集積可能なLED構造での低ロス円偏光生成を実証!
電子・光状態のハイブリッド制御を駆使し、次世代光技術の実現に貢献
【注目の成果:共同研究・産学連携のためのチェックポイント】
![]() | 次世代の光技術の基盤となる「超小型・高効率な円偏光源」の実現への貢献 |
【産学連携対象 全学共通分野 Discovery Saga】
【持続可能な開発目標(SDGs)】
【Sagaキーワード】
3Dディスプレイ/ウェアラブル/拡張現実/最適化/情報通信/量子情報/量子通信/スペクトル/発光スペクトル/直線偏光/ディスプレイ/複屈折/円偏光/有機金属/走査型電子顕微鏡/MOVPE/デバイスプロセス/光センシング/持続可能/持続可能な開発/発光ダイオード(LED)/電子状態/シミュレーション/センシング/ナノ構造/マイクロ/屈折率/結晶成長/光学測定/耐久性/電子顕微鏡/半導体/量子井戸/エネルギー変換/インジウム/バイオイメージング
2026-4-10●工学系工学研究科准教授市川 修平発表のポイント
窒化インジウムガリウム(InGaN)系LEDを、通常より傾けた結晶面である“半極性面”上に作製し、さらにストライプ型のナノ構造“メタサーフェス”を直接結合することで、エネルギー変換ロスを抑えた高効率な円偏光素子を実現。円偏光LEDの実用化の障壁となっていた「デバイスの耐久性」、「偏光状態の選択に伴うエネルギーロス」などの課題解決への糸口を発見(従来方式では、変換効率50%が理論限界。本研究では、直線偏光→円偏光の経路を実現することで偏光変換効率68%を実証)。
本成果は、AR(拡張現実)/VR(仮想現実)、3Dディスプレイ、量子情報通信、光セキュリティなど、次世代の光技術の基盤となる「超小型・高効率な円偏光源」の実現への貢献に加えて、既存プロセスと親和性が高く、将来的な量産化や小型デバイスへの応用にも期待。
発表概要
大阪大学大学院工学研究科の市川修平准教授、博士後期課程の村田雄生さん、小島一信教授らの研究グループは、株式会社アルバックの戸田晋太郎氏と協力し、半極性面InGaN量子井戸とストライプ型SiNₓメタサーフェスを組み合わせた新しい高効率円偏光源を開発しました。照明用高効率光源として広く普及している極性面InGaN LEDからの発光は一般に無偏光であり、無偏光から円偏光成分を抽出する従来の方式では、変換効率50%が理論限界でした。また、これまでの円偏光LEDは、「高い円偏光度と高い外部量子効率の両立が難しい」ことや、「デバイスの耐久性が低い」ことなど、実用化に向けて課題がありました。
本研究グループが着目した半極性InGaN量子井戸では、半導体の電子状態に由来して直線偏光した発光が得られます。この性質を積極的に利用し、さらに単層のストライプ型SiNₓメタサーフェスを光出射面に直接形成することで、直線偏光をロスなく円偏光へと変換する経路を実現しました。本研究では、室温下で円偏光度 0.27、偏光変換効率68%を実証し、これは従来の「無偏光から円偏光を抽出する方式」の理論限界を超える成果です。
円偏光源は、AR(拡張現実)/VR(仮想現実)、3Dディスプレイ、量子情報通信、光セキュリティなど、多岐にわたる応用が期待される次世代の光素子です。本研究成果は、電子・光のハイブリッド状態制御により、高効率・高耐久な円偏光LEDが実現可能であることを示すものです。
本研究成果は、米国科学誌「Optical Materials Express」に、2026年3月12日(木)に公開されました。

図1. 本研究で提案する半極性面InGaN円偏光LED。光出射面上にストライプ型メタサーフェスを直接積層することで高効率なLEDを実現可能。
研究の背景
光の偏光状態を制御する技術は、3Dディスプレイ、量子情報通信、バイオイメージングなど多岐にわたる応用が期待されています。とくに円偏光は、受光側の素子角度に特性が依存しないという特長から、ウェアラブル端末やマイクロLEDディスプレイのような“視野角が変化しやすい環境”で大きな利点があります。これまでに提案されてきた円偏光LEDは、「高い円偏光度」と「高い発光効率(外部量子効率)」の両立が難しく、さらにデバイスの耐久性や量産性にも課題がありました。また、本研究グループを含めてこれまでに提案してきた「無偏光から円偏光成分を抽出する方式」では、変換効率50%が理論限界でした。研究の内容
本研究グループは、照明用の高効率光源として広く普及しているInGaN LEDに着目しました。しかしながら、一般なInGaN LEDは極性面上に作製され、その発光は無偏光であることが知られています。本研究では、結晶面の異なる半極性(20^21) InGaN量子井戸が示す「直線偏光」を有効利用することで、直線偏光をロスなく円偏光へと変換する新たな偏光変換経路を実現し、エネルギー変換ロスを抑えた、高効率円偏光LEDを提案しました。これにより、従来の変換効率50%の理論限界を超えることを目指しました。
本研究では、有機金属気相成長法(MOVPE)により高品質な半極性 (20^21) InGaN/GaN量子井戸LED構造を作製し、その光出射面にストライプ型SiNₓメタサーフェスを直接形成しました。このメタサーフェスは、光の偏光方向によって屈折率が変わる「複屈折」を人工的に作り出し、直線偏光を円偏光へ変換する“1/4波長板”としての機能を発現するように最適化されたナノ構造です。
室温での光学測定の結果、メタサーフェスを形成した試料では右回り円偏光成分が強く観測され、円偏光度0.27 を達成しました。また、直線偏光→円偏光の偏光変換効率は68% であり、従来方式の理論限界を突破していることが確認されました。さらに3次元電磁界シミュレーションの結果と比較することで、半極性(20^21) InGaN量子井戸を利用した円偏光LEDにおける理想的な動作が実現されていることが確認されました。この構造では、ストライプの角度を90°回転するだけで同効率の左回り円偏光も容易に得ることができます。
これらの結果は、半極性面InGaN量子井戸とストライプ型メタサーフェスを組み合わせることで、従来方式の限界を超える高効率な円偏光LEDが実現可能であることを示しており、将来的な小型光源やマイクロLEDへの応用に向けた重要な成果です。

図2. LED構造上に実作したメタサーフェス構造 (走査型電子顕微鏡での観察像)

図3. 室温下で実測定した右回り円偏光を示す発光スペクトル
本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)
本研究で示した円偏光LEDは、従来方式では避けられなかった「変換効率50%の限界」を超える新しい発光原理を実証した点で大きな意義があります。半極性InGaN量子井戸とメタサーフェスを組み合わせることで、微小構造で高効率な円偏光を生成できるため、デバイスの高集積化が容易になります。円偏光源は、AR/VR、3Dディスプレイ、量子通信、光センシングなど多くの分野で重要な役割を果たすため、本成果は次世代光アプリケーションの実現に直結します。また、本研究で提案した材料は十分な耐久性を有するとともに、既存の半導体製造プロセスと相性が良いため、将来的な量産化や産業応用にもつながることが期待されます。
特記事項
本研究成果は、2026年3月12日(木)に米国科学誌「Optical Materials Express」(オンライン)に掲載されました。タイトル:“Metasurface-integrated semipolar (20^21) InₓGa₁₋ₓN quantum wells towards efficient circularly-polarized LEDs”
著者名:Yuki Murata, Shintaro Toda, Yasufumi Fujiwara, Kazunobu Kojima, and Shuhei Ichikawa
DOI:https://doi.org/10.1364/OME.588632
なお、本研究の一部は、JSPS科研費(No. 25K00063)、池谷科学技術振興財団(0361019-A)、JST 創発的研究支援事業(JPMJFR243V)の支援を受けて行われました。また、LED構造の結晶成長については立命館大学 藤原康文教授の協力、デバイスプロセスについてはARIM (No. JPMXP1224OS1038)の支援を得て行われました。
参考URL
市川 修平准教授 研究者総覧https://rd.iai.osaka-u.ac.jp/ja/32d0649cfea01567.html
市川 修平准教授 研究ホームページ
https://sites.google.com/view/ichikawa-gr/home
小島研究室のホームページ
http://www.sfm.eei.eng.osaka-u.ac.jp/
SDGsの目標

大阪大学 研究