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早稲田大学 研究Discovery Saga
2026年4月14日

自然界には存在しない構造を持つ2次元酸化鉄の作製に成功

~グラフェン/SiC界面が生み出す新物質~

【注目の成果:共同研究・産学連携のためのチェックポイント】
スピントロニクスデバイスなどへの応用が期待
【産学連携対象 全学共通分野 Discovery Saga】
情報学環境学数物系科学化学総合理工工学農学医歯薬学
【Sagaキーワード】
最適化/金属元素/グラファイト/強相関電子/強相関電子系/原子核/磁気相転移/磁気抵抗/遷移金属酸化物/対称性/超伝導体/低次元/銅酸化物/反強磁性/六方晶窒化ホウ素/マンガン酸化物/元素分析/相転移/超伝導/ケイ素/2次元物質/カルコゲナイド/強相関/原子層/磁気抵抗効果/磁性体/原子分解能/原子分解能電子顕微鏡/走査透過型電子顕微鏡/電子エネルギー損失分光/電子物性/インターカレーション/マンガン/新物質/遷移金属/GaN/バッファー層/巨大磁気抵抗効果/強磁性/高温超伝導/絶縁体/遷移金属ダイカルコゲナイド/層状物質/窒化ガリウム/分光測定/ナノカーボン/構造モデル/酸化鉄/STEM/ゲルマニウム/スピネル/巨大磁気抵抗/強磁性体/原子配列/単結晶/電子状態/カーボン/SiC/イオン照射/グラフェン/シミュレーション/スピン/スピントロニクス/マグネタイト/リチウム/環境負荷/金属酸化物/結晶成長/原子力/構造制御/酸化物/第一原理/第一原理計算/電子顕微鏡/二酸化炭素

発表のポイント

 自然界には安定に存在しない構造を持つ2次元酸化鉄の作製に成功しました。
 2次元物質のグラフェンと3次元物質のSiCの界面に鉄と酸素を導入する新たな手法により、この2次元酸化鉄作製を実現しました。
 スピントロニクスデバイスなどへの応用が期待され、さらに他の2次元遷移金属酸化物に展開することによって新たな量子物性の開拓につながる可能性があります。


早稲田大学の乗松航(のりまつ わたる)教授、物質・材料研究機構(NIMS)の榊原涼太郎(さかきばら りょうたろう)博士(研究当時名古屋大学所属)、日本原子力研究開発機構の寺澤知潮(てらさわ ともお)研究副主幹、東京大学の河内泰三(かわうち たいぞう)技術専門職員、福谷克之(ふくたに かつゆき)教授、名古屋大学の伊藤孝寛(いとう たかひろ)准教授の研究グループは、自然界には存在しない構造を持つ2次元酸化鉄の作製に成功しました。
酸化鉄※1は、様々な組成・構造を持つものが存在し、例えば、スピネル構造を持つマグネタイトFe3O4は紀元前から鉄につく磁石として知られており、コランダム型構造を持つヘマタイトFe2O3は主要な鉄鉱石でありヘモグロビンと同様の由来を持つ名前が示すように赤い顔料として用いられています。
当グループは、2次元物質※2であるグラフェンと、3次元物質である炭化ケイ素(SiC)基板の界面※3に、2次元的な構造を持つ酸化鉄を作製する方法を発見しました。さらに、形成された2次元酸化鉄を原子レベルで構造解析した結果から、この界面物質は自然界には存在しない構造を持つ酸化鉄であることを明らかにしました。本研究成果は、界面を利用することで従来の化学平衡では実現できなかった新しい構造を作り出す手法を示した点で重要です。
本成果は、2026年3月14日付けで、Wiley社が発行する学術誌『Small Methods』誌に掲載されました。


これまでの研究で分かっていたこと

遷移金属酸化物は、絶縁体から金属、超伝導体まで多彩な電子物性を示す材料として知られています。その中で本研究では、地球上に最も豊富に存在する遷移金属元素である鉄(Fe)とその酸化物に注目しました。鉄は、3d軌道の電子によるスピン分極のために強磁性体(磁石)として知られています。同様に酸化鉄でも、スピネル構造を持つマグネタイトFe3O4は古くから磁石として用いられてきました。酸化鉄はマグネタイト以外にも、塩化ナトリウム型構造を持つウスタイトFeOやコランダム型構造を持つヘマタイトFe2O3など様々な構造を持ち、構造によって物性が大きく異なることが知られています。そのため、新しい構造を持った酸化鉄材料の探索は、基礎・応用の両側面で意義深いと言えます。
ここで、グラフェンや遷移金属ダイカルコゲナイドなどの2次元物質は、構造の2次元性に起因して、3次元物質にはない物性や機能について、非常に活発に研究されています。その中でも、2次元物質グラフェンと3次元物質である基板の界面は、特異な現象の生じる場として注目されています。例えば、グラフェン/SiCヘテロ構造を作製し、水素雰囲気ガス中で加熱すると、水素がグラフェンとSiCの界面に侵入するインターカレーション※4と呼ばれる現象が生じます。このインターカレーション現象を、水素以外の元素やその化合物へと拡張することで、グラフェンとSiCの界面において、例えば2次元の窒化ガリウム(GaN)や2次元の酸化インジウム(InO)といった2次元半導体を作製できることが報告されてきました。このような背景の中で、インターカレーションによる2次元の酸化鉄の作製にも大きな期待が寄せられてきました。しかしながら、鉄は炭素やケイ素との反応性が非常に高く、先行研究と同様のアプローチでは鉄の炭化物やケイ化物が優先的に形成されてしまうため、2次元酸化鉄の形成はこれまで実現されていませんでした。

新たに実現しようとしたこと、明らかになったこと

2次元酸化鉄を作製する手法を確立できれば、これまでにない物性や機能を持った材料の実現が期待されます。そこで本研究では、グラフェン/SiC界面を、新たな2次元物質を形成するための結晶成長場とみなし、インターカレーション現象を利用することで2次元酸化鉄の作製を目指しました。実験と解析の結果、グラフェンの2次元性とSiCの結晶構造を反映して、自然界には存在しない構造を持つ2次元酸化鉄が形成することを見出しました。また、得られた2次元酸化鉄は室温では常磁性を示す一方で、低温(100 K)では反強磁性秩序を持つことが示唆されました。
様々な物質をグラフェン/SiC界面にインターカレーションする際、まずグラフェンとほとんど同じ構造を持つバッファー層と呼ばれる炭素原子層をSiC上に形成します。従来では、このバッファー層上に真空中で元素を堆積させ、そのまま加熱するというアプローチがとられてきました。これは、加熱中に酸素が存在すると、グラフェン/SiC界面に酸素が優先的にインターカレーションしたり、グラフェン中の炭素と反応してCO2として分解されるためグラフェンがなくなってしまうためです。しかしながら、この手法を鉄に適用した場合、鉄が炭素やケイ素と優先的に反応して、グラファイトやケイ化物が不均一に形成されてしまいます(図1)。
そのため、鉄やその化合物に関するインターカレーションの報告はこれまでほとんどありませんでした。それに対して本研究では、バッファー層上に真空中で鉄を蒸着したあと、試料をあえて一旦大気中に曝露したのち、再び真空中に導入して加熱処理を行うことで、酸化鉄のインターカレーションが起こり、グラフェンとSiCの界面に2次元酸化鉄が形成することを見出しました(図1)。