コバルトと酸素が生み出す 蜂の巣ネットワーク
次世代量子情報材料へつながる新技術
【注目の成果:共同研究・産学連携のためのチェックポイント】
![]() | 低コストな量子情報・量子コンピューティング材料開発への応用が期待 |
【産学連携対象 全学共通分野 Discovery Saga】
【持続可能な開発目標(SDGs)】
【Sagaキーワード】
コンピューティング/スーパーコンピュータ/金属元素/スピン液体/スピン軌道相互作用/パルス/バンド構造/マヨラナ粒子/低次元/物性物理/量子コンピュータ/量子スピン/量子情報/X線回折/磁化率/アンチモン/量子スピン液体/パルスレーザー/生産技術/イリジウム/遷移金属/強磁性/持続可能/持続可能な開発/二酸化チタン/半導体産業/量子コンピューティング/STEM/エピタキシャル/エピタキシャル薄膜/チタン/パルスレーザー堆積法/材料設計/酸化チタン/磁気特性/磁性材料/表面分析/コバルト/シリコン/スピン/レーザー/酸化物/第一原理/第一原理計算/電子顕微鏡/透過電子顕微鏡/二酸化炭素/半導体/微細加工/微細加工技術/結晶構造/ナトリウム/ルテニウム
2026-5-28●自然科学系産業科学研究所助教Li Haobo発表のポイント
量子技術分野への応用に向けた材料探索としてコバルトに着眼し、蜂の巣のようなハニカム構造を持つ酸素含有材料に少量のコバルトを導入することで、高品質薄膜の作製に成功。コバルトからなるハニカム構造の中で、強磁性的な秩序を発見。
地殻中に広く存在する「3d遷移金属」を用いたキタエフ材料研究を前進させる成果であり、将来的には低コストな量子情報・量子コンピューティング材料開発への応用が期待される。
発表概要
大阪大学産業科学研究所のLi Haobo助教、田中秀和教授らの研究グループは、同大学院基礎工学研究科の石渡晋太郎教授、京都大学の陰山洋教授、ファインセラミックスセンター(JFCC)の小林俊介主任研究員、南開大学のWei-Hua Wang教授、東京大学生産技術研究所の小澤孝拓助教、立命館大学のChengchao Zhong講師らと共同で、ハニカム構造を持つ既知の材料にコバルト(Co)を少量加えた「NaSbO₃(ナトリウム・アンチモン酸化物)」の高品質薄膜の作製に成功しました。さらに、その中でCo原子が蜂の巣のような「ハニカム構造」を形成し、強い磁性を示す可能性を明らかにしました(図1)。近年、量子コンピュータや量子情報技術に関連して、「キタエフ材料」と呼ばれる磁性材料が世界的に注目されています。鉄やコバルトに代表される「3d遷移金属」は、地殻中に広く存在するメリットから量子技術分野での応用が期待されるものの、特に薄膜での研究はほとんど進んでいませんでした。
本成果は、現在研究の主流であり、希少で高価なルテニウム(Ru)・イリジウム(Ir)系材料とは異なる新しいキタエフ材料探索の道を開くものであり、将来的には量子情報デバイス向け材料開発への展開が期待されます。
本研究成果は、米国科学誌 『Physical Review Materials』 に、5月22日(金)に公開されました。

図1. 既知なハニカム構造を持った酸化物の中に、Coのハニカム構造を安定させた。なお、強磁性の基底状態を発見した。
研究の背景
次世代の量子コンピュータ実現に向けて、「マヨラナ粒子」と呼ばれる粒子の探究が、世界的に注目されています。物性物理学の分野では、その実現手法の1つとして、遷移金属原子が蜂の巣状に並んだ構造において、「キタエフ量子スピン液体」と呼ばれる特殊な磁気状態を作り出す研究が進められています。これまで、RuやIrなど、強いスピン軌道相互作用を持つ4d・5d電子系材料でキタエフ相互作用の発現が報告されてきました。一方、Coやニッケル(Ni)などの3d電子系酸化物は、より多様な物性や材料設計の自由度が期待されるものの、キタエフ量子スピン液体の実現には至っていません。また、RuやIrは希少かつ高価な元素であるのに対し、CoやNiなどの3d遷移金属は地殻中に広く存在しています。このため、3d電子系材料を用いた新しいキタエフ材料の開発は、将来的な量子情報・量子コンピューティング材料の低コスト化や高機能化につながる可能性があり、物性物理学や次世代情報技術への大きな波及効果が期待されています。
研究の内容
研究グループは、パルスレーザー堆積法を用いて、二酸化チタン(TiO₂)基板上に既知なハニカム構造を持ったナトリウム・アンチモン酸化物(NaSbO₃)のエピタキシャル薄膜を合成した上で、微量のCo(4%)を導入したNaSbO₃の高品質エピタキシャル薄膜を成長させることに成功しました。走査型透過電子顕微鏡(STEM)による断面観察と表面観察により、NaSbO₃がハニカム構造の土台を提供しており、さらにその中にCoのハニカム構造が生じている可能性を提示しました(図2)。また、複数の表面分析手法を併用し、薄膜の組成を精査した結果、Coの濃度と価数が確認できました。さらに、磁化率の測定により、Co-NaSbO₃の磁気特性を確認し、強磁性構造が存在する可能性を示唆しました。加えて、第一原理計算を用いてCo-NaSbO₃の磁気特性およびバンド構造を明らかにしました。この過程で、コバルトイオン(CO₂⁺)で構成する強磁性ハニカム構造を検証しました。
今後は、Co酸化物を用いて、低次元における革新的機能の創出を目指して研究を進めていく予定です。さらに、半導体産業への応用を視野に入れ、微細加工技術を用いたシリコン基板上への薄膜合成研究を展開していきます。

図2. Co-NaSbO₃の結晶構造(左)と電子顕微鏡のTop-view観察(右)。ハニカム構造の存在が検証された。
本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)
本研究成果により、3d遷移金属元素から構成した強磁性ハニカム構造をはじめとして、未来のキタエフ材料の製造コストを大幅に低減できる可能性が示されました。従来の希少で高価な金属(Ru、Ir)の代わりに、コストが低い3d遷移金属のキタエフ材料における革新的な機能や自由な合成プロセスを実現すれば、情報産業や社会・経済などの分野で極めて高いインパクトをもたらすことが期待されます。特記事項
本研究成果は、2026年5月22日(金)(現地時間)に米国科学誌 『Physical Review Materials』 (オンライン)に掲載されました。タイトル:“Ferromagnetic-like behavior emerging from local CoO6 honeycomb motifs in Co-doped NaSbO₃ thin films”
著者名:Hao-Bo Li, Weitao Yan, Shunsuke Kobayashi, Kousuke Ooe, Takahiro Ozawa, Hidefumi Takahashi, Shintaro Ishiwata, Chengchao Zhong, Tong Zhu, Wei-Hua Wang, Hiroshi Takatsu, Hiroshi Kageyama and Hidekazu Tanaka
DOI:https://doi.org/10.1103/54cx-6r5s
本研究は、JSPS科研費 基盤研究(C)(課題番号:25K00242)および特別推進研究(課題番号:22H04914)の支援を受けて実施されました。また、本研究の一部は、文部科学省マテリアル先端リサーチインフラ事業(ARIM)(課題番号:JPMXP1225OS1027)、JST FOREST(課題番号:JPMJFR236K)、JSPS科研費 特別研究員奨励費(課題番号:22KJ3209)、JSPS科研費・基盤研究(B)(課題番号:24K00570)、およびJSPS科研費・基盤研究(S)(25H00420)の支援を受けました。また、南開大学スーパーコンピュータセンター(NKSC)の支援にも謝意を表します。X線回折測定は大阪大学産業科学研究所 総合解析センターの協力のもと実施されました。
参考URL
Li Haobo 助教 研究者総覧https://rd.iai.osaka-u.ac.jp/ja/6636cd71d4e39e0f.html
田中秀和 教授 研究者総覧
https://rd.iai.osaka-u.ac.jp/ja/965b692969a7c80b.html
SDGsの目標

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