非麻痺手への刺激が明らかにした脊髄損傷後の脳の再構築
--手の運動回復との関連を発見
【産学連携対象 全学共通分野 Discovery Saga】
【Sagaキーワード】
タスク/脳活動/リハビリテーション医学/スピン/運動野/脳神経科学/脳科学/パフォーマンス/運動機能/脊髄損傷/リハビリ/機能的MRI/MRI/ラット/神経科学/神経生物学/脳機能/リハビリテーション/生理学
2026年06月05日
研究報告
概要
本研究では、脊髄損傷後の回復過程における感覚運動システム再構築の重要な特徴を明らかにしました。脊髄の片側に損傷を受けたサルを対象に、把握運動の変化を評価するとともに、脳全体の活動および領域間の結合性を計測できる機能的MRIを用いて、長期間にわたり脳機能の変化を追跡しました。その結果、非麻痺手への刺激に対する脳応答の変化が回復過程における感覚運動システムの再構築を反映することを明らかにしました。本研究成果は、国際学術誌「Scientific Reports」に掲載されました。研究成果
脳は両手からの感覚入力を処理しています。しかし、脊髄の片側が損傷された場合、この情報処理の過程の変化は十分明らかにされておらず、手の運動回復に寄与するのかどうか分かっていませんでした。本研究では、片側性脊髄損傷を受けた5頭のサルを対象に把握運動の回復過程を調べるとともに、長期間・高頻度で機能的MRIを用いて脳活動と結合性の変化を追跡しました。 その結果、把握運動が良好に回復した4頭では、麻痺側の手を刺激しても感覚運動野の手の領域の応答に大きな変化は認められませんでした。一方で、非麻痺手への刺激に対して、損傷後2〜5週間にかけて両側の感覚運動野の応答が増強し、その後徐々に減弱する動的な変化が観察されました。この変化は運動前野と補足運動野を含む脳全体にわたる運動ネットワークの再編を伴っていました。さらに、損傷と同じ側の感覚運動野の応答変化のパターンは、把握運動の変化と逆相関を示しました。つまり、強い応答と回復が十分でない状態に関連性が認められました。実際、回復不良の個体では、非麻痺手への刺激に対して広範囲の脳応答が持続しパフォーマンスの低下と関連していました。 これらの結果から、損傷後初期に見られる脳活動の増強は抑制コントロールの低下(脱抑制)を反映しており、これは運動ネットワークの大規模な再編に関与すると考えられます。その後、この脱抑制が減弱すると長期に渡って回復が見込める可能性が示されました。
本研究は、これまで主に麻痺側の手の脳活動に焦点を当ててきた従来研究とは異なり、非麻痺手への刺激応答という新たな視点から、脊髄損傷後の脳の適応メカニズムを明らかにしました。これにより、部分的脊髄損傷後の脳の再編様式に関する新しい理解が得られるとともに、将来的なリハビリテーション戦略の改善にもつながる可能性があります。

これらの図は、損傷前(健常)、回復初期、回復後期における手の触覚刺激に対する脳応答および運動ネットワークの変化を示します。健常時には、感覚運動野(水色と緑の球)が反対の手から感覚入力を受け、運動出力(黒矢印で片側表示)を送っています。片側脊髄損傷(赤い三角)後、回復初期には損傷側の手が麻痺します(斜線付きの手)。この時期、非麻痺手への刺激に対して両側の感覚運動野の応答が増強します(水色の上向き矢印)。この増強は、運動前野(小さい双円錐)および補足運動野(大きい双円錐)を含む脳全体にわたる運動ネットワークの関与を伴います(同色でペアを表示)。また、感覚運動野の応答増強は把握運動タスクのパフォーマンスの低下と関連しています(黒い下向き矢印)。回復後期では、これらの増加した応答は運動機能の回復とともに減弱し、運動ネットワークの関与も変化します(上向きと下向きの矢印で表示)。
自然科学研究機構 研究