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金沢大学 研究Discovery Saga
2026年3月24日

抗体薬物複合体の耐性メカニズムを解明

医薬保健研究域医学系、教授 矢野 聖二 YANO, Seiji

【注目の成果:共同研究・産学連携のためのチェックポイント】
T-DXd の耐性メカニズムに ABC トランスポーターが重要な役割を果たしていることを明らかにした報告であり、次世代のADCの開発や治療シークエンスの最適化へつながることが期待
【産学連携対象 全学共通分野 Discovery Saga】
情報学化学総合生物農学医歯薬学
【Sagaキーワード】
最適化/トポイソメラーゼ/生体内/消化管/抵抗性/シークエンス/細胞膜/チロシンキナーゼ/細胞株/治療標的/微小管/分子機構/抗体薬物複合体/成長因子/ABCG2/ADC/ATP/HER2/in vitro/がん細胞/キナーゼ/リソソーム/抗原/細胞死/細胞分裂/受容体/多剤耐性/耐性克服/培養細胞/膜タンパク質/誘導体/胃がん/遺伝子/抗体/乳がん/肺がん


Research NEWS informationarrow_right_alt 2026/3/23

概要

金沢大学医薬保健研究域医学系呼吸器内科学の矢野聖二教授、医薬保健学総合研究科の村瀨裕哉特任助教、医薬保健研究域医学系消化管外科学/乳腺外科学の稲木紀幸教授らの共同研究グループは、HER2(※1)を標的とする抗体薬物複合体(Antibody-drug conjugate: ADC)(※2)であるトラスツズマブ デルクステカン(T-DXd)(※3)の治療中に生じる「薬剤が効かなくなる現象(獲得耐性)」について、がん細胞が薬剤を細胞外へ排出する仕組みが主要因の一つであることを明らかにしました。
 ADC は、標的抗原に結合する抗体に細胞傷害性を持つ抗がん薬(ペイロード)をリンカーで結合させた薬剤であり、T-DXd は HER2 を標的とする抗体に、強力な抗がん作用をもつエキサテカン誘導体(DXd)(※4)をペイロードに搭載しています。ADC は高い治療効果を示す一方で、その複雑な構造に基づく耐性の分子機構は十分に解明されていませんでした。
 本研究では、T-DXd に対する耐性メカニズムを、「標的抗原に関連する耐性機序」、「細胞内取り込みの低下による耐性機序」、「リソソームの機能障害」、「ペイロードに関連する耐性機序」の 4 つに分類し、耐性克服の道筋を検証しました。HER2 陽性胃がん細胞株(N87)と肺がん細胞株(Calu-3)を用いた in vivo(※5)モデルでは、標的抗原の発現の低下や T-DXd の細胞内取り込みの低下、リソソームの機能障害は認められませんでした。
 一方で、薬剤排出に関与する ABC トランスポーター(ABCG2/ABCB1)(※6)の発現が増加することでDXd の抗がん効果が減弱することが示されました。さらに、ABC トランスポーター阻害薬との併用やエリブリン(※7)をペイロードに搭載した新規 HER2-ADC BB1701(Bliss Bio)が、ABCG2 高発現の T-DXd 耐性モデルに対しても有効であることを示しました。
 本研究成果は、T-DXd の耐性メカニズムに ABC トランスポーターが重要な役割を果たしていることを明らかにした報告であり、次世代のADCの開発や治療シークエンスの最適化へつながることが期待されます。
 本研究成果は、2026 年 1 月 27 日に日本癌学会機関誌『Cancer Science』にオンライン掲載されました。


T-DXd耐性のメカニズム:ABCG2/ABCB1によるDXd排出
 

用語説明

※1 HER2
 HER2(Human Epidermal growth factor Receptor 2:ヒト上皮成長因子受容体 2)は、細胞膜上に存在する受容体型のタンパク質(受容体チロシンキナーゼ)です。ERBB2 遺伝子の増幅などにより HER2 が過剰に発現すると、がんの増殖に関与することがあり、乳がん、胃がんなどで重要な治療標的となっています。
※2 抗体薬物複合体(ADC)
 抗体薬物複合体(Antibody-drug conjugate:ADC)は、がん細胞に結合する抗体に、強力な細胞傷害性抗がん薬(ペイロード)をリンカーで結合させた薬剤です。標的分子を発現するがん細胞へ薬剤を選択的に届けることを狙いとする治療薬です。
※3 トラスツズマブ デルクステカン(T-DXd)
 トラスツズマブ デルクステカン(Trastuzumab deruxtecan:T-DXd)は、HER2を標的とする抗体(トラスツズマブ)に、ペイロードとしてデルクステカン(DXd)を結合させた HER2 標的 ADC です。HER2 陽性の複数のがん種で治療に用いられています。
※4 エキサテカン誘導体(DXd)
 DXd(デルクステカン)は、T-DXd に搭載されている細胞傷害性抗がん薬(ペイロード)で、エキサテカン(exatecan)を基にした誘導体です。主にトポイソメラーゼ I(TOP1)阻害を介して DNA に障害を与え、がん細胞死を誘導します。
※5 in vivo(生体内実験)
 生体(動物個体など)の中で行う実験。対して in vitro は培養細胞など試験管内で行う実験。
※6 ABC トランスポーター(ABCG2/ABCB1)
 ABC トランスポーター(ATP-binding cassette transporter)は、ATP のエネルギーを使って細胞内の物質を細胞外へ汲み出す膜タンパク質群です。ABCG2(BCRP)や ABCB1(P-glycoprotein/MDR1)は、抗がん薬を細胞外へ排出することで薬剤抵抗性(多剤耐性)に関与することが知られています。
※7 エリブリン
 エリブリンは、微小管の働きを阻害して細胞分裂を妨げる抗微小管薬(細胞傷害性抗がん薬)です。乳がんなどで使用される薬剤で、ADC のペイロードとして用いられる場合もあります。
 
プレスリリースはこちら
ジャーナル名:Cancer Science
研究者情報:矢野 聖二
村瀨 裕哉
稲木 紀幸

関連情報

金沢大学 大学院医薬保健学総合研究科・医薬保健学域医学類 :https://www.med.kanazawa-u.ac.jp/index.html