「イメージの多様性」は年代によって異なる
―若い人ほど,イメージが浮かばない(アファンタジア)割合が高くなる―
【産学連携対象 全学共通分野 Discovery Saga】
【Sagaキーワード】
掲載日:2026.05.19
福島大学
山形大学
広島大学
概要
みなさんは“バナナをイメージしてください”と言われたとき,頭のなかでバナナが見えますか? このことを心理学では「(心的)イメージ」と呼んでいます。最近,このイメージが浮かばない(見えない)特質―アファンタジア(aphantasia: Zeman et al., 2015)―が知られるようになってきました。これまで,国内では福島大学を中心とする研究チームによって取り組んできました。今回,アファンタジア研究として新たな知見が得られましたので,その成果をご報告いたします。
アファンタジアの出現率は年代(20~70歳代)によって変化し(0.7~4.5%),特に20・30歳代における出現率が高い(3.6~4.5%)
20・30歳代では「多感覚アファンタジア(全ての感覚イメージが浮かばない)」や「視覚アファンタジア(視覚イメージが特異的に浮かばない)」などのサブタイプが抽出されるが,年代が上がると抽出されにくくなる
以上の結果から,年代に応じてアファンタジアの出現率が変化することがわかります。アファンタジアは多様な認知スタイルの一種であり,私たちは,“認知には多様性が存在する”ということをあらためて理解すべきです。
この研究成果は『Neuropsychologia』誌に掲載されています。みなさまにアファンタジアの存在を知っていただきたく,ご報告いたします。
研究成果のポイント

▲図1. アファンタジアの人はイメージが浮かびにくい
年代によるアファンタジアの「出現率」と「サブタイプ」の違いを検討するために,20~70歳代の約2,500名を分析対象とした大規模調査を実施しました。
出現率:40~70歳代(0.8~1.7%)に比べて,20・30歳代(3.6~4.5%)の方が,アファンタジアの出現率が高い結果となりました。
サブタイプ:20・30歳代では「多感覚アファンタジア」や「視覚アファンタジア」のサブタイプが抽出された一方で,40~70歳代ではサブタイプは確認できませんでした。
年代によってどのようにイメージ能力が変化していくか(発達的変化),に関しては縦断的検討などもふまえて今後も検討が必要です。
研究の背景
目の前にはない物や人の顔を頭のなかで思い浮かべることを心理学では「(心的)イメージ」と呼んでいます。ここ10年ほどでイメージを思い浮かべられない特質が報告されるようになり,これをアファンタジア(aphantasia:Zeman et al., 2015)と呼んでいます。研究が進むなかで,アファンタジアの認知特性などが明らかになりつつあります。一方で,アファンタジアの同定方法や出現率・サブタイプの存在など,研究の根幹にかかわる部分については,未だに不明な点が多々あります。特に,アファンタジアの出現率が年代に応じてどのように分布しているのか,それは発達的に変化するのかなどは,社会におけるアファンタジアの理解を進めるうえで重要なデータとなります。これらを明らかにするため,私たちは社会人を対象とした大規模調査を実施しました。
研究の手法
調査参加者 オンライン・サンプリングによるweb調査を行いました。調査参加者は20~70歳代の社会人であり,分析対象者は2,558名(男性1,184名,女性1,374名)でした。本研究の実施については,福島大学研究倫理委員会の審査を経ています(2021-01)。
質問紙 【アファンタジアの出現率】 アファンタジアかどうかを同定する質問紙として,視覚イメージ鮮明性質問紙(VVIQ: Marks, 1973)を用いました。これは先行研究(Dance et al., 2022;Zeman et al., 2015)でも用いられている基準となります。質問項目には,たとえば“よく会っている親戚とか友人の顔や頭,肩,体の正確な輪郭”や“木や山や湖のある風景の木々の色と形”などについてイメージして,その鮮明度について評定を行うものがありました。評定は,それぞれ5段階(1:全くイメージがわかない~5:完全に明瞭)で求めました。このような質問を16項目設定し,その評定点を合計してアファンタジアに該当するかどうかの基準として用いました(合計点は16点~80点の範囲)。
【アファンタジアのサブタイプ】 多感覚イメージについても着目し,イメージ質問紙(QMI:Betts, 1909;Sheehan, 1967)を用いました。質問項目には,たとえば“機関車の汽笛(聴覚イメージ)”や“木綿の布地(触覚イメージ)”などがありました。視覚,聴覚,触覚,運動感覚,味覚,嗅覚,有機感覚(内臓感覚)の7つについて,それぞれ5項目が設定されました(合計で35項目)。評定は,それぞれ7段階(1:全くイメージがわかない~7:完全に明瞭)で求めました。
研究の成果
【出現率】 アファンタジアの同定基準(VVIQ ≦23:Zeman et al., 2020)をもとに,分析対象者のVVIQ評定点を用いて出現率を算出したところ,3.6%(20歳代),4.5%(30歳代),1.7%(40歳代),1.7%(50歳代),0.7%(60歳代),0.8%(70歳代)となりました。つまり,20・30歳代(3.6~4.5%)の方がその他の40~70歳代(0.8~1.7%)よりも出現率が高い結果でした(図2)。【サブタイプ】 各年代のQMI評定点を用いてクラスター分析を行うことで,多感覚アファンタジアや視覚アファンタジアなどのサブタイプがどの程度存在しているか,そして年代による違いがあるかどうかを検討しました。結果として,20・30歳代では多感覚アファンタジアや視覚アファンタジアが抽出されましたが,その他の40~70歳代では確認できませんでした(図3)。

▲図2. 各年代におけるVVIQの平均評定値(棒グラフ)およびアファンタジアの出現率(折れ線グラフ)。赤枠の範囲が他の年代よりもアファンタジアの出現率が高い。
※ 本報告用にグラフを作り変えています。

▲図3. 多感覚イメージに関するサブタイプの分析(例として,20歳代(a)と70歳代(b)の結果)。20歳代(a)では多感覚アファンタジア(クラスター1)と視覚アファンタジア(クラスター2)が明確に抽出されたが,70歳代(b)でははっきりしない結果であった。
※ 本報告用にグラフを作り変えています。
研究の意義
これまでも,海外の研究(Dance et al., 2022)や国内の私たちの研究(Takahashi et al., 2023)によって,アファンタジアの出現率やサブタイプの存在については報告されてきました。特に私たちの研究(Takahashi et al., 2023)から,サブタイプとして「多感覚アファンタジア」と「視覚アファンタジア」などの存在が明らかとなってきました。このことから,イメージが浮かびにくいアファンタジアの人たちが一定数存在していること,そこには様々なタイプも存在していることがわかります。さらに本研究により,その出現率は年代によって変化することが明らかとなりました。年代によるアファンタジアの出現率の違いが見られたことは,アファンタジア研究,特にアファンタジアを同定するための基礎データの蓄積に貢献できます。また,今後のアファンタジア研究を展開するうえで,どのような人たちをアファンタジアと定義できるか,その研究法にも寄与するものと考えられます。結果として,アファンタジアの特性解明が進み,社会におけるアファンタジアの理解促進につながるものと期待できます。
今後の課題
本研究の限界として,なぜ20・30歳代でアファンタジアの出現率が高くなったのか,そのメカニズムについては十分に説明できていません。たとえば,質問紙における「イメージ評定」に関する意識の個人差が影響したかもしれません(若い人ほど評定がシビアになる,など)。あるいは,イメージ形成には発達的変化があるのかもしれません(数年間の縦断的方法によって解明できるかもしれません)。継続した調査研究が必要であり,今後も信頼性・妥当性のあるアファンタジアの同定方法を追究していきます。背景
【タイトル】Age differences in visual and multisensory imagery: Notes on distributions of aphantasia and hyperphantasia in individuals aged 20s–70s.
年代における視覚イメージおよび多感覚イメージの違い:20―70歳代におけるアファンタジアとハイパー・ファンタジアの出現率の違い
【著 者】 Takahashi, J.,Omura, K., and Sugimura, S.
【所 属】 髙橋 純一(福島大学)
大村 一史(山形大学)
杉村伸一郎(広島大学)
【掲載誌】 Neuropsychologia
【公開日】 2026年3月12日付けでオンライン公開
【DOI】https://doi.org/10.1016/j.neuropsychologia.2026.109433
参考リンク
教育学部研究者情報-大村 一史 教授
アファンタジア研究情報サイト
山形大学 研究