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早稲田大学 研究Discovery Saga
2026年5月3日

量子アルゴリズムを用いて複雑系材料開発を飛躍的に加速

~量子回路学習の適用で高い精度の高エントロピー合金の硬さ予測を実証~

【注目の成果:共同研究・産学連携のためのチェックポイント】
少数データで高い予測精度を実現する量子回路学習により、今後、複雑な構造を持つ材料の開発スピードが、飛躍的に加速されることが期待
【産学連携対象 全学共通分野 Discovery Saga】
情報学複合領域数物系科学総合理工工学総合生物農学
【Sagaキーワード】
量子アルゴリズム/アルゴリズム/ニューラルネットワーク/機械学習/最適化/主成分分析/深層学習/量子計算/複雑性/非線形/複雑系/量子コンピュータ/量子もつれ/エントロピー/ノイズ/化学組成/量子ビット/マテリアルズ・インフォマティクス/量子デバイス/材料設計/エンジン/ニューラルネット/原子炉/非線形モデル/力学的特性/インフォマティクス/極限環境/決定木/結晶構造

発表のポイント

 量子アルゴリズムの一つである量子回路学習を用いて、複雑系材料の代表格である高エントロピー合金の硬さの推定を行い、従来の機械学習モデルとの比較を行いました。
 量子回路学習は、従来の機械学習モデルと比較して、材料開発で重要となる、少数データによる未知の領域の予測性能が高いことを示しました。
 少数データで高い予測精度を実現する量子回路学習により、今後、複雑な構造を持つ材料の開発スピードが、飛躍的に加速されることが期待されます。

近年、材料開発においては情報科学を材料開発に活用する「マテリアルズ・インフォマティクス(MI)※1」の活用が進み、機械学習を活用することで従来の材料開発よりも効率化が図られてきました。一方で、新規材料開発における実験データの少なさと原子レベルの複雑性が障壁となり、学習データが少数もしくは無い場合の予測では、予測精度と過学習※2が問題となっていました。
早稲田大学理工学術院山本知之(やまもとともゆき)教授と富士通株式会社の研究グループは、従来の機械学習が苦手とする「少数データからの未知領域(外挿※3)予測」において、量子回路学習(Quantum Circuit Learning)※4(以下「QCL」という)を用いて高エントロピー合金の硬度予測を検証しました。その結果、QCLは材料開発の予測に高い汎用性と精度を持つことを実証しました。本成果を基にして、複雑な構造を持つ材料の開発が飛躍的に加速されることが期待されます。
本研究成果は2026年4月20日に「Scientific Reports」に公開されました。

これまでの研究で分かっていたこと

近年の材料開発においては、情報科学を材料開発に活用する「マテリアルズ・インフォマティクス(MI)」の活用が進み注目を集めています。その現状と、関連する課題は以下の通りです。
材料開発における機械学習(MI)の普及
従来は研究者の経験や勘に頼って、材料開発の実験を繰り返していましたが、機械学習を用いることで、時間とコストを大幅に削減できるようになりました。線形モデルや決定木、ニューラルネットワークなどの機械学習手法が、材料の性質予測に広く利用されています。

データの少なさと複雑性の壁
材料開発への機械学習の応用における大きな課題は、学習に使える実験データが非常に少ない(数十から数百程度)こと、原子レベルの複雑な相互作用があげられます。このため、例えば、線形モデルを利用した機械学習では複雑な性質を捉えきれず、一方で深層学習などの高度な機械学習の手法は、十分なデータ量がないと精度を向上できないというジレンマがありました。

未知領域への予測精度の限界
既存の機械学習手法のうち、特に決定木やニューラルネットワークなどのモデルは、学習したデータの範囲内では高い精度を出せますが、学習データの範囲外(外挿領域)やデータの少ない未知の領域での予測(適用領域※5外)では、予測精度の著しい低下や、過学習に陥りやすいことが知られていました。

今回の研究で新たに明らかになったこと

本研究では、上記の課題を克服するために、量子コンピュータの原理を応用した「量子回路学習(QCL)」という新しい手法を複雑系材料開発に用いて、その有効性を検証しました。
具体的には、実験データが極めて少ない(数十〜数百件程度)上に、5種類以上の原子がランダムに配置し、原子レベルの複雑な相互作用(カクテル効果※6)を持つ「高エントロピー合金(High Entropy Alloy: HEA)」※7(図1)の特性予測に対して、QCLの有効性を検証しました。従来の機械学習では、データの少なさゆえに、未知の領域での予測精度の低下や、過学習が生じるという課題に対して、量子コンピュータの原理(重ね合わせやもつれ)を活用したQCLを用いることで、少ないデータでも原子レベルの複雑な相互作用を捉え、未知の材料設計に役立つモデルの構築を目指しました。
本研究で新たに開発・適用した、量子コンピュータの原理を応用した量子回路学習(QCL)の手法の特長は以下の通りです 。
量子・古典ハイブリッドアルゴリズム
現在の「ノイズあり中規模量子(NISQ)」※8デバイスでも動作するように設計されており、量子回路による計算と古典コンピュータによる最適化を組み合わせて学習を行います 。

高い表現力と過学習の抑制
量子ビット数に対して指数関数的に大きな基底関数を扱うことができるため、非常に高い表現力を持ちます。同時に、量子計算特有の制約(ユニタリ性)により、データが少なくても過学習が起きにくいと考えられます。

特徴量の選定
材料開発の汎用性を高めるため、結晶構造データを使わず、原子の混合エントロピーやエンタルピーなど、化学組成から計算できる24種類の数値を主成分分析で10次元に圧縮して入力に使用しています 。

このQCLによる新手法と、従来の線形・非線形モデルとで、力学的特性の代表的な指標であるビッカース硬さ※9の予測結果を比較した結果より、従来の機械学習では困難だった「未知の領域の予測」を、少ない実験データからでも従来の機械学習モデルよりも高精度に予測できることが明らかになりました。具体的に明らかになった点は以下の通りです。
外挿予測に強い
学習データの範囲を超えた高い硬度を持つ材料の予測(外挿)において、QCLは最もエラーが小さく、優れた予測性能を示しました。

汎用性の高さ
データの密度が低い領域(適用領域外)でも精度が落ちにくく、過学習を抑制しながら複雑な性質を表現できることが確認されました。

少データへの適応
データ数がわずか100件程度であっても、実用的な精度で予測が可能であることが示されました。

本研究により、QCLは新しい材料を開発する初期段階の強力なツールになり得る可能性を示しました。