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大阪大学 研究Discovery Saga
2026年4月13日

生殖と寿命のバランスを制御する仕組みの解明

オートファジー関連因子ATG-18に寿命を制御する「新たな機能」を発見

【産学連携対象 全学共通分野 Discovery Saga】
生物学工学総合生物農学医歯薬学
【Sagaキーワード】
Atgタンパク質/膜動態/ATG遺伝子/神経系/生殖/ヒストン/モデル生物/診断法/オートファゴソーム/変異体/ヒストンバリアント/細胞内分解/生殖細胞/糖新生/オミクス/オミクス解析/筋肉/寿命/分子機構/オートファジー/ストレス応答/タンパク質発現/プロテオミクス/リソソーム/幹細胞/創薬/ストレス/バイオマーカー/遺伝子/加齢/健康寿命/健康長寿/網羅的解析/老化
2026-4-8●生命科学・医学系医学系研究科特任教授吉森 保

発表のポイント

線虫の神経および腸におけるATG-18が生殖細胞欠損による寿命延長に必須であることを発見。
ATG-18はオートファジーとは独立した機能で寿命延長に寄与することを見出した。
腸ではATG-18が糖新生酵素PCK-2と相互作用し、オートファジー非依存的にPCK-2の発現を制御して寿命を延長することを明らかにした。

発表概要

早稲田大学理工学術院総合研究所の塩田達也 次席研究員、大阪大学大学院生命機能研究科大学院生の高橋一徹さん(博士前期課程、研究当時)、大阪大学大学院医学系研究科保健学専攻 吉森保 特任教授、および奈良県立医科大学医学部生化学講座/オートファジー・抗老化研究センター 中村修平 教授らの研究グループは、モデル生物の線虫を用いて、細胞内分解システム、オートファジー関連因子の一つであるATG-18がオートファジーとは独立した機能で生殖細胞欠損による寿命延長に必須であることを発見しました(図1)。
線虫を含む様々な生物種において、生殖と寿命の間には負の相関が見られ、生殖細胞を除去すると寿命が延長することが知られています。この寿命延長にはオートファジーの活性化が必要であることが報告されていましたが、個々の組織におけるatg遺伝子の役割は十分に調べられていませんでした。今回、研究グループは、線虫の主要組織で個別にオートファジー遺伝子を抑制する網羅的解析を行い、神経と腸におけるatg-18の抑制のみが寿命延長を消失させることを見出しました。さらに、ATG-18が糖新生酵素であるPCK-2と相互作用し、腸においてオートファジーとは独立にPCK-2の発現を制御することで寿命延長に寄与するメカニズムを明らかにしました。今後、ATG-18やそのヒト相同遺伝子WIPI1/2の「新たな機能」の理解がさらに進むことで、生殖と寿命のバランス制御の仕組みの理解、健康寿命延伸や加齢性疾患の治療への応用につながる可能性があります。
本研究成果は、2026年3月29日に英国科学雑誌「Aging Cell」にオンライン掲載されました。



図1. 研究成果概要

研究の背景

線虫やハエなどのモデル生物において、「生殖」と「寿命」の間には負の相関があることが知られており、生殖細胞を人為的に除去すると寿命が大幅に延長することが分かっていますが、この分子機構については多くが不明なままです。線虫では、生殖幹細胞の維持に必須なglp-1遺伝子の変異体を用いることでこの寿命延長を再現することができます。この寿命延長には細胞内分解システムであるオートファジーの活性化が必要であることが報告されていましたが、個々の組織におけるオートファジー遺伝子の役割は十分に調べられていませんでした。
オートファジーの進行には複数のATGタンパク質が各ステップで協調して働きます。これまで、オートファジーの役割を調べる研究の多くは、個々のオートファジー遺伝子を全身で抑制する手法がとられてきました。一方、近年、一部のATGタンパク質がオートファジー以外の機能を持つことが報告されつつありますが、こうした機能が個体の寿命制御に関わるかどうかはほとんど不明でした。そこで本研究グループは、線虫の主要4組織で個別にオートファジー遺伝子を抑制し、生殖細胞欠損による寿命延長への影響を網羅的に解析しました。

研究の内容

本研究では、まず線虫の4つの主要組織である神経、腸、筋肉、表皮において、オートファジーの異なるステップに関わるatg遺伝子を個別にノックダウンし、生殖細胞欠損による寿命延長への影響を調べました。すると、神経または腸でatg-18をノックダウンするだけで寿命延長効果が完全に打ち消されることがわかりました(図2)。一方、同じ組織で他のatg遺伝子をノックダウンしても寿命への影響は見られませんでした(図3)。



図2. 神経または腸でのatg-18の抑制により長寿が廃止される



図3. 他のatg遺伝子の組織特異的抑制では寿命延長に影響がない
この差がオートファジーの阻害効率の違いに起因する可能性を排除するため、各組織のオートファジー活性を測定しました。オートファゴソームとリソソームの融合を阻害するクロロキンを用いて一定期間に形成されるオートファゴソームの数を測定したところ、すべてのatg遺伝子のノックダウンがそれぞれの組織でオートファジーを有効に阻害していることが確認されました(図4)。この結果は、組織特異的なatg-18の寿命制御機能がオートファジーとは独立したものであることを強く示唆しています。



図4. 組織特異的atg遺伝子の抑制はその組織のオートファジーを阻害する
次に、ATG-18がどのような因子と協調して寿命延長に寄与するのかを明らかにするため、プロテオミクス解析を行い、生殖細胞欠損条件下でATG-18と優先的に相互作用する因子を探索しました。その結果、糖新生の鍵酵素であるPCK-2を同定しました。腸においてATG-18がPCK-2のタンパク質発現を制御していること、そしてこの制御はオートファジーとは独立であることが明らかになりました。実際に、atg-18のノックダウンにより腸でのPCK-2タンパク質発現が低下することが確認されました(図5)。さらに、PCK-2の過剰発現による寿命延長にはATG-18が必要であることも分かりました(図5)。これらの結果は、ATG-18がオートファジーとは独立にPCK-2と相互作用し、腸での代謝制御を通じて寿命延長に寄与するという新たなメカニズムを示しています。



図5. ATG-18の相互作用因子PCK-2は腸で寿命延長に必須である

論文情報

掲載名:Aging Cell
タイトル:Autophagy-independent function of ATG-18 is essential for gonadal longevity inCaenorhabditis elegans著者:Tatsuya Shioda, Ittetsu Takahashi, Makoto Horikawa, Taiichi Osumi, Takayuki Shima, Akiyo Yamauchi, Kayo Nakamura, Taeko Sasaki, Tatsuya Kaminishi, Harunori Yoshikawa, Miyuki Sato, Hidetaka Kosako, Tamotsu Yoshimori*, Shuhei Nakamura* (*責任著者)
掲載日: 2026年3月29日
DOI:10.1111/acel.70454
本研究は、日本医療研究開発機構(AMED)革新的先端研究開発支援事業(AMED-CREST)研究開発領域「ストレスへの応答と疾病発症に至るメカニズムの解明」における研究課題「リソソームストレス応答の破綻による神経・筋疾患発症機序の解明と超早期バイオマーカー開発」(研究代表者:中村修平)「JP24gm1910008」、研究開発領域「プロテオスタシスの理解と革新的医療の創出」における研究課題「細胞内膜動態によるプロテオスタシス制御の理解:健康長寿の実現に向けて」(研究代表者:吉森保)「JP22gm1410014」、革新的先端研究開発支援事業インキュベートタイプ(LEAP)「健康長寿実現に向けたオートファジー創薬と診断法開発」(研究代表者:吉森保)「JP25gm0010012」、日本学術振興会基盤研究S「疾患と老化に対抗するオートファジーの分子機構と制御因子の作動原理の解明」(研究代表者:吉森保)「22H04982」、文部科学省 学術変革領域研究A「リソソーム構成タンパク質のターンオーバーを担う分子機構と老化における役割の解明」(研究代表者:中村修平)「24H01910」、日本学術振興会基盤研究B「生殖と寿命のバランス制御の中核を担う組織間情報伝達カスケードの解明」(研究代表者:中村修平)「24K01979」、日本学術振興会特別研究員奨励費「神経系ヒストンバリアントによる寿命延長メカニズムの解明」(研究代表者:塩田達也)「22KJ2165」、武田科学振興財団、上原記念生命科学財団、中外創薬科学財団、内藤記念科学振興財団、東レ科学振興会「23-6408」、細胞科学研究財団、奈良県立医科大学オートファジー・抗老化研究センター等の支援を受けて行われました。