暗記のコツは「吐く息後半」だった
―覚えるときと答えるときの呼吸タイミングがそろうと、回答スピードが向上―
【注目の成果:共同研究・産学連携のためのチェックポイント】
![]() | 机上の筆記テストにとどまらず、英語のリスニング対策、日常生活における物忘れ対策、スポーツのパフォーマンス、ダンスの振り付け、ドライビング技術の向上など、さまざまな分野への応用が期待 |
【産学連携対象 全学共通分野 Discovery Saga】
【Sagaキーワード】
ノンパラメトリック/予測誤差/時系列モデル/テクスト/反応速度/遺伝子改変/生体内/抑制性ニューロン/チャネルロドプシン/ニューロン/スポーツ/パフォーマンス/日常生活/反応時間/光遺伝学/イミン/マウス/ロドプシン/遺伝子改変マウス/神経科学/遺伝学/遺伝子/生理学/認知機能
プレスリリース
2026年5月12日
概要
兵庫医科大学(所在地:兵庫県西宮市、学長:鈴木 敬一郎)医学部 生理学生体機能部門 助教 中村 望、関西学院大学(所在地:兵庫県西宮市、学長:森 康俊)生命環境学部 教授 吉野 公三、自然科学研究機構 生理学研究所(所在地:愛知県岡崎市、所長:伊佐 正)特任教授 福永 雅喜らの研究グループは、テストで答えるスピードが「その内容を覚えたときの呼吸のタイミング」に左右されることを初めて明らかにしました。本研究成果に関する論文は、2026年4月25日に、国際学術誌「Scientific Reports」の電子版に掲載されました。タイトルは、「Respiratory phase alignment across memory encoding and retrieval improves task efficiency」です。(DOI:https://doi.org/10.1038/s41598-026-50236-4)

図1 回答スピードが最も速くなったのは、覚えるときと答えるときの両方で、呼吸のタイミングが息を吐く後半の場合であった。
研究のポイント
-
テストで答えるときの呼吸のタイミングが息を吐く後半の場合、回答スピードは最も速くなった。
回答するときの呼吸のタイミングが、たとえ息を吐く後半であっても、覚えるタイミングが息を吸う瞬間(または息を吸う前半)だった場合は、回答スピードは著しく遅くなった。
それに対して、覚えるときの呼吸のタイミングが息を吐く後半であった場合は、回答スピードは速くなった。従って、テストで最も早く答えられるのは、覚えるときと答えるときの両方で、呼吸のタイミングが息を吐く後半となる場合であった(図1)。
声を出して英単語や詩を覚える行為は、息を吐く後半に記憶することにつながるため効果が高く、理に適っているといえる。
研究背景
せっかく覚えていたのに、テスト時間内に答えられず悔しい思いをした――そのような経験は、誰しも少なからずあるのではないでしょうか。回答したり思い出したりする速さは、テストの成績に大きく影響を及ぼします。一方、課題内容の暗記の仕方も当然ながら成績に大きく影響を与えます。記憶は「覚えるステージ」「定着させるステージ」「思い出すステージ」の3つのステージから成り立ちます。これまで私たちの研究グループは、「覚えるステージ」における呼吸の効果に注目し、そのときの呼吸の仕方が、直接記憶力を強化させたり悪化させたりすることを、遺伝子改変マウス(※1)と光遺伝学(※2)を用いた脳研究より明らかにしました(Nakamura et al. Nat Commun 2023)。そして今回、対象をヒトに広げて、「覚えるステージ」を中心に呼吸が、記憶課題における正答率や反応速度、注意力にどのような影響を及ぼすかについて調べました。研究手法と成果
実験では、30名の健常被験者を対象に、鼻カニューレ(※3)を用いて呼吸を計測しながら、見本合わせ再認記憶課題(※4)を行いました(図2)。40枚のオブジェクト画像を覚えてもらい(サンプルブロック)、のちに提示される80枚の画像についての識別をイエス・ノーのボタンで答える(テストブロック)課題を、1人の被験者につき合計10回行いました。正答率は平均90点で、解析では、呼吸位相(※5)ごとの反応時間(※6)および正答率を算出し、自己回帰移動平均モデル(※7)の残差(※8)の並べ替え検定(※9)などを用いました。
図2 見本合わせ再認記憶課題(a)とサンプルブロックでの鼻カニューレによる呼吸の変化(b)。
その結果、テストで答えるときの呼吸のタイミングが息を吐く後半であった場合、回答スピードが最も速くなりました。ところが、息を吐く後半のタイミングで回答しても、覚えるときの呼吸のタイミングが息を吸う瞬間(または息を吸う前半)だった場合は、回答スピードが著しく遅くなることが今回はじめてわかりました(図3)。一方、覚えるときの呼吸のタイミングが息を吐く後半であった場合は、回答するスピードは速くなりました。つまり、テストで最も早く答えられるのは、覚えるときと答えるときの両方で、呼吸のタイミングが息を吐く後半である場合となることが示されました。
今回用いた課題では、平均点が高かったこともあり、正答率に変化はみられませんでした。しかしこの結果により、覚えるときの呼吸のタイミングが「記憶形成に関連する足場」として作用し、テストで回答したり思い出したりするスピードを変えることが考えられます。例えば、声を出しながら英単語や詩を覚える行為は、息を吐く後半に記憶することにつながるため、効果が高く、理に適っているといえます。また専門的には、これらの結果から、呼吸のタイミングが、記憶プロセスにおいて内的なコンテクスト(文脈)成分(※10)としての役割を果たす可能性が考えられます。

図3 覚えるときの呼吸位相を4つに分けて(緑ライン:In1s, In2s, Ex1s, Ex2s)、答えるときの反応時間を呼吸位相に沿って示したもの(a-d)。呼息期後半での反応時間は、覚えるのが吸息期前半のときは長くなり(aとe)、覚えるのが呼息期後半のときは短くなった(dとf)。a-dは、呼吸周期に沿ったzスコアによる反応時間の変化と解析結果、e,fは、自己回帰移動平均モデルの残差の変化と解析結果を示す。一回の呼吸を360度で表記し、赤いラインは吸息開始期、黄色いラインは呼息開始期を示す。
今後の展開
これらの成果は、机上の筆記テストにとどまらず、英語のリスニング対策、日常生活における物忘れ対策、スポーツのパフォーマンス、ダンスの振り付け、ドライビング技術の向上など、さまざまな分野への応用が期待されます。今後は、呼吸と認知機能に関わる脳内メカニズムをさらに明らかにするとともに、学習時の呼吸のタイミングをうまく活用する方法の開発など、幅広いパフォーマンス向上への応用を目指していきたいと考えています。研究費の出処
ひょうご科学技術協会 学術研究助成(2023)兵庫医科大学 研究推進助成(2024)
兵庫医科大学 Hyogo Innovative Challenge事業(2019)
生理学研究所 生体機能イメージング共同利用実験
※1 遺伝子改変マウス:特定の遺伝子を人工的に操作したマウス。ここでは抑制性ニューロンのもつvGAT遺伝子の下流にCREリコンビナーゼを発現するように設計された遺伝子改変マウスを用いた。
※2 光遺伝学:主に神経科学で用いられる手法。特定のニューロンに光感受性遺伝子チャネルロドプシンを特異的に発現させ、のちに光を照射することで、直ちにニューロン活動を引き起こすことができる。
※3 鼻力ニューレ:鼻から気流を計測するためのチューブ。
※4 見本合わせ再認記憶課題:最も記憶要求度が高い記憶課題。今回の課題では、最初にオブジェクト画像40枚について1秒間隔で覚えてもらい、およそ20秒後に、覚えたオブジェクト画像(40枚)と新規のオブジェクト画像(40枚)がランダムに提示され、イエス・ノーのボタンで回答した。その試行を1人の被験者あたり10回行った。
※5 呼吸位相:一回の呼吸における時間成分。息を吸ったり吐いたりするそれぞれのタイミングを円グラフの上半分を吸息期、下半分を呼息期で表現したものを用いて、息を吸うタイミングと吐くタイミングについて、それぞれ30区間に分けた。
※6 反応時間:画像が提示されてからボタン押しを行うまでの時間幅。
※7 自己回帰移動平均モデル:過去の値(自己回帰)と過去の予測誤差(移動平均)の両方を用いて将来の値を予測する統計的な時系列モデル。
※8 残差:モデルで予測できずに残った値。呼吸位相など生理学的要因による影響が含まれることが考えられる。
※9 並べ替え検定:ノンパラメトリック検定の一つ。今回は符号のランダムな並べ替えを100,000回行い、FDR多重検定を用いて連続する2区間以上で、偶然にその結果が出るかどうかの確率を算出した。
※10 内的なコンテクスト(文脈)成分:内臓反応など生体内環境の活動における状況や文脈。ここでは、それらを時間情報として捉えている。
問い合わせ先
【研究に関するお問合せ】兵庫医科大学 助教 中村 望
E-mailno-nakamura@hyo-med.ac.jp
【報道に関するお問合せ】
学校法人兵庫医科大学 総務部 広報課
E-mail kouhou@hyo-med.ac.jp
学校法人関西学院 広報部 企画広報課(担当:中谷、和田)
E-mail kg-koho@kwansei.ac.jp
自然科学研究機構 生理学研究所 研究力強化戦略室
E-mail pub-adm@nips.ac.jp
リリース元



兵庫医科大学
関西学院大学
自然科学研究機構 生理学研究所
自然科学研究機構 研究