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東京大学 研究Discovery Saga
2026年4月3日

共生することが温暖化への耐性を高める

―海洋プランクトンの光共生の新たな役割―

【注目の成果:共同研究・産学連携のためのチェックポイント】
海洋の低次生態系を支えるプランクトンの温度耐性を理解することは、さらなる温暖化地球における海洋生態系の姿を予測することに貢献すると期待
【産学連携対象 全学共通分野 Discovery Saga】
環境学数物系科学生物学工学農学医歯薬学
【Sagaキーワード】
海洋/地球温暖化/古海洋/堆積物/地球化学/クロロフィル/光合成/生殖/地球環境/海洋環境/環境問題/炭酸カルシウム/環境ストレス/海洋生物/原生生物/生態系/環境応答/生物間相互作用/プランクトン/渦鞭毛藻/温暖化/海洋生態/海洋生態系/褐虫藻/動物プランクトン/微細藻類/ニッチ/代謝産物/カルシウム/ストレス

2024年4月3日
東京大学 
千葉大学
科学技術振興機構(JST)


研究の成果

要約版PDF

発表のポイント

◆海洋プランクトンの浮遊性有孔虫が、現在進行中の地球温暖化に対してどう応答するかを実験的に調べ、高い温暖化耐性を示すことを明らかにしました。
◆共生藻について、共生状態と自由生活状態を比較すると、共生状態のほうがより高温まで耐えられることが明らかになり、宿主細胞内が、共生藻にとって避難所のような役割を果たす可能性を示しました。
◆海洋の低次生態系を支えるプランクトンの温度耐性を理解することは、さらなる温暖化地球における海洋生態系の姿を予測することに貢献すると期待されます。



32℃でも元気な光共生系(左)と29℃までしか成長できない単離共生藻(右)

発表概要

東京大学大気海洋研究所の高木悠花准教授と、千葉大学大学院融合理工学府地球環境科学専攻の関根真大学院生による研究グループは、単細胞の動物プランクトンである浮遊性有孔虫(注1)と渦鞭毛藻(注2)との光共生(注3)が、共生藻の温暖化耐性を高めることを明らかにしました。
本研究では、渦鞭毛藻を細胞内に共生させる浮遊性有孔虫Trilobatus sacculiferを異なる温度条件下で飼育するとともに、本種から単離した共生藻Pelagodinium béiiの単離培養株を用いて同様の温度実験を行うことで、単離状態(自由生活状態)よりも共生状態の方が高温まで耐えられることを明らかにしました。これまで、光共生系の高温耐性に関する研究は、造礁性サンゴを対象とした研究が中心的で、他の分類群の知見は極めて限られていました。本研究では、外洋域に生息するプランクトンの光共生系を対象として実験を行い、浮遊性有孔虫の光共生系では、「白化(注4)」と呼ばれる現象は確認されなかったこと、むしろ共生藻にとっては、光共生することが温暖化の悪影響を回避する「避難所」のような役割を果たしている可能性を初めて示しました。このようなプランクトンの環境応答を理解することは、将来の地球温暖化に対して海洋生態系がどう応答していくかを理解することに貢献します。

発表内容

海洋生物の高温耐性は、将来のさらなる温暖化した海洋環境での生存を左右する重要な要素です。しかし、生物は必ずしも単独で生きているわけではなく、さまざまな生物間相互作用の中で生きています。特に共生関係においては、共生生物の温度耐性が、共生系全体の耐性を左右することも知られ、サンゴと褐虫藻の関係では、より高温耐性の高い共生藻を有することが、共生系全体の高温耐性を高め、サンゴを白化から守ることにつながるとされています。
光共生は、さまざまな海洋プランクトンにおいても知られています。その中のひとつである浮遊性有孔虫は、サンゴの褐虫藻に近縁な渦鞭毛藻を共生藻としてもつことから、温度上昇に応じて、サンゴと同様に白化してしまうかもしれません。しかし、外洋性でかつ継代培養できないプランクトンの環境応答調査は、試料入手の問題からあまり進められておらず、これまで未検証でした。そこで本研究では、沖縄県瀬底島沖、相模湾真鶴沖の2地点で十分な数のT. sacculiferを採取し実験に供することで、浮遊性有孔虫の温度耐性実験を、19.5℃から36℃に及ぶ広い温度範囲で実施しました。実験中は、宿主の成長、共生藻の増殖、光合成活性、生殖などを調査しました。また、T. sacculiferから共生藻を単離して確立した培養株を用いて、温度実験に供することで、共生藻そのものだけの温度耐性も評価しました。
実験の結果、T. sacculiferの共生系は、32℃という高温まで健康的に成長できることが明らかになり、本共生系の高い温度耐性が明らかとなりました(図1)。また、34℃以上は致死的であったものの、「白化」と言えるような状態は観察されませんでした。一方で、共生藻単体では29℃までしか増殖できず(図2)、「共生系の温度耐性が共生藻の温度耐性に依存する」という従来の定説を覆す結果となりました。むしろ、共生することが、共生藻にとって高温耐性を高めている、と言える結果です(図3)。共生藻単離培養株の追加的実験により、遮光条件下では30℃まで増殖できることが示されたことから、共生状態では宿主の細胞が光を遮蔽することで光ストレスを緩和し、間接的に、より高温まで耐えられるようになっていることが示唆されました。このことは、宿主の細胞内にいることが、共生藻にとって避難所のような役割を果たす可能性を示唆しており、栄養のやり取りだけではない、光共生の新たな側面が見出されました。
地球温暖問題では、温暖化が生物へ与える悪影響ばかりが注目されますが、一方でどのような分類群が適応し繁栄していくかを理解しなければ、将来のさらなる温暖化地球における生態系の様相を予測することはできません。本研究で示した、海洋の低次生態系を支えるプランクトンや、それらの共生系の温度耐性の理解は、将来の海洋生態系の姿を予測する一助となることが期待されます。



図1:浮遊性有孔虫(光共生系)のクロロフィル増殖(Fm)と光合成活性(Fv/Fm)。温度区毎の時系列変化。



図2:単離状態の共生藻のクロロフィル増殖(Fm)と光合成活性(Fv/Fm)。温度区毎の時系列変化。



図3:共生状態(in hospite)と自由生活状態(free-living)の光合成活性(Fv/Fm)の温度応答比較。

関連情報

「研究トピックス 単細胞を飼う単細胞:浮遊性有孔虫と藻類の光共生関係の解明」(2019/10/23)
https://www.aori.u-tokyo.ac.jp/research/topics/2019/20191023.html
「プレスリリース 海洋プランクトンの「光共生」の進化史を解明―外洋域生態系におけるニッチ形成メカニズム―」(2025/1/16)
https://www.aori.u-tokyo.ac.jp/research/news/2025/20250116.html

発表者・研究者等情報

東京大学 大気海洋研究所
 高木 悠花 准教授
千葉大学 大学院融合理工学府 地球環境科学専攻
 関根 真 大学院生(修士課程)

論文情報

雑誌名:Symbiosis
題 名:Photosymbiosis and thermal tolerance: Insights from planktonic foraminifera and their dinoflagellates(3月31日付掲載)
著者名:Haruka Takagi, Shin Sekine
DOI: 10.1007/s13199-026-01122-0
URL:https://doi.org/10.1007/s13199-026-01122-0

研究助成

本研究は、JSPS科学研究費助成事業「若手研究(課題番号:JP21K14896)」、「基盤B(課題番号:JP24K01832)」、JST創発的研究支援事業(JPMJFR2176)、クリタ水・環境科学振興財団国内研究助成(22B048、23K017)の支援により実施されました。

用語解説

(注1)浮遊性有孔虫(ふゆうせいゆうこうちゅう)
単細胞性の動物プランクトンで、海洋表層に広く生息している。原生生物の一グループであるリザリアに属する。炭酸カルシウムの殻をもち、死後は堆積物中に微化石として保存される。殻に記録される様々な地球化学的指標は古海洋環境の解析に用いられている。
(注2)渦鞭毛藻(うずべんもうそう)
海洋に広く生息する真核微細藻類。他生物と共生/寄生関係を築く種も多く、サンゴに共生する褐虫藻も渦鞭毛藻である。
(注3)光共生(ひかりきょうせい)
光合成を行う微細藻類を細胞内に共生させること。宿主は藻類から光合成産物を栄養として受け取り、また藻類は宿主の代謝産物を光合成のための栄養として利用できると考えられている。貧栄養な外洋域では、栄養面において重要な適応戦略となる。混合栄養性の一種とも言える。
(注4)白化(はっか)
共生藻が宿主からいなくなる、あるいは共生藻の色素が失われて白く見える現象。天然環境においては、サンゴと褐虫藻の間でよく知られている現象であり、急激な海水温上昇等の環境ストレスによって白化が起こることが重大な環境問題となっている。

問い合わせ先

東京大学 大気海洋研究所
准教授 高木 悠花(たかぎ はるか)
E-mail:htakagi◎aori.u-tokyo.ac.jp※アドレスの「◎」は「@」に変換してください