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大阪大学 研究Discovery Saga
2026年4月13日

寄生虫の狡猾な「脱出戦略」を解明

細胞という“檻”からの脱出、その鍵はタンパク質の「共犯関係」だった

【注目の成果:共同研究・産学連携のためのチェックポイント】
寄生虫の感染拡大に必須である脱出機構の新原理が解明されたことで、トキソプラズマをはじめとする細胞内寄生虫の新規治療法の開発が期待
【産学連携対象 全学共通分野 Discovery Saga】
数物系科学総合理工工学総合生物農学医歯薬学
【Sagaキーワード】
閉じ込め/質量分析/マイクロ/トキソプラズマ/生体内/人獣共通感染症/病原性/寄生虫/微生物/病原体/細胞膜/新規治療法/免疫沈降/免疫不全/CRISPR/胎児/分子機構/ゲノム編集/スクリーニング/マウス/創薬/免疫学/ゲノム/遺伝学/遺伝子/疫学/感染症/公衆衛生/新生児
2026-4-9●生命科学・医学系微生物病研究所教授山本 雅裕

発表のポイント

寄生虫トキソプラズマ宿主細胞を破壊し脱出する際に必須のタンパク質MIC11を発見
寄生虫の細胞脱出は膜破壊タンパク質PLP1単独で成立すると従来考えられてきたが、MIC11との協力が必要不可欠であることを発見
寄生虫の感染拡大に必須である脱出機構の新原理が解明されたことで、トキソプラズマをはじめとする細胞内寄生虫の新規治療法の開発が期待される

発表概要

大阪大学微生物病研究所の橘優汰助教、山本雅裕教授(免疫学フロンティア研究センター兼任)らは、スイス・ジュネーブ大学、米国・ミシガン大学、徳島大学、愛媛大学と連携した日米欧の国際共同研究により、寄生虫トキソプラズマの細胞脱出機構に関する従来の概念を覆す成果を得ました。宿主細胞の膜破壊は単一因子ではなく、複数のタンパク質が協力して成立することを明らかにしました。
これまで寄生虫の細胞脱出は、寄生虫から放出されるパーフォリン様タンパク質(PLP1)単独で成立すると長らく考えられていましたが、その詳細な分子機構は十分に解明されていませんでした。
今回、研究グループは、in vivo (生体内) CRISPRスクリーニング法を用いることにより新規因子MIC11を同定し、このMIC11がPLP1と協力して細胞の膜破壊と寄生虫の脱出を成立させることを解明しました。これにより、寄生虫の脱出機構に関する15年以上支持されてきた従来の説が大きく更新されるとともに、新たな感染症治療法の創出につながることが期待されます。
本研究成果は、科学雑誌「Nature Communications」に、4月4日(土)に公開されました。



細胞内部で増殖した寄生虫は2つのタンパク質を組み合わせて宿主の細胞膜を攻撃・破壊し、細胞外へ脱出して感染を広げる

研究の背景

寄生虫は宿主(ヒトや動物など)に寄生して病気(感染症)を引き起こす病原体です。寄生虫の仲間は宿主の細胞の外側で増殖する細胞外寄生虫と細胞の内側に入り込んで増殖する細胞内寄生虫に大別されます。細胞内寄生虫は宿主の細胞に侵入、増殖、脱出を繰り返すことで身体の中で感染を拡大します。細胞内寄生虫が宿主細胞から脱出する際には、多くの場合、宿主細胞は物理的に破壊され死んでしまいます。これは細胞内寄生虫が病気を起こす主要なメカニズムです。
細胞内寄生虫には世界中でヒトや動物に病気を起こす寄生虫が多数存在し、日本を含む先進国においても胎児・新生児や免疫不全患者に致死性となる寄生虫トキソプラズマが含まれています。トキソプラズマは全世界で人口の約3分の1が既に感染済みであると考えられていて、ネコの糞や汚染された食べ物などから感染します。
2009年に論文が報告されて以降、トキソプラズマがマイクロネームから放出する膜破壊タンパク質であるパーフォリン様タンパク質PLP1が単独で細胞膜に穴を開けて破壊するという単純なモデルが提唱され、支持されてきました。しかし、実際にはトキソプラズマが膜に穴を開けて破壊する仕組みの詳細は謎に包まれていました。

研究の内容

研究グループでは、遺伝子を操作する技術であるCRISPR/Cas9(クリスパー・キャスナイン)ゲノム編集を応用したin vivo CRISPRスクリーニングによって、これまで見過ごされていたもう一つの膜破壊因子であるMIC11を発見しました。人工的に作製されたMIC11を欠損するトキソプラズマは細胞に穴を開けることも細胞から脱出することもできなくなり(図1・図2)、マウスに病気を起こす能力も消失しました。免疫沈降・質量分析による解析でMIC11とPLP1は複合体を形成することが明らかになりました(図3)。
結果をまとめると、宿主の細胞内で増殖したトキソプラズマから放出されたMIC11とPLP1が互いに協力することで細胞の膜に穴を開けて構造的に脆弱化させます。最終的にはトキソプラズマが細胞そのものを破壊して細胞外へと脱出、新しい宿主細胞へと感染を拡大することが明らかになりました。
また上記の内容はヒト感染期トキソプラズマでの現象ですが、終宿主であるネコ感染期トキソプラズマにおいても類似した脱出機構の存在が示唆されました。トキソプラズマの脱出がヒトとネコという異なる宿主環境においても同様の仕組みに依存していることは大変興味深く、トキソプラズマの脱出の阻害は、ヒトへの感染源であるネコにおける感染対策の糸口になる可能性を秘めています。この知見は近年重要視されるワンヘルス(One Health)の観点からも、ヒトと動物にまたがる人獣共通感染症の制御戦略として非常に重要です。



図1. MIC11欠損株は脱出できず細胞内に閉じ込められてしまう



図2. MIC11欠損株は膜に孔を開けることができない(シグナルが消失しない)



図3. MIC11とPLP1は相互に免疫沈降されることから、両者の複合体の形成を示唆する

本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)

本研究成果により、寄生虫トキソプラズマが従来考えられてきたよりも複雑かつ巧妙な戦略によって宿主細胞を破壊して脱出することがわかりました。細胞からの脱出は細胞内病原体に共通した基本原理であることから、新たな感染症治療法の開発が期待されます。

特記事項

本研究成果は、2026年4月4日(土)に英国科学誌「Nature Communications」(オンライン)に掲載されました。
タイトル:“An in vivo fitness gene ofToxoplasma, MIC11, is essential for PLP1-mediated egress from host cells”
著者名:Yuta Tachibana, Xue Gu, Miwa Sasai, Hidetaka Kosako, Eizo Takashima, Daron M. Standley, Vern B. Carruthers, Dominique Soldati-Favre, and Masahiro Yamamoto
DOI:https://doi.org/10.1038/s41467-026-71423-x
なお、本研究は、AMED新興・再興感染症に対する革新的医薬品等開発推進研究事業「日本で起こりうるヒト胞子虫類原虫症への公衆衛生対策に資する総合的研究開発」とAMED新興・再興感染症研究基盤創生事業「生体CRISPRスクリーン法と宿主遺伝学を駆使したトキソプラズマ重要病原性因子コネクトーム情報に基づく新規胞子虫類原虫症創薬シーズの探索 」との一環として行われ、徳島大学 小迫英尊教授、愛媛大学 高島英造教授、ジュネーブ大学 Dominique Soldati-Favre教授、ミシガン大学 Vern Carruthers教授の協力を得て行われました。

参考URL

大阪大学微生物病研究所 感染病態分野(山本研)
https://immpara.biken.osaka-u.ac.jp/
山本 雅裕 教授 研究者総覧
https://rd.iai.osaka-u.ac.jp/ja/0b3a8cfc76bb6001.html
橘 優汰 助教 研究者総覧
https://rd.iai.osaka-u.ac.jp/ja/119f90307416df7b.html