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東京大学 研究Discovery Saga
2026年4月28日

シャコガイと藻類の共生に関わる遺伝子候補を特定

―サンゴ礁で光とともに生きる貝の謎に迫る―

【注目の成果:共同研究・産学連携のためのチェックポイント】
サンゴ礁の生物多様性を支える基盤である褐虫藻共生の維持機構やその進化史の解明、シャコガイやサンゴのような褐虫藻と共生する動物の養殖・保全に役立つことが期待
【産学連携対象 全学共通分野 Discovery Saga】
環境学数物系科学化学生物学工学総合生物農学医歯薬学
【Sagaキーワード】
硝酸イオン/海洋/地球温暖化/軟体動物/ゲノムDNA/遺伝情報/塩基配列/光合成/脊椎動物/有機物/候補遺伝子/環境ストレス/ウシ/生態系/無脊椎動物/サンゴ礁/温暖化/褐虫藻/生物多様性/二枚貝/細胞膜/mRNA/脊椎/分子機構/ゲノム/ストレス/遺伝子/遺伝子発現/細菌/細菌叢/脂質

2026年4月25日
東京大学


研究の成果

要約版PDF

発表のポイント

◆サンゴ礁に生息し、サンゴと同様に単細胞藻類(褐虫藻)を体内に共生させる二枚貝、シャコガイを用いて、共生に関わる遺伝子の候補を特定しました。
◆シャコガイ-褐虫藻共生系を維持する分子メカニズムには、サンゴ-褐虫藻共生系との共通点がある一方で、これまで動物には存在しないと考えられてきた遺伝子が関与する、シャコガイ独自の戦略もあることが示唆されました。
◆本研究の成果は、サンゴ礁の生物多様性を支える基盤である褐虫藻共生の維持機構やその進化史の解明、シャコガイやサンゴのような褐虫藻と共生する動物の養殖・保全に役立つことが期待されます。



ヒメシャコガイの養殖の様子。色鮮やかな外套膜を広げ、内部に共生する褐虫藻に光を当てている。

発表概要

東京大学大気海洋研究所の新里宙也准教授と同大学大学院理学系研究科の内田大賀大学院生を中心とする研究グループは、サンゴ礁に生息する二枚貝、シャコガイのゲノム(注1)情報を活用し、藻類との共生に関わる遺伝子群を特定しました。
シャコガイはサンゴと同様に褐虫藻(かっちゅうそう)(注2)という単細胞藻類を体内に共生させます。本研究では、ヒメシャコガイ(ヒメジャコTridacna crocea)のゲノムを解読するとともに、からだの部位ごとの遺伝子発現(注3)を網羅的に調べ、褐虫藻共生部位で特異的に高発現している遺伝子を特定しました。さらに、褐虫藻との共生関係を人為的に崩壊させ、遺伝子発現変化を調べることで、共生に関わる遺伝子を絞り込みました。これにより、サンゴとシャコガイの共生メカニズムにおける共通点や、今まで動物には存在しないと考えられていた遺伝子の共生への関与といった相違点が浮かび上がりました。本研究の成果は、サンゴ礁の豊かな生物多様性を支える基盤である褐虫藻共生のメカニズム解明や、シャコガイ類の養殖・保全に役立つことが期待されます。

発表内容

サンゴ礁生態系の豊かな生物多様性は、サンゴをはじめとした動物と褐虫藻との共生によって支えられています。宿主である動物は褐虫藻にすみかや無機栄養分を供給する一方、褐虫藻が光合成によって生産した有機物を利用します。しかし近年、地球温暖化による海水温の上昇や環境ストレスにより、サンゴと褐虫藻の共生関係が崩壊する白化現象(注4)が頻発し、生態系への深刻な影響が問題となっています。サンゴの白化現象の全容解明とその対策のため、褐虫藻との共生に関わる遺伝子を特定する試みが盛んに行われています。
一方、シャコガイはサンゴ礁に生息し、食用や観賞用として利用される大型二枚貝です。サンゴと同様に褐虫藻と共生し、サンゴの幼生にとって褐虫藻の供給源となる可能性も指摘されています。また、サンゴでは褐虫藻が宿主の細胞の中に共生するのに対し(細胞内共生)、シャコガイでは宿主の細胞の外の空間に共生することから(細胞外共生)、サンゴの比較対象として生物学的に興味深い存在です。そこで本研究チームは、養殖が盛んなヒメシャコガイのゲノムを解読し、この情報を活用してシャコガイのからだの部位ごとに全遺伝子の発現レベルを網羅的に調べました。さらに、シャコガイの白化現象を人工的に引き起こして共生関係を崩壊させ、遺伝子発現への影響を調べました(図1)。



図1:ヒメシャコガイの白化
左は通常の条件で飼育したヒメシャコガイ、右は完全に遮光した条件で2ヶ月間飼育したヒメシャコガイ。白化していないヒメシャコガイの外套膜の色には、褐色、緑色、青色などの個体差がある。
シャコガイの外套膜(注5)には高密度の褐虫藻が共生していることから、この部位だけで特異的に発現している遺伝子の中には、共生に直接関わるものが含まれると想定されます。また、白化現象にともなって発現が変動する遺伝子の中にも、共生に関わるものが含まれると想定されます。これらの想定に基づいて、共生に関わるシャコガイの遺伝子を絞り込みました。得られた候補遺伝子の中には、サンゴでも共生に関わるとされている、NPC2というステロールを輸送するタンパク質の遺伝子が含まれていました。このことは、サンゴとシャコガイが褐虫藻との共生関係を進化させる過程で、それぞれ独立に、同じ遺伝子を共生維持の役割へ転用した可能性を示しています(図2)。
一方で、サンゴとは異なる候補遺伝子も見出されました。NRT2という硝酸イオンを輸送するタンパク質の遺伝子です。従来は、植物、藻類、菌類などがこの遺伝子をもち、動物はもたないと考えられていましたが、シャコガイ類などのごく一部の動物のゲノムにはこの遺伝子が含まれていることを明らかにしました。褐虫藻のように光合成をする生き物にとって、硝酸イオンは重要な窒素源となることから、シャコガイのNRT2は褐虫藻への栄養供給を担っている可能性が考えられます(図2)。また、このような相違点は、細胞内共生・細胞外共生という共生様式の違いに起因している可能性も考えられます。



図2:共生に関わる遺伝子の候補のうち特に興味深いものの概略図
褐虫藻はシャコガイの外套膜に張り巡らされた「共生藻管」という管状の構造の内側に共生する。NRT2は褐虫藻への硝酸イオンの供給、または体内での濃度調整に関わっている可能性がある。NPC2はステロール(細胞膜を構成する重要な脂質)の受け取りに関わっている可能性がある。サンゴやイソギンチャクのような刺胞動物では、NPC2が褐虫藻からのステロールの受け取りを介して共生に重要な役割を担っていると考えられている。なお、無脊椎動物は自分でステロールを合成する能力が低いか、全くない場合が多いため、褐虫藻からのステロール供給は共生の大きなメリットになる可能性がある。

関連情報

「プレスリリース サンゴと褐虫藻の共生に関わる遺伝子候補を特定 ―サンゴ礁生態系を支える共生分子機構の全容に迫る―」(2023/10/18)
https://www.aori.u-tokyo.ac.jp/research/news/2023/20231018.html
「プレスリリース 藻類と共生する二枚貝 シャコガイの細菌叢組成を解明 ―サンゴ礁生物の共生維持機構に新たな手がかり―」(2025/8/6)
https://www.aori.u-tokyo.ac.jp/research/news/2025/20250806.html

発表者・研究者等情報

東京大学
 大気海洋研究所
新里 宙也 准教授
 大学院理学系研究科
内田 大賀 博士課程/日本学術振興会特別研究員
水産研究・教育機構
 水産技術研究所
山下 洋 主任研究員
宮古島市教育委員会
島田 剛 主任主事
沖縄科学技術大学院大学
將口 栄一 シニアスタッフサイエンティスト
川満 真由美 技術員

論文情報

雑誌名:Current Biology
題 名:Genomic insights into photosymbiosis in giant clams and comparisons with coral strategies
著者名:Taiga Uchida, Hiroshi Yamashita, Go Shimada, Mayumi Kawamitsu, Eiichi Shoguchi, Chuya Shinzato*
DOI: 10.1016/j.cub.2026.03.075
URL:https://doi.org/10.1016/j.cub.2026.03.075

研究助成

本研究は、科研費「特別研究員奨励費(課題番号:24KJ0896)」、「基盤研究(A)(課題番号:21H04742、25H00948)」「基盤研究(B)(課題番号:24K01847)」の支援により実施されました。

用語解説

(注1)ゲノム
ある生物がもつ遺伝情報の全て。遺伝情報はDNAの塩基配列として記録されている。
(注2)褐虫藻(かっちゅうそう)
Symbiodiniaceae科に属する単細胞藻類で、サンゴの体内に共生することがよく知られている。サンゴのほかに、シャコガイなどの二枚貝、ウミウシ、イソギンチャクなどの海産無脊椎動物と共生する場合がある。
(注3)遺伝子発現
遺伝子がその機能を発揮する過程のこと。もっとも代表的なのは、ゲノムDNAにコードされた遺伝情報がmRNAへと転写され、さらにタンパク質へと翻訳されて機能する経路である。本研究では、遺伝子ごとにmRNA量の比較を行なっている。
(注4)白化現象
サンゴ体内から褐虫藻が失われたり、褐虫藻の色素が失われたりして、サンゴの骨格の白色が透けて見えるようになることを白化現象と呼ぶ。褐虫藻との共生関係が崩壊している状態。シャコガイでも同様に褐虫藻の喪失と外套膜の色彩変化が観察されるため、白化現象と呼ばれている。ただしシャコガイの場合は、外套膜の鮮やかな色彩を生み出す「虹色細胞」の減少も色彩変化の要因であると考えられている。
(注5)外套膜
貝類やイカ、タコなどの軟体動物のからだを覆う器官。シャコガイでは、外套膜の中でもouter mantle(本稿では外側外套膜)と呼ばれる部分が主要な褐虫藻共生部位となっている。貝殻の内側の内臓はinner mantle(内側外套膜)と呼ばれる部分に覆われている。また、ヒメシャコガイではpedal mantle(足側外套膜)と呼ばれる部分が岩やサンゴに穴を開ける役割を担っていることが示唆されている。なお、これらの部位の分け方や呼称については文献によってばらつきがある。

問い合わせ先

東京大学大気海洋研究所
准教授 新里 宙也(しんざと ちゅうや)
E-mail:c.shinzato◎aori.u-tokyo.ac.jp ※アドレスの「◎」は「@」に変換してください