うねる高分子鎖を初めて可視化~高分子セグメントの熱揺らぎを捉えた!
モビリティ組立技術を刷新する新規接着技術への応用に期待! 工学研究院 田中 敬二 主幹教授
【注目の成果:共同研究・産学連携のためのチェックポイント】
![]() | 界面の高分子鎖を非平衡系として捉える新しい視点が、接着剤の分子設計を加速 |
【産学連携対象 全学共通分野 Discovery Saga】
【持続可能な開発目標(SDGs)】
【Sagaキーワード】
最適化/運動単位/熱揺らぎ/非平衡/非平衡系/揺らぎ/分子運動/高分子/プローブ顕微鏡/固体表面/エネルギー消費/持続可能/持続可能な開発/局所構造/AFM/マルチスケール/モビリティ/軽量化/原子間力顕微鏡/プローブ/分子設計
2026.03.11
研究成果Physics & ChemistryMaterialsTechnologyEnvironment & Sustainability
発表のポイント
接着剤の性能を左右する界面高分子鎖の運動は、これまで平均像でしか議論できなかった。高分子1本の中の分子運動を直接観察し、吸着・脱離を伴う非平衡挙動(※1)を発見した。
界面の高分子鎖を非平衡系として捉える新しい視点が、接着剤の分子設計を加速する。
発表概要
世界のエネルギー消費の約3割はモビリティ輸送に起因します。モビリティの低燃費化に向けた構造部材の軽量化はSDGs実現に向けた重要な課題であり、軽量化には異種材料を適材適所での組み合わせを可能にする高性能な接着技術が求められます。九州大学大学院工学研究院応用化学部門/次世代接着技術研究センターの田中敬二 主幹教授/センター長、東京科学大学物質理工学院応用化学系の佐藤浩太郎 教授らは、科学技術振興機構(JST)未来社会創造事業 大規模プロジェクト型「界面マルチスケール4次元解析による革新的接着技術の構築」を遂行しています。接着技術の革新には、接着界面の現象を分子レベルで明らかにし、精密に制御・最適化することが必要です。したがって、従来の界面高分子鎖の統計的理解を刷新し、接着界面の本質に迫るための1分子鎖レベルでの界面高分子鎖の描像の解明が求められていました。本研究では、界面分子鎖1本の運動を分子レベルで初めて直接可視化し、非平衡挙動の存在を見出しました。九州大学大学院工学研究院応用化学部門 森田修治 大学院生、盛満裕真 助教、次世代接着技術研究センター 山本智 教授、工学研究院応用化学部門の田中敬二 主幹教授、および東京科学大学物質理工学院応用化学系の谷崎志帆 博士、久保智弘 助教、佐藤浩太郎 教授らの研究グループは、原子間力顕微鏡(AFM)(※2)を用いて、固体表面上に存在する高分子鎖の運動を直接観察しました。その結果、1本の界面分子鎖の中に、熱活性セグメント(※3)と過渡的な吸着によって運動が抑制されるセグメント(熱抑制セグメント、※4)が共存しており、それらが固体表面との相互作用に依存した非平衡挙動を示すことを明らかにしました。
本成果は、「界面分子鎖は一様な運動性を持つ」という従来の考え方を刷新し、「界面分子鎖は、セグメント毎に独立した分子運動を有し、吸脱着を繰り返す非平衡系である」という新たな分子描像を提供することにより、異種材料接着剤の性能向上に向けた分子設計を加速させることが期待されます。
本研究は、JST未来社会創造事業、ならびに経済安全保障重要技術育成プログラムの支援を受けて実施されました。本研究成果は、米国科学雑誌「Journal of the American Chemical Society」のACS Editors' Choiceに選出されており、オンライン版に2026年3月11日(水)午後11時(日本時間)に掲載されました。
本研究成果の概要図

固体表面の高分子鎖の分子運動を実空間で可視化し、新たな分子描像を見出した。(左上段)AFM高さ像、(右上段)模式図、(下段)(1)熱活性、(2)熱抑制、(3)吸脱着を伴う非平衡挙動の模式図。
参考動画(32.5℃、540倍速) http://www.youtube.com/watch?v=afxA9HosRW4
用語解説
(※1)非平衡挙動吸着と脱離を繰り返しながら局所構造が時々刻々と変化し平衡状態に至らない分子運動の様式。
(※2)原子間力顕微鏡(AFM)
極めて鋭い探針を用い、探針―試料表面間の原子間力が一定になるようにステージの高さを走査し、試料表面をなぞることで、試料表面の形状や動きを直接観察できるプローブ顕微鏡。
(※3)熱活性セグメント
温度上昇に伴って分子運動が加速する界面分子鎖中のセグメント。セグメントは、複数のモノマー単位がまとまって一つの運動単位として振る舞う部位。
(※4)熱抑制セグメント
温度上昇に伴って分子運動が抑制される界面分子鎖中のセグメント。
論文情報
掲載誌:Journal of the American Chemical Societyタイトル:Direct visualization of segment-like dynamics in isolated polymer chains on solid surfaces
著者名:Shuji Morita, Yuma Morimitsu, Shiho Tanizaki, Tomohiro Kubo, Satoru Yamamoto, Kotaro Satoh, Keiji Tanaka
DOI:10.1021/jacs.5c23137
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