肺がんに対する免疫治療が効かない理由の一部を解明
ICI治療とPAI‑1阻害薬の併用で治療効果向上の可能性
【注目の成果:共同研究・産学連携のためのチェックポイント】
![]() | 現在のICI治療で効果が不十分な進行肺がん患者さんに対する、新しい治療方法となることが期待 |
【産学連携対象 全学共通分野 Discovery Saga】
【Sagaキーワード】
機能解析/小細胞肺がん/PD-L1/微小環境/免疫抑制/リンパ球/腫瘍微小環境/免疫治療/扁平上皮がん/がん細胞/マウス/血液/耐性克服/非小細胞肺がん/免疫チェックポイント/免疫チェックポイント阻害薬/免疫細胞/がん患者/医師/肺がん/放射線
研究のポイント
がん細胞においてその働きが抑えられた免疫細胞を再び活性化する治療(ICI治療*1)をしてもがん細胞が生き残ってしまう場合、PAI-1*2というタンパク質が関係していることがわかりました。現在のICI治療で効果が不十分な進行肺がん患者さんに対する、新しい治療方法となることが期待されます。発表概要
広島大学大学院 医系科学研究科 分子内科学の隅井允彦大学院生、益田武特定准教授、服部登教授らは、東北大学 宮田敏男教授らと共に「PAI-1がICIに対する耐性の原因であること」、その阻害薬を併用することでICIの治療効果を増強できることを発見しました。本研究成果は、2025年11月6日に国際学術雑誌である『Molecular Cancer Therapeutics』オンライン版に掲載されました。発表論文
論文名:Plasminogen Activator Inhibitor-1 Mediates Tolerance to Anti-PD1-1Immunotherapy in Non-Small Cell Lung Cancer
著者名:Masahiko Sumii¹、 Takeshi Masuda¹*、 Kiyofumi Shimoji²、 Kakuhiro Yamaguchi¹、 Shinjiro Sakamoto²、 Yasushi Horimasu²、 Takahiro Mimae³、 Taku Nakashima¹、 Hiroshi Iwamoto¹、 Yoshihiro Miyata³、 Hironobu Hamada⁴、 Morihito Okada³、 Toshio Miyata⁵、 Noboru Hattori¹
1:広島大学大学院医系科学研究科分子内科学、2:広島大学病院呼吸器内科、3:広島大学原爆放射線医科学研究所外科学、4:広島大学大学院医系科学研究科生体機能解析制御科学、5:東北大学大学院医学系研究科分子病態治療学 *:責任著者
掲載雑誌名:Molecular Cancer Therapeutics DOI:10.1158/1535-7163.MCT-
24-089
背景
肺がんは世界のがん死亡原因の第1位であり、その約85%を非小細胞肺がん(腺がん、扁平上皮がん、大細胞がんなど)が占めています。このがんに対しては、ICI治療を行い、自身の免疫力でがんを攻撃する治療法が有効な手段とされています。しかし、この治療での一部のがんは生き残ってしまうことがあります。実際に、半数以上の症例では1年以内にがん腫瘍が再度増大することが分かっています。
このような問題が発生するのは、ICI治療に対する肺がん細胞の耐性によるものであり、この耐性克服は未解決の重要課題です。
研究成果の内容
マウスの肺がんモデルにおいて、ICI治療中に生き残っているがん細胞を解析した結果、ICI治療を受けていないがん細胞よりもPAI-1というタンパク質が多く発現していることが分かりました。さらにPAI-1が、①がん細胞自身の形質を変化させ、
②免疫チェックポイント阻害薬の効果を低下させる腫瘍微小環境を形成することが明らかとなりました。
そこで、PAI-1の働きを阻害する薬「TM5614」をICIと併用投与したところ、上記①、②の現象が抑制され、ICI単独治療よりも治療効果が有意に高まることが分かりました。
今後の展開
非小細胞肺がん患者さんに対するICIとTM5614を併用した治療の有効性と安全性を評価する医師主導治験を進めています。今後は、ICIとTM5614併用治療が非小細胞肺がん患者さんの新しい治療方法となることを目指します。参考資料
本研究の要旨
ICI治療下で生存するがん細胞はPAI-1を高発現し、上皮間葉転換や免疫抑制的な腫瘍微小環境形成を介してがん細胞の生存に関与する。

TM5614を併用すると、上皮間葉転換が抑制され、免疫反応促進的な腫瘍微小環境が維持され、がん細胞の増殖が抑制される。
用語解説
*1 免疫チェックポイント阻害薬(ICI): がん細胞がリンパ球の活性を抑制する仕組みを解除し、免疫細胞ががん細胞を持続的に攻撃できるようにする薬 。*2 PAI-1(Plasminogen Activator Inhibitor-1): 血液の凝固を抑制するタンパク質であり、がんの進展や治療に対する耐性に関与することが報告されている。
*3 PD-L1 : がん細胞などの細胞表面に発現するタンパク質であり、リンパ球の活性化を抑制する。
報道発表資料(453.53 KB)
研究者ガイドブック
問い合わせ先
<研究に関すること>広島大学病院呼吸器内科 益田 武
Tel:082-257-5196 FAX:082-255-7360
E-mail:ta-masuda@hiroshima-u.ac.jp
<広報に関すること>
広島大学広報室
E-mail:koho@office.hiroshima-u.ac.jp
掲載日 : 2026年03月16日
広島大学 研究