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東京大学 研究Discovery Saga
2026年5月14日

海洋生態系において加速する温暖レジームシフト

【産学連携対象 全学共通分野 Discovery Saga】
環境学数物系科学工学農学医歯薬学
【Sagaキーワード】
酸素濃度/温室効果ガス/海洋/環境変動/地球温暖化/温室効果/海面水温/気候モデル/持続可能/シナリオ/海洋環境/持続可能性/海洋生物/生態系/温暖化/海洋生態/海洋生態系/資源管理/生物資源/将来予測

2026年5月13日
東京大学

研究の成果

要約版PDF

発表のポイント

◆世界の主要な海洋生態系において、過去150年間に海面水温レジームシフトの頻度と振幅が130~140%増加し、北半球で特に顕著になっていることがわかった。
◆人為起源の温室効果ガスによる温暖化が、急激な温暖期へのレジームシフトを強化し、寒冷期へのレジームシフトを抑制していると結論付けられた。
◆温室効果ガスの排出を削減しなければ、21世紀後半までに現在より130~180%レジームシフトの発生頻度が増加すると予測された。



レジームシフトの頻度と振幅の増加と温暖レジームの強化

発表概要

東京大学大気海洋研究所のGao Zihui外国人研究員、Xing Qinwang日本学術振興会外国人特別研究員、伊藤進一教授らを中心とする研究チームは、全世界の主要な海洋生態系において、過去150年間に発生した海面水温のレジームシフト(注1)の発生頻度と振幅を調べ、レジームシフトの発生頻度、振幅とも増加していることが明らかとなりました。
レジームシフトの発生頻度と振幅は、特に温暖期へのレジームシフトで顕著に生じているとともに、北半球でより顕著に生じていることがわかりました。また、気候モデルの出力結果を解析した結果、人為起源の温室効果ガスによる地球温暖化が温暖期へのレジームシフトの強化と寒冷期へのレジームシフトの抑制をしていることが示されました。将来予測においても、温室効果ガスの排出抑制を進めない限り、温暖期へのレジームシフトの強化は継続すると予想されました。
持続可能な水産業のためには、加速する温暖期へのレジームシフトへの対応を考慮した資源管理が必要となります。

発表内容

海洋においては、水温などの海洋環境が数十年間隔で急激に変化し、海洋生物の生息数や分布が異なった状態(レジーム)に移行してしまうレジームシフトと呼ばれる現象が存在します。例えば、寒冷期であった1980年代には400万トンをこえる漁獲量があったマイワシが、1990年代の温暖期には急激に減少し、2000年代には3万トン弱となりました。レジームシフトは、大洋規模の環境変動を伴うため、大洋規模の海面水温などを用いた研究は多くなされてきましたが、生物活動が盛んな主要海洋生態系において、レジームシフトの頻度や振幅がどのように変化しているのか実態は把握できていませんでした。本研究では、海面水温の観測データと気候モデル出力データを用いて、全世界の主要な海洋生態系におけるレジームシフトの頻度と振幅を調べました。さらに、気候モデルの将来予測結果を解析し、レジームシフトが将来どのように変化するのかを調べました。
全世界の66の主要な海洋生態系(全世界の22%の面積において80%以上の漁獲を生産)において、1870~2019年の150年間に起きたレジームシフトの回数と振幅を調べ、区間を1870~1919年(産業革命前後)、1920~1969年(温暖化初期)、1970~2019年(温暖化期)の3つの50年間にわけて比較をしました。その結果、1870~1919年では全海洋生態系で平均0.81回レジームシフトが発生し、その振幅は平均で0.18℃であったのに対し、1970~2019年では平均1.96回発生し振幅は平均0.42℃だったことがわかりました。つまり、発生頻度および振幅は130~140%増加していました(図1)。そして北半球で増加が顕著でした。


図1:全世界の主要な海洋生態系におけるレジームシフトの発生頻度と振幅の変化
全世界の66の主要な海洋生態系における1870~1919年の50年間と1970~2019年の50年間の間でのレジームシフトの発生頻度(左)と振幅(右)の変化。赤色は増加を青色は減少を示す。頻度は50年間に生じたレジームシフトの回数を示す。地図上の各海洋生態系内の数字は通し番号。Xing, Gao et al. (2026, Nature Communications)より。
寒冷期へのレジームシフトと温暖期へのレジームシフトをわけて評価すると、寒冷期へのレジームシフトは1870~1919年の平均0.6回から1970~2019年の平均0.1回に減少しているのに対し、温暖期へのレジームシフトは0.2回から1.8回に増加していました。振幅も、寒冷期へのレジームシフトは変化がなかったのに対し、温暖期へのレジームシフトでは0.32℃から0.40℃に増加していました(図2)。また、温暖化効果ガスを考慮した気候モデルの過去再現実験では、同様の温暖期へのレジームシフトの強化が現れるのに対し、温暖化効果ガスの効果を考慮しない気候モデルでは強化されず、人為起源の温室効果ガスによる地球温暖化が、急激な温暖期へのレジームシフトを強化し、寒冷期へのレジームシフトを抑制していると結論付けられました。


図2:全世界の主要な海洋生態系における温暖期と寒冷期へのレジームシフトの振幅の変化
全世界の66の主要な海洋生態系における1870~1919年の50年間と1970~2019年の50年間の間での温暖期へのレジームシフト(左)と寒冷期へのレジームシフト(右)の振幅の変化。赤色は増加を、青色は減少を示す。地図上の各海洋生態系内の数字は通し番号。Xing, Gao et al. (2026, Nature Communications)より。
19の気候モデルの将来予測結果を解析した結果、温室効果ガスの排出が多いままのシナリオでは、2051~2100年の50年間におけるレジームシフトの頻度と振幅は、1951~2000年の50年間に比較して、頻度が130~180%増加し、振幅も20~40%増加することが示され、今後もレジームシフトの強化が継続することが予想されました(図3)。一方、温室効果ガスの排出を強く抑制したシナリオでは、レジームシフトの頻度と振幅に変化がなく、人為起源の温室効果ガスによる地球温暖化が、レジームシフトの強化の原因であることが推定されました。


図3:全世界の主要な海洋生態系におけるレジームシフトの発生頻度の将来予測
19の気候モデルの将来予測結果から推測した全世界の66の主要な海洋生態系における1951~2000年の50年間と2051~2100年の50年間の間でのレジームシフトの発生頻度の変化。赤色は増加を青色は減少を示す。頻度は50年間に生じたレジームシフトの回数を示す。地図上の各海洋生態系内の数字は通し番号。Xing, Gao et al. (2026, Nature Communications)より。
本研究により、地球温暖化の影響でレジームシフト、特に温暖期へのレジームシフトの頻度と振幅が増加していることが明らかになりました。レジームシフトの強化は海水中の酸素濃度でも確認でき、海洋生態系への影響が危惧されます。持続可能な水産業の確立には、加速する温暖期へのレジームシフトを考慮した資源管理が求められます。

発表者・研究者等情報

東京大学
 大気海洋研究所海洋生物資源部門
Gao Zihui(ガオ ジヒュイ) 外国人研究員(上海海洋大学)
Xing Qinwang(シン チンワン) 日本学術振興会外国人特別研究員(上海海洋大学)
伊藤 進一 教授

論文情報

雑誌名:Nature Communications
題 名:Human-induced intensification of sea surface temperature regime shifts threatens global large marine ecosystems(2026年5月7日付)
著者名:Xing Q., Gao Z., Ito S., Yu H., Yu, W., Chen X.
DOI: 10.1038/s41467-026-70986-z
URL:https://doi.org/10.1038/s41467-026-70986-z

研究助成

本研究は、科研費 学術変革領域研究(A) 「ハビタブル日本 - 島嶼国日本の生存基盤をなす大気・海洋環境の持続可能性」公募研究「A01-K106魚類成長-回遊モデルを用いた2010年代における魚類の体重減少原因の解明(課題番号:JP25H02072)」の支援により実施されました。

用語解説

(注1)レジームシフト
水温などの海洋環境が数十年間隔で急激に変化し、海洋生物の生息数や分布が異なった状態(レジーム)に移行してしまう現象

問い合わせ先

東京大学大気海洋研究所 海洋生命システム研究系 海洋生物資源部門
教授 伊藤 進一(いとう しんいち)
E-mail:goito◎aori.u-tokyo.ac.jp※アドレスの「◎」は「@」に変換してください