[Top page] [日刊 研究最前線 知尋] [Discovery Saga総合案内] [大学別アーカイブス] [Discovery Saga会員のご案内] [産学連携のご案内] [会社概要] [お問い合わせ]

東京大学 研究Discovery Saga
2026年4月22日

ゲーム理論と機械学習で明らかにする植物と微生物のネットワーク

【注目の成果:共同研究・産学連携のためのチェックポイント】
植物と微生物の相互作用の理解を深めるとともに、作物改良や持続可能な農業への応用に貢献することが期待
【産学連携対象 全学共通分野 Discovery Saga】
情報学複合領域環境学数物系科学生物学工学総合生物農学医歯薬学
【Sagaキーワード】
混合モデル/線形混合モデル/ランダムフォレスト/高次元データ/変数選択/ブースティング/予測誤差/ゲーム/機械学習/生体情報/レジリエンス/ゲーム理論/化学物質/非線形/データ解析/遺伝情報/持続可能/決定木/ダイズ/生態系/生態学/微生物/ゲノム情報/オミクス/マルチオミクス/予測モデル/アミノ酸/フラボノイド/代謝物/ゲノム/ストレス/遺伝学/遺伝子/細菌

発表のポイント

◆植物遺伝子・微生物・代謝物の関係を解明する新しい解析手法を開発しました。
◆従来の方法では捉えにくかった複雑な関係を、機械学習によって明らかにしました。
◆特に乾燥環境では、代謝物や微生物の影響が大きくなることを示しました。
◆ゲーム理論に基づく解析により、新たな植物―微生物の生態学的関係が提案されました。


植物遺伝子、微生物、代謝物の相互関係

発表概要

 東京大学大学院農学生命科学研究科の吉岡勇人(博士課程学生)、岩田洋佳教授、理化学研究所環境資源科学研究センターの藤佑志郎研究員、市橋泰範チームディレクター、フランス国立自然史博物館のPavla Debeljak研究員、Soizic Prado教授らの共同研究チームは、遺伝子・微生物・代謝物のデータを統合し、植物の形質に関わる複雑な関係を明らかにする新しい解析手法を開発しました。
 植物の成長や性質は、DNAに書かれた遺伝情報だけでなく、根のまわりに存在する微生物や、植物体内でつくられる代謝物にも強く影響されます。しかし、これらの情報はそれぞれ性質が異なり、さらに複雑に相互作用しているため、統合的に理解することは容易ではありませんでした。
 本研究では、機械学習を用いることで、従来の線形モデルでは捉えきれなかったこうした複雑な関係を表現し、複数の生体情報のつながりを可視化する新しい変数選択手法を実現しました。
 さらに、SHapley Additive exPlanations(SHAP)(注1)と呼ばれるゲーム理論的手法を用いることで、どの要素がどの程度予測に寄与しているかを定量的に評価しました。これにより、予測精度の向上だけでなく、その背後にある生物学的な仕組みを解釈することが可能になりました。
 ダイズを用いた実データ解析では、乾燥条件と通常条件を比較することで、環境に応じて重要な要素やその関係性が変化することを明らかにしました。本研究は、植物と微生物の相互作用の理解を深めるとともに、作物改良や持続可能な農業への応用に貢献することが期待されます。

発表内容

 植物の性質は、DNAに書かれた遺伝情報だけで決まるわけではありません。植物の根のまわりには多くの微生物が存在しており、それらは栄養の吸収を助けたり、病気から守ったりする役割を持っています。また、植物自身もさまざまな化学物質(代謝物)を作り出し、環境に応じてその量を変化させています。これらの要素は互いに影響し合いながら、植物の成長や環境への適応を決めています。
 特に、乾燥のような厳しい環境では、この関係がより重要になります。植物はストレスに対応するために代謝物の種類や量を変化させ、それに応じて根のまわりの微生物の構成も変わります。このような複雑な相互作用を理解することは、乾燥に強い作物を育てるうえで非常に重要です。
 近年では、遺伝子、微生物、代謝物など複数の情報を統合して解析する「マルチオミクス(注2)解析」が進んでいます。しかし、これらのデータは一般に変数が多い高次元データであり、さらに互いに複雑に結びついているため、すべてを統合して解析することは簡単ではありませんでした。従来の方法の多くは、関係を単純な線形として扱うため、実際の生物で見られる複雑な関係を十分に捉えることができませんでした。
 そこで本研究では、従来から用いられてきた線形モデル(BLUP(注3))と、機械学習の一種であるランダムフォレスト(注4)を比較し、それぞれの特徴を検証しました。その結果、線形モデルでは多くの変数の効果が小さく抑えられてしまい(シュリンク)、重要な要素を見分けることが難しくなる一方で、機械学習はそのような制約を受けにくく、オミクス間の複雑な関係を捉えるうえで有用であることが分かりました。さらに本研究では、SHAPというゲーム理論的な解析手法を用いることで、どの要素が予測にどれだけ貢献しているかを調べました(図1)。
 その結果、乾燥条件ではフラボノイドと呼ばれる代謝物や、アミノ酸、そして特定の微生物が重要な役割を果たしていることが分かりました。これらの物質は、植物がストレスに適応する際に重要であることが知られており、本研究の結果はそれを支持するものです。一方で、通常の環境では植物遺伝子の影響がより強く現れることも確認されました。
 また、単一の要素だけでなく、複数の要素が組み合わさったときの影響についても解析を行いました。組み合わせ数が膨大になる計算に対応するため、XGBoost(注5)と呼ばれる高速な決定木ベースの機械学習手法を採用しました。その結果、特定の代謝物と微生物の組み合わせが植物の性質に大きく関わる可能性が示されました。例えば、ある代謝物と特定の細菌が同時に存在することで、植物の成長に影響を与えると考えられる関係が見つかりました(図2)。このような相互作用は、従来の方法では見つけることが難しく、本研究の重要な成果の一つです。
 さらに、乾燥環境と通常環境を比較することで、どのような要素が環境によって変化するのかを差分ネットワークとして明らかにしました。その結果、乾燥時には代謝物と微生物の影響が強くなり、通常時には遺伝子の影響が相対的に大きくなるという傾向が確認されました。これは、環境によって植物微生物の生態系の制御の仕組みが変わることを示しています。
 本研究で開発された手法は、複雑なマルチオミクスデータを統合的に解析し、重要な要素やその関係性を明らかにすることができる新しい枠組みです。この手法を用いることで、これまで理解が難しかった植物と微生物の関係をより深く解明できると考えられます。


図1:手法の概念図

 


図2:SHAPにより提示される植物微生物のネットワーク

発表者・研究者等情報

東京大学大学院農学生命科学研究科
 吉岡 勇人 博士課程
 岩田 洋佳 教授

フランス国立自然史博物館(MNHN)/フランス国立科学研究センター(CNRS)(フランス)
 Pavla Debeljak 研究員
 Soizic Prado 教授

理化学研究所
 環境資源科学研究センター 代謝システム研究チーム
藤 佑志郎 研究員
 バイオリソース研究センター 植物-微生物共生研究開発チーム(研究当時)
市橋 泰範 チームリーダー(研究当時、現:環境資源科学研究センター ホロビオント・レジリエンス研究チーム チームディレクター)

論文情報

雑誌名:BMC Environmental Microbiome
題 名:Interpretable multi-omics machine learning reveals drought-driven shifts in plant–microbe interactions
著者名:Hayato Yoshioka, Pavla Debeljak, Soizic Prado, Yushiro Fuji, Yasunori Ichihashi, Hiroyoshi Iwata
DOI:10.1186/s40793-026-00883-x
URL:https://doi.org/10.1186/s40793-026-00883-x

研究助成

本研究は、JSPS科研費(課題番号:JP22K21352, JP23KJ0506)、JST CREST(課題番号JPMJCR16O2)、JST ALCA-Next Program (課題番号:JPMJAN23D1)、JST-Mirai Program (課題番号:JPMJMI120C7)の支援を受けて行われました。

用語解説

(注1)SHapley Additive exPlanations (SHAP)
予測モデルの出力に対して、各要素(特徴量)がどの程度影響を与えたかを数値として評価する手法。ゲーム理論に基づき、それぞれの要素の「貢献度」を公平に評価できる点が特徴である。これにより、複雑なモデル(例えば機械学習モデル)であっても、どの要因が予測に重要であったかや、要因同士の関係を解釈することが可能になる。

(注2)マルチオミクス(Multi-omics)
遺伝子や代謝物、微生物など、さまざまな生体データ(オミクス)をまとめて調べ、それらのつながりを理解するための方法。

(注3)BLUP(Best Linear Unbiased Prediction)
統計遺伝学で広く用いられる線形混合モデルに基づく予測手法。ゲノム情報などを用いて個体の遺伝的能力(育種価)を推定する方法として、植物育種や家畜育種で広く利用されている。

(注4)ランダムフォレスト(Random Forest, RF)
多数の決定木を組み合わせて予測を行う機械学習手法。複雑な非線形関係や特徴量間の相互作用を捉えることができ、ゲノムやオミクスなど高次元データの解析にも広く用いられている。

(注5)XGBoost
決定木を逐次的に学習し、前の予測誤差を補うようにモデルを更新していく勾配ブースティングに基づく機械学習手法。高い予測精度と計算効率を兼ね備え、大規模・高次元データの解析に広く用いられている。

問い合わせ先

<研究内容については発表者にお問合せください>
東京大学 大学院農学生命科学研究科 生産・環境生物学専攻
教授 岩田 洋佳(いわた ひろよし)
Tel:03-5841-5069 E-mail:hiroiwata@g.ecc.u-tokyo.ac.jp

<報道に関する問合せ>
東京大学 大学院農学生命科学研究科・農学部
総務課総務チーム広報情報担当
Tel:03-5841-5484 E-mail:koho.a@gs.mail.u-tokyo.ac.jp

理化学研究所 広報部 報道担当
Tel:050-3495-0247 E-mail:ex-press@ml.riken.jp

関連教員

岩田 洋佳