南海トラフ沿いの固着は時間的に 「変化する場所」と「変化しない場所」がある
――プレート境界の固着状態の時空間変動を観測から把握――
【注目の成果:共同研究・産学連携のためのチェックポイント】
![]() | 海底下の固着の時間変動を観測データから把握できるようになったことで、将来の地震の規模や性質をより正確に見極め、国や地域の防災対策に活かされることが期待 |
【産学連携対象 全学共通分野 Discovery Saga】
【Sagaキーワード】
防災対策/海洋/GNSS/スロースリップ/フィリピン海プレート/プレート境界/海底観測/巨大地震/地殻変動/地震学/地震活動/沈み込み/南海トラフ/日本列島/衛星/時間変動/深海底/生産技術/地震防災/シミュレーション/スロー地震/ひずみ/モニタリング/人工衛星/大地震/南海トラフ地震/防災・減災/TEMPO/ラット
プレスリリース
発表のポイント
◆海上保安庁による11年間の精密な海底地殻変動観測データを解析し、プレート境界のくっつき具合(固着状態)が変化するパターンを初めて明らかにした。◆震源域の中でも、巨大地震のエネルギーを溜め込み続けている「安定した固着域」が主に日本列島南岸に近い海底下に存在し、「固着が時間変動する領域」がその南側に存在することを突き止めた。
◆海底下の固着の時間変動を観測データから把握できるようになったことで、将来の地震の規模や性質をより正確に見極め、国や地域の防災対策に活かされることが期待される。

(左) 2013-2023年の11年間のすべり欠損速度の全期間の最小値の分布。
(右) すべり欠損速度の平均値と最小値の差の分布。
発表概要
東京大学 生産技術研究所の横田裕輔准教授と、海上保安庁海洋情報部の渡邉俊一主任海洋防災調査官、気象庁気象研究所の野田朱美調査官(現・産業技術総合研究所)、海上保安大学校の石川直史教授らによる研究グループは、直近11年間の海上保安庁の海底地殻変動観測データを精査することで、南海トラフ地震(注1)の想定震源域におけるプレート境界の固着状態の時間変動の把握に成功し、その変動パターンが各地で異なり、固着の強さが観測期間内で変動しない領域と変動している領域とに分けられることを見出しました。本研究では、海上保安庁が運用している海底地殻変動観測網「SGO-A」の11年分の長期データを用いました。先行研究では、使用できるデータの期間が短く、固着状態(注2)の時間変動を十分な精度で捉えることが困難でしたが、その後のデータの蓄積と解析技術の向上により、詳細に把握することができました。今回の研究成果は、将来発生可能性のある地震のより正確な評価に貢献し、国や地域の地震防災対策に役立てられると期待されます。
海上保安庁は、観測点の拡充にも取り組んでおり、今後のさらなるデータの蓄積によって、より詳細な固着状態のモニタリングが可能になることが期待されます。
○発表者コメント:横田 裕輔 准教授の「もしかする未来」

海域のプレート境界の固着範囲の検出を目的として、10年以上、GNSS-A観測の研究をライフワークとして進めています。
海底観測を長く継続することは非常に大変であり、海上保安庁が10年以上の長期データを蓄積されたことに敬意を表します。
さらに観測網が拡大している昨今、船以外の選択肢を次々に投入できる体制構築を進めたいと考えています。
横田 裕輔 准教授 研究者プロフィール:https://www.iis.u-tokyo.ac.jp/ja/research/staff/yusuke-yokota/
発表内容
海上保安庁では、南海トラフ地震想定震源域におけるプレート境界の固着状態の把握のため、海底地殻変動観測網「SGO-A」においてGNSS-A(注3)観測を行い海底のわずかな動き(地殻変動)をモニタリングしています。海上保安庁のデータを使った南海トラフの固着状態の推定については、2016年の先行研究では固着の空間不均質性を発見しましたが、観測データの期間・精度が十分でなかったため、時間的な変動までは捉えることができませんでした。2020年の先行研究(プレスリリース①)では、スロースリップ(注4)の検出に成功し、固着の時間変動を示唆する結果が得られました。この度、本研究チームは、海上保安庁の継続観測によるさらなるデータの蓄積があったことと、解析技術の高度化が実現したことで、大きな地震活動のない直近11年間の長期の観測データから固着状態の時間変動の空間パターンを把握することに初めて成功しました(図1、図2)。

図1:(左)本研究で推定したすべり欠損速度の全期間の最小値の分布。すべり欠損速度は固着状態の指標となり、赤色の濃い領域が長期にわたって固着が強い範囲を示す。
(右) すべり欠損速度の平均値と最小値の差の分布。浅部側の時間変動が大きいことを示す。
地殻変動の観測データからは、「すべり欠損速度」と呼ばれるプレート境界面の固着の強弱の指標となる量の推定が可能です。2013年から2023年までの11年間の観測データから4年平均のすべり欠損速度を1年ごとに推定した結果(図2)、場所によって時間変動のパターンが異なることが分かりました。時間変動するすべり欠損速度の最小値の分布を示したのが図1です。最小値が大きい領域(赤部)は時間変動が少なくかつ固着が強い領域を示しており、巨大地震の原因となる安定した固着域であると考えられます。安定した強い固着域は海岸沿いの近くの海底下のプレート境界に、対して固着が時間変動する領域は概ね海岸から50 km以上離れた沖合の海底下のプレート境界に分布することがわかりました。このような固着状態の時間変動の空間パターンの把握は、将来発生する可能性のある巨大地震の性質の把握に重要であり、地震予測シミュレーションなどの研究の進展に貢献するとともに、国や地方公共団体等が行う地震防災対策に役立てられることが期待されます。

図2:2013-2023年の11年間の4年ごとに推定されたすべり欠損速度の分布の変化
海上保安庁では、今回の研究で用いた観測点に加え新たな観測点を設置・観測を開始しており、今後の長期継続観測によって、今回の研究では十分な精度で把握することが困難であった南海トラフ地震想定震源域の西端や南端といった境界領域での振舞も明らかになると期待されます。また、東京大学 生産技術研究所の横田 裕輔 准教授らは、南海トラフ沿いのGNSS-A観測が、現在は有人船舶で実施され多大なリソースを要している状況を踏まえ、無人機の活用など新たな観測体制の構築が求められている中で、海上観測プラットフォームの技術開発(例:プレスリリース②)を進めています。
なお、本研究成果は6月3日(英国夏時間)に学術誌「Earth, Planets and Space」にオンライン公開されました。
関連情報
「プレスリリース① 観測の困難な海底下における「ゆっくりすべり」を検出 ~南海トラフ地震発生過程の解明に前進~」(2020/01/16)https://www.iis.u-tokyo.ac.jp/ja/news/3223/
「プレスリリース② 海面に着水したUAVによるセンチメートル精度の深海底位置計測に成功――船やブイに依存しない高速かつ高機動な海底観測が可能に――」(2025/07/24)
https://www.iis.u-tokyo.ac.jp/ja/news/4826/
発表者・研究者等情報
東京大学生産技術研究所
横田 裕輔 准教授
海上保安庁海洋情報部
渡邉 俊一 主任海洋防災調査官
気象庁気象研究所
野田 朱美 調査官(現:産業技術総合研究所 主任研究員)
海上保安大学校
石川 直史 教授
論文情報
〈雑誌名〉Earth, Planets and Space〈題名〉Decadal seafloor geodesy reveals constantly locked areas and temporal changes in the slip deficit rate along the Nankai Trough
〈著者名〉Yusuke Yokota*, Shun-ichi Watanabe, Koya Nagae, Yuto Nakamura, Akemi Noda, Tadashi Ishikawa
〈DOI〉10.1186/s40623-026-02472-1
研究助成
本研究は、科研費学術変革領域A「Slow-to-Fast地震学(課題番号:JP21H05200)」、セコム科学技術財団の支援により実施されました。用語解説
(注1)南海トラフ地震南海トラフは西日本の南側沿岸の沖合にあり、フィリピン海プレートが日本列島の下側に南から沈み込んでいる。過去に繰り返しマグニチュード8クラスの巨大地震が発生しており、地震防災・減災のため内閣府では震源域や被害の想定を行っている。
(注2)固着状態
プレート境界で上盤側と下盤側のプレートが密着している状態。強く固着している場合、海洋プレートの沈み込みに伴い、上盤側の陸側プレートが引きずられ変形するため、固着の強弱は地表(海底)の動きから推定することができる。
(注3)GNSS-A
GNSS(人工衛星を用いて海面より上の位置を正確に把握する技術)と音響測距(Acoustic ranging;音波を用いて距離を測定する技術)を結合することで海底の位置をセンチメートルの精度で決定する技術。海上保安庁が運用するSGO-A観測網に用いられる。
(注4)スロースリップ
スロー地震の一種。断層が数日から数年かけてゆっくりとすべる現象。とくにプレート境界において発生する。すべりの期間が数日から数週間のものは短期的スロースリップ、数ヶ月から数年のものは長期的スロースリップと呼ばれる。南海トラフでは陸上のGNSSやひずみ計等の観測網によって、沈み込むプレート境界の深部で発生していることが検出されているほか、熊野灘の海底掘削孔内観測によってプレート境界浅部において短期的スロースリップの発生が検出されている。
問い合わせ先
<研究内容について>東京大学 生産技術研究所
准教授 横田 裕輔(よこた ゆうすけ)
Tel:03-5452-6187
E-mail:yyokota(末尾に"@iis.u-tokyo.ac.jp"をつけてください)
研究室WEBサイト:https://sgoi.iis.u-tokyo.ac.jp/
海上保安大学校
教授 石川 直史(いしかわ ただし)
Tel:0823-21-4961
E-mail:t-ishikawa(末尾に"@jcga.ac.jp"をつけてください)
<機関窓口>
東京大学 生産技術研究所 広報室
Tel:03-5452-6738
E-mail:pro(末尾に"@iis.u-tokyo.ac.jp"をつけてください)
産業技術総合研究所
主任研究員 野田 朱美(のだ あけみ)
Tel:050-3521-1217
E-mail:akemi.noda(末尾に"@aist.go.jp"をつけてください)
海上保安庁 海洋情報部 企画課
Tel:03-3595-3620
E-mail:jcgh-kaiyokikaku-2x3z(末尾に"@ki.mlit.go.jp"をつけてください)
東京大学 研究