血管内皮が血液中のアディポネクチンを 全身臓器へ届ける仕組みを解明
心血管・代謝疾患の新たな治療標的に期待
【注目の成果:共同研究・産学連携のためのチェックポイント】
![]() | 血管内皮Tカドヘリンが高分子量体アディポネクチンを能動的に選別・輸送する役割を果たし、肥満や糖尿病、心不全、動脈硬化などの新たな治療ターゲットとなることが期待 |
【産学連携対象 全学共通分野 Discovery Saga】
【持続可能な開発目標(SDGs)】
【Sagaキーワード】
解析学/高分子/エンドソーム/筋細胞/持続可能/持続可能な開発/リサイクリング/遺伝子改変/生体内/Rab/細胞膜/心肥大/新規治療法/肥満症/血管内皮/治療標的/心筋/心筋細胞/ホルモン/骨格筋/脂肪細胞/心臓/アディポネクチン/カドヘリン/マウス/遺伝子改変マウス/血液/血管内皮細胞/細胞生物学/細胞内輸送/自然免疫/神経細胞/生理活性/体内動態/内皮細胞/内分泌/培養細胞/免疫応答/エクソソーム/遺伝子/遺伝子発現/生活習慣病/線維化/糖尿病/動脈硬化/動脈硬化症
2026-3-24●生命科学・医学系医学系研究科助教藤島 裕也発表のポイント
血管内皮細胞に発現するTカドヘリンが、最も生理活性の高い高分子量体アディポネクチンを細胞内に取り込み、リサイクリングエンドソームを介して血液中から血管の反対側へ運ぶ(トランスサイトーシス)という新しい輸送機構を世界で初めて発見。脂肪細胞から分泌される多量体アディポネクチンは分子量が非常に大きく、血管内皮をどのように通過して全身の臓器に届くのかは不明だった。
今回、血管内皮細胞に豊富に発現しているアディポネクチン結合蛋白であるTカドヘリンに着目し、細胞内輸送経路を解析することで、能動的な輸送の仕組みを解明。
血管が生体に重要なホルモンを選別・輸送するという新しい概念により、肥満症、糖尿病をはじめとする代謝疾患、心不全、動脈硬化症などの病態理解が進展し、Tカドヘリンや輸送経路を標的とした新規治療法の開発への応用に期待。
発表概要
大阪大学大学院医学系研究科の大学院生・塩出 俊亮さん(博士後期課程)、藤島 裕也助教、西澤 均寄附講座准教授、下村 伊一郎教授らの研究グループは、脂肪細胞から分泌される善玉ホルモン「アディポネクチン」が、どのようにして血管を越え、心臓や骨格筋などの臓器へ届けられるのか、その分子メカニズムを明らかにしました。アディポネクチンは、動脈硬化や心肥大、糖尿病の発症・進展を防ぐ重要なホルモンであり、特に多量体・高分子量体アディポネクチンは高い生理活性を持つとされています。しかし、その分子サイズは非常に大きく、血管内皮のバリアをどのように通過するのかは不明でした。
本研究では、血管内皮細胞に発現するTカドヘリンに着目し、遺伝子改変マウスおよび培養内皮細胞を用いて解析しました。その結果、アディポネクチンがTカドヘリンを介して内皮細胞内に取り込まれた後、分解されることなくリサイクリングエンドソームを介したトランスサイトーシスによって血管の反対側へ輸送され、臓器へ届けられることを世界で初めて示しました。さらに、血管内皮でTカドヘリンを欠損させると、心臓や骨格筋へのアディポネクチンの到達が低下し、心臓で炎症や線維化に関連する遺伝子発現が亢進することが分かりました。
本研究成果は、血管内皮Tカドヘリンが高分子量体アディポネクチンを能動的に選別・輸送する役割を果たし、肥満や糖尿病、心不全、動脈硬化などの新たな治療ターゲットとなることが期待されます。
本研究成果は、米国科学誌「Metabolism」(オンライン)に、1月3日に公開されました。

図1. 血管内皮細胞のTカドヘリンが、リサイクリングエンドソームを経由するトランスサイトーシスを介して、血中の高分子量体アディポネクチンを心筋細胞や骨格筋細胞に届ける役割を果たし、臓器の恒常性維持に貢献し得ることが明らかとなりました。
研究の背景
肥満や糖尿病、心不全、動脈硬化といった生活習慣病は、日本でも患者数が増え続けており、大きな社会的課題となっています。これらの病気の発症や進行を抑える因子として、脂肪細胞から分泌されるホルモン「アディポネクチン」が重要な役割を果たすことが知られています。特に、複数の分子が結合した多量体・高分子量体アディポネクチンは、心臓や血管、骨格筋を保護する強い作用を持つと考えられています。しかし、アディポネクチンは分子サイズが非常に大きく、血管内皮細胞が形成する強固なバリアをどのように通過して、血管内から臓器へ届けられ、作用するのかは、長年の未解決問題でした。この輸送機構を明らかにすることは、アディポネクチンの臓器保護作用を正しく理解する上で不可欠であり、生活習慣病や心血管疾患の新たな治療戦略につながる可能性があります。
研究の内容
研究グループは、血管内皮細胞に発現するTカドヘリンに着目し、遺伝子改変マウスおよび培養細胞を用いて、アディポネクチンの生体内動態を詳細に解析しました。Tカドヘリンは、多量体アディポネクチンと特異的かつ高親和性に結合する細胞膜タンパクとして知られており、これまでアディポネクチンの重要な結合分子(受け皿)として位置づけられてきました。その結果、アディポネクチンはTカドヘリンを介して血管内皮細胞内に取り込まれた後、分解経路に送られることなく、Rab11によって制御されるリサイクリングエンドソームを利用して細胞内を通過し、血管の反対側へ運ばれる「トランスサイトーシス」という仕組みによって、臓器へ届けられていることを明らかにしました。
さらに、血管内皮細胞でTカドヘリンを欠損させたマウスでは、血中アディポネクチン濃度が上昇する一方で、心臓や骨格筋へのアディポネクチンの集積が著しく低下していることが分かりました。これに伴い、心臓では自然免疫応答や炎症、線維化に関連する遺伝子発現が亢進しており、アディポネクチンが臓器に届かないことで、臓器恒常性が破綻する可能性が示されました。
本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)
本研究成果により、血管内皮のTカドヘリンが、血管内を循環する高分子量体アディポネクチンを能動的に選別し、臓器へ届ける重要な調節装置であることが示されました。研究グループはこれまでに、アディポネクチンがTカドヘリンに結合した後、エクソソームの構成成分として再分泌される経路を報告しており、本研究はこの知見を発展させ、血管内皮を介したアディポネクチンの作用機構の全体像を明らかにするものです。本研究で明らかになったTカドヘリンを介した輸送機構は、アディポネクチンの効果が低下する病態の理解につながるとともに、将来的には心血管疾患や代謝疾患の予防・治療戦略の開発へと応用されることが期待されます。
特記事項
本研究成果は、2026年1月3日に米国科学誌「Metabolism」(オンライン)に掲載されました。タイトル:“Essential role of endothelial T-cadherin in the transcytosis of circulating high-molecular-weight adiponectin to sub-vascular tissues”
著者名:Shunsuke Shiode1, Yuya Fujishima1*, Keita Fukuoka1, Saito Inoue2, Atsuya Shirono2, Keisuke Shirakura2, Yoshiaki Okada2, Yoshihisa Koyama3, Yuta Kondo1, Kohei Fujii1, Keitaro Kawada1, Hirofumi Nagao1,4, Yoshinari Obata1, Shiro Fukuda1, Shunbun Kita1, Shoichi Shimada3, Norikazu Maeda1,5, Hitoshi Nishizawa1,4, and Iichiro Shimomura1 (*責任著者)
1 大阪大学大学院医学系研究科 内分泌・代謝内科学
2 大阪大学大学院薬学研究科 臨床薬効解析学分野
3 大阪大学大学院医学系研究科 神経細胞生物学
4 大阪大学大学院医学系研究科 代謝血管学寄附講座
5 近畿大学医学部 内分泌・代謝・糖尿病内科
DOI:https://doi.org/10.1016/j.metabol.2025.156488
なお、本研究は、日本学術振興会 科学研究費助成事業(科研費)および革新的先端研究開発支援事業(AMED-CREST)の一環として行われました。
参考URL
藤島 裕也助教 研究者総覧https://rd.iai.osaka-u.ac.jp/ja/816d258417c146a2.html
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