates exercise-induced increases in cortical bone density and formation in long bones in growing mice
著者:
Yasuhiro Shimizu, Fatma Rashed, Huan Cao, Yuki Arai, Takashi Ono, Kazuhiro Aoki
DOI:
10.1038/s41598-026-52803-1

研究者プロフィール


清水 康広 Yasuhiro Shimizu
東京科学大学 医歯学総合研究科 咬合機能矯正学分野 非常勤講師
研究分野:歯科矯正学
小野 卓史 Takashi Ono
東京科学大学 医歯学総合研究科 咬合機能矯正学分野 教授
チュラロンコン大学 歯学部 名誉教授
研究分野:歯科矯正学、神経生理学
青木 和広 Kazuhiro Aoki
東京科学大学 医歯学総合研究科 口腔基礎工学分野 教授
研究分野:骨形成促進薬開発、非浸襲的骨造成法、幸福度と疾患との関連研究

関連リンク

プレスリリース 育ちざかりの骨づくりには「しっかり噛むこと」が重要—成長期マウスで、やわらかい食事が運動による骨密度・骨形成の増加を弱めることを確認—(PDF)
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小野 卓史 Takashi Ono | Science Tokyo研究情報データベース(医歯学系)
青木 和広 Aoki Kazuhiro | Science Tokyo研究情報データベース(医歯学系)
咬合機能矯正学分野
口腔基礎工学分野
医歯学総合研究科
取材申し込みページ

問い合わせ先

東京科学大学 医歯学総合研究科 口腔基礎工学分野
教授 青木 和広
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