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山口大学 研究Discovery Saga
2026年5月8日

新たな心房細動治療「パルスフィールドアブレーション(PFA)」における急激な血圧低下のメカニズムと予防策を解明

-右肺静脈からのアプローチが安全性の鍵-

【注目の成果:共同研究・産学連携のためのチェックポイント】
PFA治療のより安全な標準プロトコル確立に寄与することが期待
【産学連携対象 全学共通分野 Discovery Saga】
情報学数物系科学工学医歯薬学
【Sagaキーワード】
多変量解析/プロトコル/最適化/パルス/高周波/カテーテル/アブレーション/合併症/心機能/心臓/心房細動/イミン/不整脈/迷走神経/リスク因子/血圧/自律神経

 

発表のポイント

最新の心房細動治療であるパルスフィールドアブレーション(PFA)において、エネルギー照射直後に生じる急激な血圧低下の実態を詳細に解析しました。
解析の結果、血圧低下は最初の肺静脈への照射時に最も発生しやすく、治療が進むにつれて反応が減弱(慣れが生じる)することを解明しました。
「右肺静脈」から治療を開始するプロトコルが、左肺静脈から開始する場合と比較して、深刻な血圧低下のリスクを抑制し、安全性を高める可能性を示しました。
本研究は、橋本慎太郎診療助教、石口博智助教(共同筆頭著者)、吉賀康裕講師、佐野元昭教授らによるグループの成果であり、PFA治療のより安全な標準プロトコル確立に寄与することが期待されます。

研究の背景と概要

 山口大学大学院医学系研究科 器官病態内科学講座(山口大学医学部附属病院 第二内科)の橋本 慎太郎 診療助教、石口 博智 助教、吉賀 康裕 講師、佐野 元昭 教授らの研究グループは、心房細動の最新治療である「パルスフィールドアブレーション(PFA)」施行中に発生する急激な血圧低下について、その頻度、リスク要因、および予防策を米国不整脈学会の公式誌「Heart Rhythm」に報告しました。
 心房細動の根治治療であるカテーテルアブレーションにおいて、従来の熱を用いる手法(高周波や冷凍凝固)に代わり、非熱的な電気エネルギーを用いるPFAが急速に普及しています。PFAは心臓周囲の血管や神経への損傷が少ない革新的なデバイスですが、一方で、エネルギー照射直後に一過性の徐脈や血圧低下(迷走神経反射)が生じることが臨床上の課題となっていました。
 特に、円状の電極を持つ「円環型PFAシステム」において、どの肺静脈から治療を開始すべきかという「順序」が血圧に与える影響については、これまで十分に解明されていませんでした。本研究グループは、この課題を解決するため、照射ごとの血圧変化を詳細に分析しました。


研究結果のまとめ

 山口大学医学部附属病院で、円環型PFAシステムを用いて初回アブレーションを受けた患者50名(計1,797回のエネルギー照射)を対象に、治療の順序と血圧変動の関係を解析しました。
    血圧低下の高い発生頻度
    解析の結果、患者の76%が少なくとも1回以上の急激な血圧低下を経験し、さらに32%の患者では一時的な昇圧剤の投与やペーシング(心拍の補助)を必要とする「深刻な血圧低下」が確認されました。
    「治療の順番」がリスクを左右する
    血圧低下のリスクは、「1番目に治療する肺静脈」で最も高いことが判明しました。多変量解析により、照射回数が進むほど血圧低下のリスクが段階的に減少する(減弱反応)ことが示されました。
    右肺静脈先行の有用性
    治療を開始する肺静脈の順序を比較したところ、右上肺静脈から開始するプロトコルは、左上肺静脈から開始する場合に比べ、深刻な血圧低下の発生率が低く、血圧が回復するまでの時間も有意に短いことが明らかになりました。
    メカニズムの考察:咳と自律神経反射
    血圧低下時には「咳」が高頻度に伴うことも確認されました。これは、PFAの刺激が心臓や肺周囲の迷走神経(C線維)を介した反射を引き起こしていることを示唆しており、単なる神経損傷ではなく「神経刺激」による一時的な反応であることが裏付けられました。



本研究の意義と今後の展望

 本研究を主導した橋本診療助教と石口助教は、「PFAは非常に優れた治療法ですが、治療中の血圧低下に備える必要があります。本研究により、どのタイミングで注意を払うべきか、どの順序で治療を進めるべきかの明確な指針を示すことができました」と述べています。
 また、吉賀講師は「右上肺静脈から治療を開始するというシンプルな工夫が、患者さんの安全性を高める一助になる可能性があります」と、その臨床的価値を強調しています。
 本研究成果は、PFA治療における周術期管理の最適化に直結するものであり、特に重症の心機能低下や合併症を持つ患者において、より安全な治療を提供するための重要なエビデンスとなります。山口大学医学部附属病院第二内科では、今後も最新デバイスの特性を活かした、安全で効果的な治療法の確立を目指していきます。

論文タイトルと著者

タイトル:Incidence and Risk Factors of Acute Blood Pressure Drops During Circular-Array Pulsed-Field Ablation for Pulmonary Vein Isolation
(円環型パルスフィールドアブレーション中の急激な血圧低下の発生率およびリスク因子の検討)
著者:Shintaro Hashimoto, Hironori Ishiguchi, Yasuhiro Yoshiga, Masakazu Fukuda, Goki Nakashima, Takuya Omuro, Shigeki Kobayashi, Motoaki Sano
掲載誌:Heart Rhythm(米国不整脈学会 公式誌)
DOI:10.1016/j.hrthm.2026.02.050

問い合わせ先

<研究に関すること>
山口大学大学院医学系研究科器官病態内科学講座
助教 石口 博智(イシグチ ヒロノリ)
TEL:0836-22-2248
E-mail:hishigu@(アドレス@以下→yamaguchi-u.ac.jp)

<報道に関すること>
山口大学医学部総務課広報・国際係
TEL:0836-22-2009
E-mail:me268@(アドレス@以下→yamaguchi-u.ac.jp)