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東京科学大学 研究Discovery Saga
2026年4月18日

HDLの機能低下が“危険なプラーク”と関連することを解明

新規測定法(ILG法)で心血管リスクの可視化に成功

【注目の成果:共同研究・産学連携のためのチェックポイント】
従来の脂質指標では捉えられない「残余リスク」を可視化し、心血管疾患の予測・予防への応用に期待
【産学連携対象 全学共通分野 Discovery Saga】
数物系科学工学総合生物医歯薬学
【Sagaキーワード】
近赤外/近赤外線/赤外線/カテーテル/リスク評価/生体内/冠動脈/心筋/臨床応用/冠動脈疾患/健康診断/心筋梗塞/歯学/細胞培養/脳梗塞/LDLコレステロール/コレステロール/スタチン/バイオマーカー/血圧/高血圧/脂質/脂質代謝/早期発見/糖尿病/動脈硬化/分子生物学/薬物療法/臨床研究

2026年4月16日 公開

ポイント

独自開発の簡便な測定法(ILG法)により、HDLの機能(コレステロール引き抜き能)を臨床現場で評価可能に
CECが低い患者では、破綻リスクの高い脂質性プラークを有することを臨床データで実証
従来の脂質指標では捉えられない「残余リスク」を可視化し、心血管疾患の予測・予防への応用に期待

概要

東京科学大学(Science Tokyo) 医歯学総合研究科 臨床分析・分子生物学分野の大川龍之介教授、戸塚実名誉教授らの研究チームは、煩雑で臨床利用が困難であった
コレステロール引き抜き能(CEC)[用語1]について、これまでに簡便かつ高精度に測定できる方法(
ILG法[用語2])を開発し、その臨床応用が期待されていました。
今回、同大学 循環制御内科学分野の米津太志准教授、臨床分析・分子生物学分野の宮腰恒広博士後期課程学生らと共同で、循環器内科を受診しカテーテル検査を受けた61名の患者を対象に、光干渉断層撮影による冠動脈プラークの性状とILG法によるCEC値を比較・解析しました。その結果、CEC値は、高比重リポタンパク(HDL)のうち、アポリポタンパクEを有するHDLのコレステロール濃度の割合と正の相関を示しました。また、リスクの高い大型
脂質性プラーク[用語3]を有する患者では、CEC値が有意に低いことを明らかにしました。
コレステロール引き抜き能は、従来のHDLコレステロールよりも優れたバイオマーカーであり、心血管疾患イベントと関連することが世界的に認知されているにもかかわらず、測定の難しさから社会実装が困難でした。大川教授、戸塚名誉教授らが開発したILG法は、病院での測定を可能とする方法であり、さらに本研究で示された臨床的有用性により、社会実装が近づくとともに、冠動脈疾患イベントの発症予測や二次予防への応用が期待されます。
本成果は、4月2日付(米国東部時間)の「Atherosclerosis」誌に掲載されました。


図1. 本研究成果の概要

背景

心筋梗塞や脳梗塞を引き起こす動脈硬化性心血管疾患(ASCVD)は、世界の死因の第1位を占めており、早期発見と予防が極めて重要です。ASCVDの予防においては、現在、スタチンを用いたLDLコレステロールの管理が標準的な治療として用いられています。しかし、スタチンによってLDLコレステロールを十分に低下させても、依然として心血管イベントを発症する患者が一定数存在しており、この「残余リスク」の評価が喫緊の課題となっています。
HDLは、多彩なASCVD抑制作用を有する生体内粒子です。近年では、HDLの「量(コレステロール濃度)」だけでなく、その作用の1つである、血管壁から余分なコレステロールを回収する「コレステロール引き抜き能(CEC)」という「質」の指標が、この残余リスクを予測する強力なマーカーとして注目されています。すでに多くの臨床研究により、CECのASCVD発症リスク評価における有用性が示されていますが、従来の測定法は細胞培養を必要とするため煩雑であり、実臨床での活用は困難でした。
大川教授、戸塚名誉教授らは、この課題を解決するため、細胞を用いずに簡便かつ高精度にCECを測定できる独自技術「ILG法」を開発しました[参考文献1]

研究成果

本研究チームは、冠動脈カテーテル検査を受けた患者61名を対象として、
光干渉断層撮影(OCT)[用語4]を用い、血管内のプラーク(脂質の塊)を精密に観察しました。対象患者の約95%がすでにスタチンによる脂質低下療法を受けており、LDLコレステロール値は良好に管理されていましたが、OCTによる解析では、破綻リスクの高い「大型の脂質性プラーク」を有する患者が認められました。これらの患者のCECをILG法で測定した結果、このようなハイリスクプラークを有する患者では、CEC値(HDLの質)が有意に低いことが明らかとなりました(表1)。
表1. ハイリスクな「大型脂質性プラーク」の存在を予測する因子の解析(抜粋)
評価項目 関連の強さ
(オッズ比)
統計学的有意差
(P値)
判定
年齢 1.079 0.008 有意
糖尿病 0.283 0.028 有意
高血圧 2.191 0.200 有意差なし
喫煙歴 0.609 0.350 有意差なし
CEC5分位 0.643 0.026 有意
%apoE 0.576 0.036 有意
HDL3-コレステロール 0.798 0.030 有意
HDL-コレステロール 0.947 0.096 有意差なし
LDL-コレステロール 0.991 0.368 有意差なし
中性脂肪 0.996 0.374 有意差なし

従来の脂質指標(HDLコレステロールやLDLコレステロール)では、これらスタチン治療下の患者におけるプラークの危険性を十分に判別することができませんでしたが、CECの値を組み合わせることで予測精度が向上することを確認しました。これは、「薬物療法により脂質値が正常化しても、HDLの機能が低い場合には血管のリスクが残存する」という事実を、ILG法が捉え得る可能性を示しています。

さらに、ILG法によって測定したCEC値は、HDLの中でも特にコレステロール引き抜きと関連が深いとされる、アポリポタンパクEを豊富に含むHDLの割合(%apoE)と強い正の相関を示しました(図2)。独自開発のILG法によるCECとapoE-HDLとの関連が確認されたことは、本法がHDLの機能を適切に評価できていることの裏付けとなります。


図2. %apoEとCECとの相関

社会的インパクト

独自開発のILG法を用いることで、これまで専門的な研究施設でしか評価できなかったHDLの質を、日常の臨床現場において評価できる道が拓かれました。本研究の成果は、従来の健康診断では見逃されていた心血管疾患のリスクを早期に発見し、より適切な治療や予防へとつなげるための大きな一歩となります。

今後の展開

現在、本手法を搭載した「自動分析装置」の開発を進めています。今後は、より大規模な臨床研究を通じてその有用性をさらに強固なものとし、近い将来、全国の病院で本検査を受けられるよう、社会実装を目指します。

付記

本研究は日本学術振興会 科学研究費助成事業 基盤研究(C)(22K07466、代表:大川龍之介)、若手研究(21K15641、代表:亀田貴寛)、山内進循環器病研究助成(代表:大川龍之介)、TMDUイノベーションアイデアコンテスト(代表:大川龍之介)、JST SPRING(JSPMJSP2120、代表:宮腰恒広)の助成を受けたものです。

参考文献

[参考文献1]
Horiuchi, Y., Lai, S.J., Yamazaki, A., Nakamura, A., Ohkawa, R., Yano, K., Kameda, T., Okubo, S., Shimano, S., Hagihara, M., Tohda, S., and Tozuka, M. Validation and application of a novel cholesterol efflux assay using immobilized liposomes as a substitute for cultured cells. Bioscience Reports. 38(2). pii: BSR20180144, 2018. doi: 10.1042/BSR20180144

用語説明

[用語1]
コレステロール引き抜き能(CEC):HDLが血管壁からコレステロールを回収する能力。この値が高いほど、動脈硬化が進みにくいとされる。
[用語2]
ILG法(固相化リポソーム結合ゲルビーズ法):大川教授、戸塚名誉教授らが開発した、細胞を用いない独自の技術。短時間で多数の検体を安定して簡単に測定できる。
[用語3]
脂質性プラーク:血管の壁に脂質が蓄積してできるコブ。特に内部に脂質を多く含むものは破れやすく、心筋梗塞や脳梗塞の直接的な原因となる。
[用語4]
光干渉断層撮影(OCT):近赤外線を用いて血管内部を高解像度で観察する技術。プラークの成分や厚みをミクロ単位で判別できる。

論文情報

掲載誌:
Atherosclerosis
タイトル:
Relationship of atherosclerotic lesion by optical coherence tomography with cholesterol efflux capacity by immobilized liposome-bound gel beads method
著者:
Tsunehiro Miyakoshi, Yuna Horiuchi, Makoto Araki, Taishi Yonetsu, Mei Watanabe, Takahiro Kameda, Akira Yoshimoto, Naoya Ichimura, Shuji Tohda, Minoru Tozuka, Tetsuo Sasano, Ryunosuke Ohkawa
DOI:
10.1016/j.atherosclerosis.2026.120724

研究者プロフィール


宮腰 恒広 Tsunehiro Miyakoshi
東京科学大学 医歯学総合研究科 臨床分析・分子生物学分野 博士後期課程3年
研究分野:コレステロール引き抜き能測定法の開発・検証・臨床評価
米津 太志 Taishi Yonetsu
東京科学大学 医歯学総合研究科 循環制御内科学分野 准教授
研究分野:光干渉断層法を中心とした冠動脈画像解析
大川 龍之介 Ryunosuke Ohkawa
東京科学大学 医歯学総合研究科 臨床分析・分子生物学分野 教授
研究分野:リポタンパクを中心とした脂質代謝解析、バイオマーカー開発

関連リンク

プレスリリース HDLの機能低下が“危険なプラーク”と関連することを解明—新規測定法(ILG法)で心血管リスクの可視化に成功—(PDF)
宮腰 恒広 Tsunehiro Miyakoshi | Science Tokyo 研究情報データベース(医歯学系)
大川 龍之介 Ryunosuke Ohkawa | Science Tokyo 研究情報データベース(医歯学系)
米津 太志 Taishi Yonetsu | Science Tokyo 研究情報データベース(医歯学系)
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