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東京農工大学 研究Discovery Saga
2026年4月24日

光のエネルギーで「二刀流」の反応性を実現

―エナミンから2種類の環構造を作り分ける新手法を開発―

【注目の成果:共同研究・産学連携のためのチェックポイント】
これまで合成が困難であった医薬品中間体や機能性材料などの分子への新たな合成手法として期待
【産学連携対象 全学共通分野 Discovery Saga】
環境学化学生物学総合理工工学農学医歯薬学
【Sagaキーワード】
光エネルギー/化学物質/分子構造/ディールス・アルダー反応/電子移動/有機合成化学/トレードオフ/付加環化反応/光照射/チタン/光触媒/酸化チタン/プラスチック/機能性材料/機能性/カチオン/ラジカル/医薬品合成/環化反応/合成化学/有機合成

概要

国立大学法人東京農工大学大学院連合農学研究科の森住春香(研究当時)、同大学院農学研究院応用生命化学部門の北野克和教授、ならびに同大学院グローバルイノベーション研究院の岡田洋平教授らの研究チームは、光エネルギーを用いて「エナミン」を活性化し、単一の分子から2種類の反応を引き起こせることを見出しました。エナミンから生じる「ラジカルカチオン」を利用することで、異なる環構造を作り分けることに成功しました。本成果は、これまで合成が困難であった医薬品中間体や機能性材料などの分子への新たな合成手法として期待されます。
本研究成果は、米国化学会誌Precision Chemistryへの掲載に先立ち、4月22日にWeb上で公開されるとともに、同誌のSupplementary Coverに採用されました。
論文タイトル:TiO2-Mediated Enamine Radical Cation Cycloadditions: Divergent [4 + 2] and [2 + 2] Reactivity
URL:https://pubs.acs.org/doi/10.1021/prechem.6c00021

背景
 有機合成化学は、さまざまな化学反応を組み合わせて医薬品やプラスチックなどの有用な化学物質を作る学問です。利用できる反応の種類が増えるほど、これまで合成が困難であった化合物にも到達可能となるため、新しい反応の開発は本分野における最重要課題の一つです。
 通常、原料となる化合物には長期間安定に保存できる性質が求められますが、一般に「安定な化合物は反応性が低く、反応性が高い化合物は不安定である」というトレードオフの関係が存在します。そのため、安定な出発原料から反応を進行させるには、過酷な加熱条件や強力な試薬を用いて分子を一時的に「活性化」する必要がありました(図1)。


図1. 一般的な化学反応の概略図

 これに対し近年では、電気や光のエネルギーによる「電子移動」を利用し、常温・常圧という穏やかな条件で分子を活性化する手法が注目されています。この手法では、安定な化合物から電子を一つ取り除くことで、「ラジカルカチオン」と呼ばれる極めて反応性の高い活性中間体を生み出すことが可能です(図2)。しかし、このラジカルカチオン種を自在に制御・利用できる反応例は依然として限られています。したがって、新たなラジカルカチオン種を反応系に導入し、その反応性を開拓することは、未踏の分子構造へアクセスするための極めて有効なアプローチとなります。


図2. 電気や光のエネルギーによる化学反応の概略図

研究体制
 本研究は、東京農工大学大学院連合農学研究科の森住春香(研究当時)、同大学院農学研究院応用生命化学部門の北野克和教授、ならびに同大学院グローバルイノベーション研究院の岡田洋平教授の研究チームで実施しました。
研究成果
 本研究チームはこれまで、酸素原子を含む構造モチーフである「エノールエーテル」から電子を一つ取り除くことで生じるラジカルカチオンを活性中間体とした、新規付加環化反応を報告してきました(図3)(2025年7月4日プレスリリース)。これらの反応は、光や電気エネルギーによる「電子移動」を駆動力としており、従来の加熱条件(熱的許容反応)では到達不可能な分子構造を構築できる点が最大の特長です。


図3. エノールエーテルを用いる[4 + 2]付加環化反応のスキーム

 一方、エノールエーテルの酸素原子を窒素原子に置き換えた「エナミン」は、医薬品合成等において極めて重要な構造モチーフですが、そのラジカルカチオンを活性中間体として制御・利用する反応例は未だ限定的でした。
 本研究では、過去の知見に基づき精密に設計したエナミンを合成し、酸化チタン光触媒存在下で光照射を行うことで、エナミン由来のラジカルカチオンを効率的に発生させることに成功しました。その結果、炭素六員環を構築する[4 + 2]付加環化反応、および炭素四員環を構築する[2 + 2]付加環化反応がそれぞれ進行することを見出しました(図4)。これは、同一の出発原料から複数の異なる骨格へと誘導する「分岐型(Divergent)反応」として極めて有用な成果です。エナミン由来のラジカルカチオンを介した環骨格形成は極めて例が少なく、本成果は、複雑な窒素含有化合物の新たな合成戦略となるものです。


図4. エナミンのラジカルカチオンを用いた分岐型(Divergent)付加環化反応

今後の展開
 本研究は、東京農工大学大学院連合農学研究科の森住春香(研究当時)、同大学院農学研究院応用生命化学部門の北野克和教授、ならびに同大学院グローバルイノベーション研究院の岡田洋平教授の研究チームで実施しました。
参考プレスリリース
「たった一つの炭素の有無が反応の成否を分ける―電気で進行する新しいディールス・アルダー反応を開発―」(2025年7月4日プレスリリース)
https://www.tuat.ac.jp/outline/disclosure/pressrelease/2025/20250704_02.html
 

問い合わせ先

研究に関する問い合わせ

 東京農工大学大学院グローバルイノベーション研究院
 教授
岡田 洋平(おかだ ようへい)
 TEL:042-367-5667
  E-mail:yokada@cc.tuat.ac.jp

 
プレスリリース(PDF:365.4KB)


関連リンク

東京農工大学 岡田洋平教授研究者プロフィール
東京農工大学 岡田洋平教授研究室WEBサイト
岡田洋平教授が所属するグローバルイノベーション研究院