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埼玉大学 研究Discovery Saga
2026年4月2日

ATPが排便を引き起こす大腸の強収縮を駆動する

―P2X7受容体を介した新たな大腸運動メカニズムの解明―(大学院理工学研究科 坂田一郎 教授)

【注目の成果:共同研究・産学連携のためのチェックポイント】
便秘などの大腸運動機能障害に対する新たな治療薬・治療戦略の開発につながることが期待
【産学連携対象 全学共通分野 Discovery Saga】
総合生物農学医歯薬学
【Sagaキーワード】
生体内/リン酸/消化管/哺乳動物/アデノシン/動物モデル/運動機能/神経伝達物質/大腸/ATP/シグナル分子/モデル動物/受容体

2026/4/2
プレスリリース全文はこちらからご覧ください。

発表のポイント

生体内のエネルギー物質として知られるATP(アデノシン三リン酸)が、排便に不可欠な大腸の強力な収縮(GMC)を引き起こすことを発見しました。
ATPによるGMCの誘発は、P2X7受容体を介してコリン作動性神経を活性化することによって引き起こされることを解明しました。
本研究の成果は、便秘などの大腸運動機能障害に対する新たな治療薬・治療戦略の開発につながることが期待されます。



発表概要

大腸で発生する強い収縮(Giant migrating contractions: GMC)は、腸内容物を強力に押し出し、排便を促す重要な役割を担っています。しかし、GMCがどのような要因で制御されているのか、その詳細なメカニズムはこれまで不明でした。本研究では、消化管運動の優れた動物モデルであるスンクス(ジャコウネズミ)を用いて、痛みのシグナル伝達などに関与することが知られているATPに着目して、GMCへの影響を解析しました。

実験の結果、スンクスにATPを静脈内投与すると、自然発生するGMCと非常によく似た強力な収縮が誘発されることが明らかになりました。この作用は、P2X7受容体の拮抗薬や、神経伝達を遮断するアトロピンを事前に投与することで強く抑制されたため、ATPがP2X7受容体を介してコリン作動性神経を活性化していることが確認されました。本研究により、ATPが大腸GMCの新たな調節因子であることが示され、今後の大腸運動障害の治療法開発への応用が期待されます。

本研究は、埼玉大学大学院理工学研究科生体制御学プログラムの坂田一郎教授と埼玉大学大学院理工学研究科博士前期課程学生(五味彩乃、下沢萌月)で実施され、本成果は米国実験生物学会連合(The Federation of American Societies for Experimental Biology)の国際誌『The FASEB Journal』に2026年3月26日付でオンラインにて掲載されました。

論文情報

掲載誌 The FASEB Journal
論文タイトル Purinergic ATP-P2X7 signaling drives colonic giant migrating contraction in Suncus murinus
著者 五味彩乃(埼玉大学)、下沢萌月(埼玉大学)、坂田一郎(埼玉大学)
DOI 10.1096/fj.202504538RR
URL https://doi.org/10.1096/fj.202504538RR

用語解説

「ATP(アデノシン三リン酸)」 生体内の細胞における主要なエネルギー通貨として働く分子。細胞外に放出されると、神経伝達物質などのシグナル分子としても機能します。

「スンクス」 食虫目トガリネズミ科、ジネズミ亜科、ジャコウネズミ属に位置する小型哺乳動物。ヒトと同様の消化管運動を示すことから、ヒトの消化管運動メカニズムを研究するためのモデル動物として活用されている。

「大腸強収縮運動」 大腸の口側から肛門側に向かって伝播する、振幅が大きく持続時間の長い強力な収縮運動。腸内容物を移動させ、排便を促す役割を持ちます。

「P2X7受容体」 ATPが結合することで活性化される受容体の一種(P2受容体ファミリー)。これまで炎症や痛みの伝達への関与が知られていたが、本研究により、大腸の強収縮運動にも関与することが新たに明らかになった。
坂田 一郎|埼玉大学研究者総覧