卵巣がんDNA搭載細胞外小胞を用いた新規リキッドバイオプシー法を開発
~早期診断補助およびPARP阻害薬の治療反応予測への応用に期待~
【注目の成果:共同研究・産学連携のためのチェックポイント】
![]() | 体液中EV-DNAを用いた低侵襲リキッドバイオプシーとして、卵巣がんの診断補助および個別化医療への応用が期待 |
【産学連携対象 全学共通分野 Discovery Saga】
【Sagaキーワード】
プロファイル/ゲノムDNA/微小液滴/ゲノム情報/DNA修復/悪性度/遺伝子解析/個別化治療/細胞外小胞/早期診断/卵巣/臨床応用/リキッドバイオプシー/分子標的/卵巣がん/悪性腫瘍/PCR/RNA/がん治療/血液/生理活性/生理活性物質/がん患者/ゲノム/バイオマーカー/遺伝子/遺伝子変異/個別化医療/低侵襲/分子標的薬/臨床研究

医歯薬学
2026.05.20
研究のポイント
・卵巣がん患者の腹水中では、良性卵巣腫瘍と比較して細胞外小胞(EV)由来DNA量が有意に増加することを発見した・腹水細胞診が陰性の卵巣がん患者でもEV-DNA量が増加しており、診断補助バイオマーカーとなる可能性を示した
・腹水由来EV-DNAが腫瘍組織のコピー数異常(CNV)を高精度に反映することを明らかにした
・droplet digital PCRを用いた標的遺伝子のCNV解析により、PARP阻害薬への治療反応性予測に成功した
・体液中EV-DNAを用いた低侵襲リキッドバイオプシーとして、卵巣がんの診断補助および個別化医療への応用が期待される
名古屋大学大学院医学系研究科産婦人科学の植草良輔 客員研究者、医学部附属病院産科婦人科の横井暁 講師(同大学高等研究院兼務)、および大学院医学系研究科産婦人科学の梶山広明 教授らの研究グループは、高異型度漿液性卵巣がん(high-grade serous ovarian carcinoma: HGSOC)患者の腹水中に存在する細胞外小胞(Extracellular vesicles: EV)※1由来DNA(EV-DNA)を解析することで、卵巣がんにおける診断補助および治療反応性予測に有用な新たなリキッドバイオプシー法を開発しました。
卵巣がんは婦人科悪性腫瘍の中でも予後不良ながんであり、多くの症例が進行期で発見されます。特に高悪性度漿液性卵巣がんでは、遺伝子変異だけでなく、ゲノムのコピー数異常(Copy number variation: CNV)※2が高頻度に認められます。しかし、腫瘍組織を十分に採取できない症例や、既存の検査のみでは診断や治療選択が難しい症例もあり、体液を用いて低侵襲に腫瘍情報を取得できる新たなバイオマーカーの開発が求められていました。
本研究では、卵巣がん患者および良性卵巣腫瘍患者の腹水からEVを分離し、EV-DNA量およびCNVプロファイルを解析しました。その結果、卵巣がん患者の腹水ではEV-DNA量が有意に増加していることを明らかにしました。さらに、腹水中EV-DNAが卵巣がんの早い段階から増加している可能性が示されました。この結果から、腹水EV-DNAは卵巣がんの診断補助バイオマーカーとして応用できる可能性があります。
さらに、腹水由来EV-DNAのCNVプロファイルは腫瘍組織DNAのCNVプロファイルを高い精度で反映しており、従来のcell-free DNAと比較して、より豊富な腫瘍関連ゲノム情報を含むことが示されました。また、臨床応用を見据えたdroplet digital PCR(ddPCR)※3による標的遺伝子解析により、ARID1A、NOTCH3、CSMD3、ELP4、BARD1の5遺伝子CNVシグネチャーが、PARP阻害薬※4であるオラパリブへの治療反応性を高精度に予測できることを見出しました。
本研究成果は、体液中EV-DNAを用いた低侵襲リキッドバイオプシーにより、卵巣がんの診断補助および個別化治療の実現に貢献することが期待されます。今後、より大規模な前向き臨床研究を通して、本手法の臨床有用性を検証していく予定です。
本研究成果は、2026年5月16日付で国際学術誌「Journal of Extracellular Vesicles」に掲載されました。
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用語説明
※1 細胞外小胞(Extracellular vesicles: EV)細胞から分泌される小さな膜小胞です。DNA、RNA、タンパク質など様々な生理活性物質を含み、細胞間の情報伝達に関与します。血液や尿、腹水などあらゆる体液中に存在します。
※2 コピー数異常(Copy number variation: CNV)
ゲノムDNAの一部が通常より多く存在する「増幅」や、少なくなる「欠失」などの異常を指します。高悪性度漿液性卵巣がんではCNVが高頻度に認められ、がんの性質や治療反応性に関係すると考えられています。
※3 droplet digital PCR(ddPCR)
DNAを多数の微小液滴に分け、それぞれの液滴内でPCR反応を行う高感度なDNA解析技術です。少量のDNAでもコピー数を高精度に測定することができます。
※4 PARP阻害薬
DNA修復に関わるPARPという酵素を阻害する分子標的薬です。BRCA遺伝子変異や相同組換え修復異常を有する卵巣がんなどで有効性が示されており、卵巣がん治療における重要な薬剤です。
論文情報
雑誌名:Journal of Extracellular Vesicles論文タイトル:DNA copy number profiling in extracellular vesicles as clinical biomarkers of high-grade serous ovarian carcinoma
著者:Ryosuke Uekusa, Akira Yokoi, Hiroaki Kajiyama, et al.
DOI:10.1002/jev2.70308
URL:https://doi.org/10.1002/jev2.70308
研究代表者
大学院医学系研究科 産婦人科 横井 暁 講師・梶山 広明 教授https://nagoya-u-obgy.jp/
名古屋大学 研究