\手術後の腸を元気にする/ 味覚を刺激して手術後の腸の動きを改善
手術後の腸閉塞を防ぎ、早期回復に貢献
【注目の成果:共同研究・産学連携のためのチェックポイント】
![]() | 大腸の手術を受けた患者だけでなく、食欲の低下など消化管の動きが低下しているさまざまな方への活用により、食べられないことから始まるフレイルへの進行予防にも期待 |
【産学連携対象 全学共通分野 Discovery Saga】
【Sagaキーワード】
2026-4-24●生命科学・医学系医学系研究科助教三吉 範克発表のポイント
大腸癌の手術後に発生しやすい腸閉塞(イレウス)の予防を目的として、味覚を刺激することで手術後の腸管運動を促進できる可能性を明らかに。手術後の腸閉塞に対して、明確な根拠にもとづく予防法は確立されていないことから、患者への負担が少なく、日常的に取り入れやすい消化管の動きを改善する方法を検討。
咀嚼の必要がなく、口の中ですぐに崩壊するため、手術翌日からでも摂取可能な味覚を刺激するタブレットを摂取することで、手術後の腸閉塞の発生割合が低下し、入院期間も短縮することを確認。
大腸の手術を受けた患者だけでなく、食欲の低下など消化管の動きが低下しているさまざまな方への活用により、食べられないことから始まるフレイルへの進行予防にも期待。
発表概要
大阪大学大学院医学系研究科 消化器外科学の林理絵さん(博士後期課程)、三吉範克助教らの研究グループは、腹腔鏡下大腸切除術を受けた患者において、味覚を刺激するタブレットを手術後に摂取することで、腸閉塞(イレウス)の発生を予防できることを明らかにしました。これまで、手術後の腸閉塞の予防策としては、早期に体を動かすこと、お腹を温めること、坐薬などによる腸への刺激、腸の動きを促進する薬の投与などが行われてきましたが、明確な根拠(エビデンス)があるものはありませんでした。
研究グループは、腹腔鏡下大腸切除を受けた患者100例を対象に、口の中ですぐ溶ける形状の、患者自身の好みの味のタブレットを手術翌日から摂取していただきました。その結果、タブレットを確実に摂取できた患者は、手術後の腸閉塞(イレウス)の発生割合が低下し、食事を始められる日や手術後の入院日数も有意に短くなることが分かりました。このタブレットは、大阪大学大学院医学系研究科・医学部附属病院 産学連携・クロスイノベーションイニシアティブ協働機関の一つであるUHA味覚糖株式会社との共同研究により開発したものです。
本研究では、患者への負担が少なく、簡単で効果的に腸の動きを促進する方法として、味覚を刺激するタブレットの摂取が有用であることを示しました。
手術後に消化管の動きが低下するのは、大腸の手術だけに限らず、その他の腹部の手術を受けた患者でも同様に起こり得ます。今後は、手術後だけでなく、様々な原因で消化管の動きが低下した方での腸の動きの促進や食欲の改善への効果も期待されます。
本研究は、2026年4月24日(金)に北海道札幌市で開催される第126回日本外科学会定期学術集会にて報告されました。

図. 本研究の流れ
研究の背景
大腸癌の手術後には、約5-10%の患者に腸閉塞(イレウス)が発生するという報告があり、手術後の合併症としては比較的多く見られます。手術後に腸閉塞を発症すると食事の開始が遅れ、入院期間が長くなるなど、栄養状態の悪化や日常生活動作(ADL)の低下につながるため、腸閉塞は患者の回復に大きく影響する合併症の一つです。また、長期間の絶食が必要になり、胃の内容物を管で吸い出す処置が必要になることもあります。絶食だけで改善しない場合は手術による治療が必要となることもあるため、発症を未然に防ぐことが求められる合併症でもあります。現在のところ、手術後の腸閉塞を予防する方法として、明確な根拠(エビデンス)が確立されているものは少ないのが現状です。そこで、患者への負担が少なく、簡単で効果的な方法として、味覚を刺激することで手術後の腸管運動を促進できる可能性があるのではないかと考えました。
研究の内容
腹腔鏡下大腸切除を受けた患者100例を対象に、手術翌日から食事を始められる日までの間、UHA味覚糖株式会社と共同開発したタブレットを1日3回摂取していただきました。このタブレットは既存製品の製剤技術を応用したもので、口の中ですぐに溶ける形状となっていて、4種類のフレーバーの中から患者自身の好みにより選択いただきました。その結果、タブレットを確実に摂取できた患者では、手術後の腸閉塞(イレウス)の発生割合が低下し、食事を始められる日や手術後の入院日数も有意に(統計学的に意味のある差として)短くなることがわかりました。
本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)
本研究成果により、タブレットの摂取で味覚を刺激することによって、手術後の消化管の動きを改善することが示されました。これにより、食欲が促されて食事の開始が早まり、手術後の回復が早まって入院期間を短縮できたのだと考えられます。また、本研究成果は、大腸切除だけでなく、消化器外科、婦人科、泌尿器科領域での腹部手術後の患者にも同様の効果が期待されます。
さらに手術後の患者のみならず、食が細くなってしまった方などの味覚を刺激することで、消化管運動や食欲を促進し、「美味しく食べる習慣」を維持することへの応用も可能だと考えられます。こうすることで、栄養状態が改善され、食べられないことから始まるフレイルへの進行を食い止めることも期待されます。
特記事項
本研究成果は、2026年4月24日(金)に第126回日本外科学会定期学術集会(北海道札幌市)で発表されました。参考URL
三吉範克 助教 研究者総覧https://rd.iai.osaka-u.ac.jp/ja/d369a105ee6a9ab3.html
大阪大学 研究