[Top page] [日刊 研究最前線 知尋] [Discovery Saga総合案内] [大学別アーカイブス] [Discovery Saga会員のご案内] [産学連携のご案内] [会社概要] [お問い合わせ]

群馬大学 研究Discovery Saga
2026年3月31日

カニ殻副産物を利用して海洋生分解性プラスチックの寿命を調節することに成功

〜プラスチック表面の微生物群を変化させ、海水中での分解速度を制御〜

【注目の成果:共同研究・産学連携のためのチェックポイント】
水産副産物を活用して、海洋生分解性プラスチックの海中での寿命を調節する低コストかつ持続可能な手法として期待
【産学連携対象 全学共通分野 Discovery Saga】
複合領域環境学化学生物学工学農学医歯薬学
【Sagaキーワード】
技術戦略/産学連携/海洋/海洋科学/微生物群集/環境調和/フィルム/生分解性プラスチック/生物群集/材料科学/アルカン/生分解/持続可能/地球環境/材料設計/プラスチック/海洋環境/資源循環/新エネルギー/耐久性/電子顕微鏡/電子顕微鏡観察/生分解性/rRNA/16S rRNA/ポリヒドロキシアルカン酸/バイオマス/キチン/微生物/メタゲノム解析/オミクス/オミクス解析/遺伝子解析/ゲノム解析/メタゲノム/寿命/トランスクリプトーム/ゲノム/バイオフィルム/遺伝子

概要

群馬大学大学院食健康科学研究科・大学院理工学府・食健康科学教育研究センター(GUCFW)と海洋研究開発機構(JAMSTEC)の研究グループは、水産加工で生じるカニ殻副産物を活用することで、海洋生分解性プラスチックであるポリ(3-ヒドロキシブタン酸ーcoー3-ヒドロキシ吉草酸)(PHBV)の海水中での分解速度を調節できることを明らかにしました。カニ殻が共存すると、PHBV表面への微生物の初期付着が抑えられ、さらに同プラスチック分解に関わる酵素(exPhaZ)遺伝子の発現も初期段階で低下することがわかりました。これにより、PHBVの分解が遅延し、材料の実使用寿命を延長できる可能性が示されました。

本研究では、カニ殻がPHBVに直接触れていない条件でも同様の効果が確認されました。これは、単なる物
理的な遮蔽ではなく、カニ殻由来成分がプラスチック表面の微生物群集(プラスティスフィア)を変化させることに起因すると示唆されました。本成果は、水産副産物を再利用しながら、海洋生分解性プラスチックの「分解しやすさ」を高めるのではなく、用途に応じて寿命を調節する新しいコンセプトを提示するものです。

本研究の成果は、2026年3月24日に国際学術誌Polymer Degradation and Stability (エルゼビア社) にオンライン掲載されました。


1.本件のポイント


海洋生分解性プラスチックPHBVは海水中で分解する一方、分解が速すぎるため使用中の耐久性が課題となっている。
カニ殻副産物を共存させると、PHBV表面の微生物付着量(バイオフィルム量)はPHBVのみと比較して19~61%に抑えられ、分解も遅くなった。
4週間時点で、カニ殻と接したPHBVの重量減少量はPHBVのみと比較して20%未満、8週間後でも52%にとどまった。
メタオミクス解析により、カニ殻の存在がプラスチック表面の微生物群集をくみかえ、exPhaZの初期発現を抑制することが示された。
水産副産物を活用して、海洋生分解性プラスチックの海中での寿命を調節する低コストかつ持続可能な手法として期待される。

2.研究背景


海洋プラスチックごみ問題は世界的な課題であり、その対策の一つとして、海洋環境中で微生物により分解される海洋生分解性プラスチックが注目されています。一方で、材料によっては、海中で十分に分解しないものもあれば、逆に分解が速すぎるため、使用中に必要な耐久性を維持できない場合もあります。したがって、海洋生分解性プラスチックには、「単に分解すること」だけでなく、「必要な期間は性能を保ち、その後に適切に分解すること」が求められます。

そこで今回、研究グループは、海洋で生分解しやすいポリヒドロキシアルカン酸系材料の一種であるPHBVに着目しました。そして、水産加工副産物として大量に生じるカニ殻が、海洋中でPHBV表面に形成される微生物群集(プラスティスフィア)に影響を与え、結果として分解速度を調節できるのではないかと考え、検証を行いました。カニ殻はキチン、タンパク質、無機物から構成される身近なバイオマス資源で、高い海洋生分解性を示すことが知られています。

3.研究内容


本研究では、PHBVフィルムを海水タンク内に設置し、カニ殻と直接接触させた条件と、同じタンク内に置きながら直接は触れさせない条件とで比較しました。その結果、いずれの条件においても、カニ殻がない場合と比較すると、PHBVの分解は明らかに抑制されることが分かりました。

重量減少の測定では、カニ殻と共存させたPHBVは、1~4週間の重量減少量がPHBV単独の場合の8~20%にとどまり、8週間後でも52%でした。また、PHBV表面に形成されるバイオフィルム量も、PHBV単独の19~61%まで低下しました。

電子顕微鏡観察では、通常のPHBVでは浸漬1週間後から表面に穴や侵食構造が現れましたが、カニ殻共存条件では4週間までは大きな変化が見られず、表面劣化の進行が遅れていることが確認されました。さらに、カニ殻がPHBVに直接触れていなくても初期分解が抑えられたことから、この効果は単なる物理的な遮蔽ではなく、カニ殻由来の化学的・生物学的作用によるものであると考えられました。

また、16S rRNA遺伝子解析、メタゲノム解析、メタトランスクリプトーム解析の結果、通常のPHBV単独の表面ではOceanospirillumやBowmanellaが優勢であったのに対し、カニ殻共存条件ではMarinobacterなど別の微生物群が優勢となることがわかりました。さらに、PHBV分解に関与すると考えられる酵素(exPhaZ)遺伝子の発現は、カニ殻共存条件の初期段階で抑制されていました。これは、カニ殻由来のキチンやタンパク質が微生物にとって利用しやすい栄養源となり、微生物がPHBVを優先的に分解しなくなったためであると考えられます。

本成果は、水産副産物を利用して海洋生分解性プラスチックの寿命を設計するという、新たな材料設計の可能性を示すものです。将来的には、海洋用途のプラスチック製品において、「必要な期間は性能を維持し、その後に分解する」という機能設計への応用が期待されます。

4.掲載先


雑誌名 :Polymer Degradation and Stability
公開日 :2026年3月24日
論文名 :Chitin-Rich Crab Shell By-Products Modulate the Marine Lifetime of PHBV Films via Plastisphere Remodeling
著者名 :Phouvilay Soulenthone, Tsukuru Tsukui, Miwa Suzuki, Yuya Tachibana, Shun’ichi Ishii, Hiroyuki Kashima, Yoshiyuki Ishitani, Ken-ichi Kasuya
DOI :10.1016/j.polymdegradstab.2026.112075

発表者情報


群馬大学大学院食健康科学研究科・食健康科学教育研究センター(GUCFW)
粕谷 健一 教授(兼GUCFW)
鈴木 美和 講師(兼GUCFW)
Soulenthone Phouvilay 助教 (兼GUCFW)
橘 熊野 教授 (兼GUCFW)
群馬大学大学院理工学府
津久井 創 研究当時:博士前期課程 大学院生
海洋研究開発機構(JAMSTEC)超先鋭研究開発部門
石井 俊一 主任研究員
鹿島 裕之 准研究員
石谷 佳之 特任研究員

研究助成

本研究は、下記支援により実施されました。 NEDO(国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構)委託事業「ムーンショット型研究開発事業/地球環境再生に向けた持続可能な資源循環を実現/生分解開始スイッチ機能を有する海洋分解性プラスチックの研究開発(課題番号:JPNP18016)」(プロジェクトマネージャー:粕谷健一, 研究期間:2020年度~2027年度)

問い合わせ先

<研究に関すること>
群馬大学 大学院食健康科学研究科 兼 食健康科学教育研究センター 教授・センター長 粕谷 健一(カスヤ ケンイチ)
E-MAIL:kkasuya@gunma-u.ac.jp
<その他>
群馬大学 研究・産学連携推進機構 研究・産学連携戦略本部 研究URA室 URA 松村 幸子(マツムラ サチコ)
E-MAIL:sacmatsu@gunma-u.ac.jp
<取材についてのお問い合わせ>
群馬大学 桐生地区事務部事務課庶務係(広報)
TEL:0277-30-1014
E-MAIL:rikou-pr@ml.gunma-u.ac.jp
海洋研究開発機構 海洋科学技術戦略部報道室
E-MAIL:press@jamstec.go.jp

関連リンク

環境調和型材料科学研究室ホームページはこちら