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大阪大学 研究Discovery Saga
2026年6月1日

\mRNAで心筋梗塞後の心臓を救う/ 複数mRNA同時投与により 心筋梗塞後の難治性心不全を治療

ナノミセル型キャリアがmRNAを心臓に届ける新技

【注目の成果:共同研究・産学連携のためのチェックポイント】
複数のmRNAを組み合わせることで、心筋梗塞後の心不全のような複雑な病態に対応する新しい治療の土台となる成果
【産学連携対象 全学共通分野 Discovery Saga】
化学生物学工学総合生物医歯薬学
【持続可能な開発目標(SDGs)】
【Sagaキーワード】
ミセル/筋細胞/キャリア/持続可能/持続可能な開発/血流/iPS細胞/PDGF/ナノミセル/遺伝子発現解析/細胞外小胞/心筋/心筋細胞/発現解析/mRNA/感染症対策/心機能/心筋梗塞/心臓/新型コロナウイルス/RNA/核酸医薬/血管新生/細胞死/細胞治療/創薬/ウイルス/ワクチン/遺伝子/遺伝子発現/医師/感染症/線維化/標準化
2026-5-29●生命科学・医学系感染症総合教育研究拠点教授位髙 啓史

発表のポイント

心筋梗塞のあとに弱った心臓の回復に役立つ5つの遺伝子の組み合わせを発見。
その5つをメッセンジャーRNA(mRNA)の形でまとめて心臓に届けることで、心筋梗塞によるダメージを抑え、心臓の働きを改善し、生存率を高めることに成功。
心筋梗塞のあとに起こる心不全では、炎症、線維化、細胞死、血流の低下など、さまざまな異常が同時に進むため、1つの因子だけをねらった治療では、十分な効果を得ることが難しいという課題があった。
複数のmRNAを組み合わせることで、心筋梗塞後の心不全のような複雑な病態に対応する新しい治療の土台となる成果で、今後、心疾患に対する新しい核酸医薬や再生治療の実現につながることが期待される。

発表概要

大阪大学大学院医学系研究科 心臓血管外科の医師・伴田一真さん、河村拓史助教、宮川繁教授および、大阪大学感染症総合教育研究拠点(CiDER) 臨床生命工学チームの位髙啓史教授らによる研究チームは、心筋梗塞のあとに弱った心臓の回復に役立つ5つの遺伝子の組み合わせを見つけました。
そして、それらを新しい創薬モダリティとして注目されるmRNAとしてまとめて心臓に届けることで、心臓の働きを改善し、生存率を高められることを世界で初めて明らかにしました(図1)。
mRNAは、新型コロナウイルスワクチンでも使われた新しい創薬の技術で、クスリやワクチンとなるタンパク質をmRNAの形で投与して、目的のタンパク質を体内で産生させる仕組みで働きます。mRNAを用いることで、心筋梗塞後の心不全のように、炎症、線維化、細胞死、血流低下など複数の異常が同時に進む病気に対して、複数の治療因子を組み合わせて投与することが可能となります。
研究グループは、こうした複雑な病態に対して、これまでiPS細胞を用いた治療に取り組んできました。その治療のしくみを詳しく調べることで、心筋の回復に役立つ5つの遺伝子(Hgf, Igf1, Pdgfb, Cxcl12, Tgfb1)を見いだしました。さらに、それらをmRNAにして、位髙教授が開発した投与部位に炎症を起こさない「ナノミセル型mRNAキャリア」(図2)に包み、効率よく心臓へ届けることで、心筋梗塞によるダメージを抑え、心臓の働きや生存率を改善できることを明らかにしました。
これにより、複数のmRNAを組み合わせて複雑な病態に対応する新しい治療の土台が築かれ、今後、心疾患に対する新しいmRNA医薬、核酸医薬や再生治療の開発につながることが期待されます。
本研究成果は、国際科学誌「Small Science」に、5月23日(土)(日本時間)に公開されました。



図1. ナノミセル型キャリアを用いた複数mRNAの同時投与による心筋梗塞後の心不全治療



図2. mRNA内包ナノミセル型キャリア

研究の背景

心筋梗塞は世界で最も多い死因のひとつであり、発症後に心臓の働きが低下して心不全へ進行することが大きな課題となっています。現在、心筋梗塞の急性期には血流を早く再開させる治療が行われていますが、その後に進む心臓の傷みや機能低下を十分に防ぐ治療法は限られています。
心筋梗塞のあとには、炎症、線維化、細胞死、血流低下など、さまざまな異常が同時に進みます。そのため、1つの因子だけを標的にした治療では十分な効果が得にくく、複数のしくみに同時に働きかける新しい治療法が求められていました。
こうした中、研究グループはこれまで、iPS細胞を用いた再生治療に取り組み、その治療効果に着目してきました。特に、iPS細胞由来心筋細胞から分泌される細胞外小胞には、傷んだ心臓の回復を助ける働きがあることを明らかにしてきました。しかし、細胞治療や細胞外小胞をそのまま医療に応用するには、効果のしくみが複雑であり、誰もが受けられる治療としての標準化や実用化に課題がありました。そこで本研究では、その治療効果の背景にある遺伝子の働きを詳しく調べ、より使いやすく、設計しやすい治療法としてmRNA医薬に着目しました。
mRNAは、新型コロナウイルスワクチンでも広く知られるようになった新しい創薬技術で、必要なタンパク質を体の中で一時的につくらせることができます。設計しやすく、保存や運搬にも対応しやすい一方で、心臓に安全かつ効率よく届ける技術が必要です。そこで本研究では、心筋への局所投与に適したナノミセル型mRNAキャリアを用いて、心筋梗塞後の心不全に対する新しい多因子mRNA治療の可能性を検討しました。

研究の内容

研究グループは、これまで取り組んできたiPS細胞由来心筋細胞を用いた治療に着目し、その効果がどのようなしくみによって生まれているのかを詳しく調べました。具体的には、iPS細胞由来心筋細胞から分泌される細胞外小胞を心筋梗塞後の心不全モデルに投与し、その後の心筋でどの遺伝子が強く働くかを解析しました。その結果、心筋の回復に役立つ候補として、5つの遺伝子の組み合わせを見いだしました。
次に研究グループは、これら5つの遺伝子をそれぞれmRNAとして作製し、位髙教授らが開発してきたナノミセル型キャリアに包んで心筋へ投与しました。このナノミセル型キャリアは、mRNAを安定して保ちながら、必要な場所に効率よく届けることができる技術です。実際に、ナノミセル型キャリアを用いることで、mRNAは主に心筋細胞に届けられ、心臓の投与部位でより高く、より長く働くことが確認されました。さらに、心臓以外の臓器ではほとんど働かず、余分な影響を抑えながら心筋に届けられる可能性も示されました。
5因子mRNAをナノミセル型キャリアで心筋へ届けることで、心筋梗塞後の心不全状態にある心臓で、血管新生の促進、線維化や細胞死の抑制がみられました。その結果、心機能の改善と生存率の向上が確認されました(図3)。加えて、遺伝子発現解析から、心筋修復に関わる複数の経路が同時に調節されていることも明らかになり、複数のmRNAを組み合わせることで、より大きな治療効果が得られる可能性が示されました。
これらの結果から、本研究で開発したmRNA医薬を用いた治療法は、心筋梗塞後に起こる複雑な異常に対して、多方面から同時に働きかけることができる新しい治療であることが示されました。



図3. 5因子mRNAをナノミセル型キャリア治療における心機能と生存率評価

本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)

本研究は、心筋梗塞後の心不全のように、炎症、線維化、細胞死、血流低下など複数の異常が同時に進む病気に対して、複数のmRNAを組み合わせて治療する新しい方法を示した成果です。これまで、このような複雑な病態に対しては、1つの因子だけを標的にした治療では十分な効果が得にくいことが課題でしたが、本研究により、多方面から同時に働きかける治療の可能性が示されました。
また、本研究では、iPS細胞由来心筋細胞を用いた治療のしくみをもとに、治療に必要な因子をmRNAとして再構成することで、細胞治療研究で得られた知見を生かしながら、より標準化しやすい治療法へとつなげられる可能性が示されました。mRNA医薬は設計や製造がしやすく、品質をそろえやすいことから、将来的にはより多くの医療機関で使える治療法になることが期待されます。
さらに、この考え方は心筋梗塞後心不全にとどまらず、複数の異常が重なって進むほかの心疾患や、心臓以外の臓器の病気にも応用できる可能性があります。本研究成果は、複数のmRNAを組み合わせて複雑な病態に対応する新しい治療の土台となるものであり、今後、心疾患に対する新しいmRNA医薬・核酸医薬や再生治療だけでなく、さまざまな難治性疾患に対する治療法の開発につながることが期待されます。

特記事項

本研究成果は、2026年5月23日(土)(日本時間)に国際科学誌「Small Science」(オンライン)に掲載されました。
タイトル:“Nanomicelle-Based Multi-mRNA Delivery Promotes Cardiac Repair After Myocardial Infarction”
著者名:Kazuma Handa, Takuji Kawamura, Yasunobu Mano, Hideyuki Nakanishi, Lisa Fujimura, Chie Kawai, Akima Harada, Kosuke Torigata, Kenji Miki, Keiji Itaka, and Shigeru Miyagawa.
DOI:https://doi.org/10.1002/smsc.202500521
なお、本研究は、日本学術振興会科学研究費補助金、日本医療研究開発機構(AMED)、科学技術振興機構(JST)COI-NEXT、日本学術振興会特別研究員(DC1)、およびアクセリード株式会社などの支援のもとで行われました。
また、本研究は「日本財団・大阪大学 感染症対策プロジェクト」の一環として実施されました。

参考URL

位髙 啓史 教授
https://www.cider.osaka-u.ac.jp/researchers/keiji-itaka/
https://www.clinicalbiotech.life/
宮川 繁 教授
https://www.med.osaka-u.ac.jp/pub/surg1/about/staff/miyagawa.html

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