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岐阜薬科大学 研究Discovery Saga
2026年5月21日

早産・超早産児における後天性サイトメガロウイルス感染のリスク因子:新たな感染経路と母体免疫の「質」が防御の鍵

【産学連携対象 全学共通分野 Discovery Saga】
生物学総合生物農学医歯薬学
【Sagaキーワード】
神経系/神経発達/感染防御/中枢神経/中枢神経系/ステロイド/ファージ/マクロファージ/医薬品開発/好中球/敗血症/免疫細胞/ウイルス/コホート/リスク因子/抗体/周産期/小児/新生児/前向きコホート研究/早産児/臓器移植/脳波/分娩/母乳

研究教育成果

研究の概要

在胎28週以下の早産児・超早産児にとって、後天性サイトメガロウイルス(pCMV)感染は、敗血症様症状や神経学的後遺症を招く深刻なリスク因子です。本研究は、多施設共同前向きコホート研究(TOCAI Study)により、pCMV感染の新たなリスク因子と母体免疫の役割を詳細に解析しました。その結果、従来注目されていた「中和抗体」の量ではなく、抗体が免疫細胞を介してウイルスを排除する「ADCP(抗体依存性細胞貪食)」という免疫の「質」が低い場合に、児の感染リスクが有意に高まることが明らかになりました。また、長期の前期破水(PROM)が感染に関連していることから、母乳のみならず分娩時の感染経路の重要性も示唆されました。本成果は、高リスク児の早期特定や新たな予防戦略の構築に直結する重要な知見です。
本研究は、以下の研究グループによる多施設共同研究(Tokai Observational Study for CMV Assessment In Neonates, TOCAI Study)として実施されました。
日赤名古屋第一病院 小児科 副部長 杉山 裕一朗
名古屋大学附属病院 小児科 講師 鳥居 ゆか
名古屋大学医学部附属病院 総合周産期母子医療センター 新生児部門 病院助教 田中 龍一
安生更生病院 小児医療センター長 鈴木 道雄
岐阜薬科大学 感染制御学研究室 教授 腰塚 哲朗
 
本研究は、2026年5月9日付、Journal of Infectious Diseases誌のEditor's Choiceに選ばれました。

背景:早産児を脅かす後天性CMV感染のリスク

サイトメガロウイルス(CMV)は多くの健常者に感染しているウイルスです。通常は目立った病気の原因となりませんが、在胎28週以下の早産児が母乳などを介して後天性感染(pCMV感染)すると、敗血症様症状や好中球減少、さらには神経発達への悪影響を及ぼす懸念があります。本研究チームは、東海地方の医療機関と協力し、139例の早産児を対象とした前向きコホート研究(TOCAI Study)を実施しました。 

発見1:抗体の「量」より「質」が防御の要

本研究の最も画期的な発見は、IgG抗体のエフェクター機能の一つ「ADCP(抗体依存性細胞貪食)」のpCMV感染における重要性を解明した点にあります。 
従来、感染防御の指標と考えられてきた中和抗体価は、感染例と非感染例の母体間で有意な差が認められませんでした。一方で、抗体の機能的特長である「ADCP活性(抗体依存性細胞貪食)」は、感染例の母体で有意に低いことが分かりました(図1)。 
これは、単に抗体が存在するだけでなく、マクロファージ等の免疫細胞にウイルスを効率よく排除させる「質の高い抗体」を母体が持っているかどうかが、児を守る決定的な因子であることを示しています。


発見2:母乳以外のルートとリスク因子の特定

pCMV感染は主に母乳からとされますが、解析の結果、1週間を超える「長期の前期破水(PROM)」が強いリスク因子として浮上しました(表1)。これは分娩過程における感染の可能性を示唆しています。


発見3:臨床症状と脳への影響

pCMV感染児では、ウイルス血症の時期と一致して好中球減少が頻繁に観察されました。加えて、脳波の異常が高頻度に確認されました。これは、非常に未熟な時期の感染が中枢神経系に影響を及ぼしている可能性を示しており、長期的な発達フォローアップの重要性を裏付けています。

本研究成果の社会的意義と今後の展望

研究の結果、早産児のpCMV感染に関する新たなリスク因子が同定できました。本成果により、母体のADCP活性や分娩状況に基づいたハイリスク児を事前に特定することが可能になります。また、新たな予防法や治療法、医薬品開発にもつながります。
私たちは、今後も幼い命を守るための研究を推進していきます。

【謝辞】

本研究の実施にあたり、貴重な検体をご提供いただいた研究参加者の皆様に深く感謝申し上げます。
本研究は、AMEDの支援を受けて実施されました。感謝申し上げます。

用語説明

サイトメガロウイルス(Cytomegalovirus, CMV) 小児期に無症候性に感染し、感染後は一生涯体内に潜伏するウイルスで、成人の約7割が保有しているが病気の原因とはならない。一方で、臓器移植時の再活性化や先天性感染が大きな問題となる。
ADCP (抗体依存性細胞貪食): 抗体を「目印」として免疫細胞がウイルスを攻撃する仕組み。
PROM (前期破水): 陣痛前に羊膜が破れること。早産例では児の呼吸機能改善のためステロイド投与が行われることもある。

論文情報

雑誌名:The Journal of Infectious Diseases
論文題目:Postnatal Cytomegalovirus Infection in Preterm Infants ≤28 Weeks: Maternal IgG Effector Function, Risk Factors, Viral Kinetics in Relation to Symptom Onset, and Clinical Outcomes in a Prospective Multicenter Study
著者:Yuichiro Sugiyama, Juri Koizumi, Hiroki Kondo, Keita Takahashi, Ryuichi Tanaka, Michio Suzuki, Takako Suzuki, Tetsuo Hattori, Makoto Oshiro, Yoshiaki Sato, Masahiro Hayakawa, Yoshinori Ito, Yuka Torii, and Tetsuo Koshizuka. On behalf of TOCAI study
論文URL:https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/42103312/
DOI番号:10.1093/infdis/jiag259