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大阪大学 研究Discovery Saga
2026年5月29日

塗って乾かすだけで、 過酸化水素を生成する光触媒シートが完成!

固まると半導体になる高分子光触媒を開発

【注目の成果:共同研究・産学連携のためのチェックポイント】
光触媒デバイスを用いた、低コストで大規模化可能なH₂O₂製造技術への展開に期待
【産学連携対象 全学共通分野 Discovery Saga】
環境学数物系科学化学総合理工工学
【持続可能な開発目標(SDGs)】
【Sagaキーワード】
光エネルギー/化学物質/太陽/光触媒反応/キノン/高分子/酸化重合/触媒反応/有機半導体/太陽エネルギー/太陽光/樹脂/キャリア/可視光/選択性/半導体光触媒/エネルギー消費/持続可能/省エネ/光照射/持続可能な開発/光触媒/電池/燃料電池/エタノール/ネットワーク構造/化学工学/省エネルギー/半導体
2026-5-25●工学系基礎工学研究科准教授白石 康浩

発表のポイント

水と酸素(O₂)から過酸化水素(H₂O₂)を製造する、シートなどの形に成型・加工しやすい直鎖高分子光触媒(poly23DHN)を開発
従来の有機半導体光触媒は多架橋のネットワーク構造から構成されているため溶媒に溶けず、成型・加工することは困難であった
有機溶媒に溶かしたpoly23DHN溶液を基板に滴下・乾燥させるだけで光触媒シートを作製でき、可視光照射下で安定に水とO₂からH₂O₂を製造できることを実証
光触媒デバイスを用いた、低コストで大規模化可能なH₂O₂製造技術への展開に期待

発表概要

大阪大学大学院基礎工学研究科 化学工学領域/附属太陽エネルギー化学研究センターの大学院生 吉田 光希さん(博士後期課程3年)、白石 康浩准教授、平井 隆之教授らの研究グループは、可視光照射下で水と酸素(O₂)から過酸化水素(H₂O₂)を生成する直鎖高分子poly23DHNを開発しました。この高分子は一般的な有機溶媒に溶け、水には溶けないことから、シートなど実用的な形に成型・加工することが容易です。
H₂O₂は漂白剤、消毒剤、酸化剤として広く用いられる重要な化学物質であり、燃料電池の燃料となる液体エネルギーキャリアとしても注目されています。従来のH₂O₂製造はエネルギー消費の大きなプロセスで行われますが、光触媒反応では、太陽光エネルギーにより、水とO₂からH₂O₂を合成できるため、省エネルギーな技術として期待されています。しかし、有機半導体光触媒はH₂O₂生成の選択性が高いため広く研究されていますが、多架橋のネットワーク構造をもつため溶媒には不溶であり、シート作製のための成型加工は困難でした。
今回、研究グループが開発した直鎖高分子poly23DHNは架橋の少ない直鎖高分子であるため、一般的な有機溶媒には溶けます。しかし、水には溶けず、水素結合πスタッキングにより、自発的に半導体固体となります。この懸濁溶液に対してO₂存在下で可視光を照射すると効率よくH₂O₂が生成することを見出しました。
また、poly23DHNを溶かした有機溶媒を基板に滴下して乾燥させる簡単な操作により、光触媒シートを作製することが可能です。このシートを水中に置いて光を照射することにより、純粋なH₂O₂溶液を回収することができます。
本研究成果により、光触媒デバイスを用いた、低コストで大規模化可能なH₂O₂製造技術への展開が期待されます。
本研究成果は、ドイツ化学誌「Angewandte Chemie International Edition」に、5月25日(月)13時(日本時間)に公開されました。



図1. poly23DHNの溶媒中における構造
poly23DHNは水には溶けず、水素結合とπスタッキングにより半導体固体となる。

研究の背景

H₂O₂は、漂白剤、消毒剤、酸化剤として重要な化学物質であるほか、燃料電池の燃料となる液体エネルギーキャリアとしても注目されています。しかし、従来のH₂O₂製造はエネルギー消費の大きなプロセスで行われており、省エネルギーなH₂O₂合成技術の開発が求められています。
光触媒反応では、太陽光エネルギーにより水とO₂からH₂O₂を合成する(H₂O + 1/2O₂ → H₂O₂)ことが可能です。特に、有機半導体光触媒はH₂O₂生成の選択性が高いため、有望な光触媒材料として盛んに開発が進められています。H₂O₂製造技術の実用化に向けては、従来、粉末として用いられる光触媒を、回収・再利用しやすいシートなどの形に成型・加工して用いる必要があります。しかし、従来の有機半導体粉末は、多架橋のネットワーク構造をもつため溶媒には不溶であり、成型加工することは困難でした。そのため、成型加工しやすい新しい有機半導体が求められていました。

研究の内容

本研究では、“有機溶媒に溶ける半導体固体”の開発に取り組みました。まず、安価な23DHNを常温・常圧下で酸化重合して、直鎖高分子poly23DHN粉末を合成しました。poly23DHNは、図1aのように、ヒドロキノン体とキノン体がランダムに連なった構造をもちます。poly23DHNは直鎖高分子であるため、アセトンやエタノールなどの一般的な有機溶媒に溶けます。しかし、水には溶けず、図1bのように、ヒドロキノン体とキノン体が水素結合とπスタッキングにより集積し、自発的に半導体固体となります。
図2aに示すように、poly23DHN粉末を水に分散させ、O₂存在下で可視光を照射すると、効率よくH₂O₂が生成されます。図1bのように形成された半導体固体は、光を吸収することによりスタッキング方向と直鎖方向に電子を輸送するため、結果として、水の酸化(2H₂O → O₂ + 4H⁺ + 4e⁻, 2H₂O → H₂O₂ + 2H⁺ + 2e⁻)とO₂の還元(O₂ + 2H⁺ + 2e⁻ → H₂O₂)が進み、H₂O₂を生成します。一方、図2bのように、poly23DHN粉末をアセトニトリルと水の混合溶媒に溶かして光照射を行うとH₂O₂はほとんど生成しません。これは、図1aに示すように、溶媒に溶けることによりヒドロキノン体とキノン体が集積せず、半導体ではなくなるためです。一方、この溶液から溶媒を蒸発させ、回収したpoly23DHN粉末を再び水に分散させて光照射を行うと、図2cに示すようにH₂O₂が生成します。したがって、poly23DHNは不溶化により半導体構造を自発的に形成させることが分かります。
図3に示すように、poly23DHNを溶かした有機溶液をガラスや綿布などの基板に滴下して、室温下で乾燥させる簡単な操作により、光触媒シートを作製できます。この光触媒シートを水に浸け、O₂存在下で光を照射すると、poly23DHNは剝がれることなく、H₂O₂を継続的に生成することが分かりました。シートを取り除けば、純粋なH₂O₂溶液を取り出せます。このような、“塗って乾かす”簡単な操作により安定な光触媒シートを作製できることを実験的に確認することができました。



図2. poly23DHNを異なる溶媒に加えて光を照射した場合のH₂O₂生成量の変化
溶媒(30 mL)にpoly23DHN(50 mg)を加え、O₂存在下で光照射(6 h)を行っている。



図3. poly23DHN光触媒シートの作製とH₂O₂生成
基板にpoly23DHN溶液(酢酸エチル)を滴下し、乾燥させて光触媒シートを作製する。右のデータは、シートを水に浸けてO₂存在下で光照射した場合のH₂O₂生成量の変化。

本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)

本研究成果により、有機溶媒に溶ける“水中で光触媒としてはたらく高分子半導体”を初めて開発しました。本高分子を溶かした溶液を基板に塗って乾かすだけで簡単に光触媒シートを作製できます。この光触媒シートを水に浸けて光を当てれば、H₂O₂が安定的に生成するとともに、シートを取り出すだけで純粋なH₂O₂溶液を回収できます。この方法を発展させることにより、太陽光エネルギーを利用したH₂O₂製造技術の低コスト化および大規模化が期待できます。

特記事項

本研究成果は、ドイツ化学誌「Angewandte Chemie International Edition」に、5月25日(月)13時(日本時間)に公開されました。
タイトル:“Photocatalytic Solar Hydrogen Peroxide Production on Donor+Acceptor Linear Polymer Semiconductor Powders Reconfigurable by H-Bonding and p-Stacking Interactions”
著者名:Koki Yoshida, Yasuhiro Shiraishi, Satoshi Ichikawa, Shunsuke Tanaka, and Takayuki Hirai
DOI: 10.1002/anie.1682982
なお、本研究は、科学研究費助成事業(基盤研究B)「水と空気から過酸化水素を合成する疎水性半導体樹脂と有機/水光触媒反応系の創出」(研究代表者:白石康浩)の支援により実施されました。

参考URL

白石康浩 准教授 研究者総覧
https://rd.iai.osaka-u.ac.jp/ja/f7482bda1ee072b7.html

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