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東京大学 研究Discovery Saga
2026年3月3日

日本の都市は「巨大なカルシウムの貯蔵庫」:脱炭素社会の鍵を握る資源循環の見える化に成功

―コンクリートの再利用とCO₂削減を両立させる新たな戦略基盤を提示―

【産学連携対象 全学共通分野 Discovery Saga】
複合領域環境学工学農学医歯薬学
【Sagaキーワード】
技術経営/再資源化/循環型社会/地球温暖化/物質フロー/物質フロー分析/カーボンニュートラル/CO2排出量/コンクリート/炭酸化/カーボン/シナリオ/スラグ/セメント/ライフサイクル/リサイクル/資源循環/地球温暖化対策/都市構造/二酸化炭素/廃棄物/経営戦略/温暖化/資源管理/カルシウム
2026/03/03

発表のポイント

◆国内初:日本のカルシウム(Ca)の埋蔵量から、使用、廃棄、循環利用に至るまでのライフサイクル全体を物質フロー分析(MFA)によって数値化しました。
◆都市の資源:日本の建築物や土木構造物に蓄積されたカルシウム(約55億トン)は、国内の天然資源(石灰石など)の埋蔵量を上回っていることが判明しました。
◆脱炭素への貢献:セメントや鉄鋼業などのCO2排出に深く関わるカルシウムの動きを特定し、効率的なリサイクルによるCO2削減シナリオの評価を可能にしました。

 



今回明らかにした簡易化されたカルシウムのストックとフローの概念図
 

発表概要

東京大学大学院工学系研究科の山下奈穂助教、丸山一平教授、村上進亮教授、鍋島憲司大学院生ら、ならびに、清水建設株式会社の依田侑也主任研究員、矢野慧一研究員らの研究チームは、原料採取、カルシウム含有材料の生産・消費、都市構造物への蓄積、さらには廃棄および循環利用までを対象に2020年時点の日本におけるカルシウムのフローおよびストックを定量化することに成功しました。
資源としてのカルシウムは、多くの場合CO2と結合して安定な条件で埋蔵されています。産業利用上はCO2排出において極めて重要な役割を果たしているにもかかわらず、その循環可能性については、実験室スケールでの回収技術と社会スケールでの物質フロー動態との連携が十分に図られておらず、体系的な検討が進んでいませんでした。本研究では、2020年における日本のカルシウムのフローおよびストックを定量化し、埋蔵量、原料採取、生産・消費、都市構造物への蓄積、廃棄および循環利用までを包括的に分析しました。その結果、日本には石灰石およびドロマイト中に46億トンのカルシウムが埋蔵されており、都市構造物ストック中には約55億トンが蓄積されていることが明らかになりました。また、年間のカルシウム投入量は 6,090万トンで、そのうち77%が建設用途に使用されていました。本研究は、カルシウム動態を体系的に可視化することにより、社会スケールでこれまで定量化されていなかったCO2関連のカルシウム利用フローを特定し、循環性および脱炭素化戦略を評価する基盤を提供しました。潜在的なリサイクル戦略として、異なる領域、多段階のリサイクルや再資源化のハイブリッドなアプローチはCO2の排出削減や部門横断的な資源管理を支援すると考えられます。
 

発表内容

地球温暖化対策として「2050年カーボンニュートラル」が掲げられる中、建設業界はCO2排出量の削減と資源の有効活用が喫緊の課題となっています。特に、セメントの主成分であるカルシウムは、その製造過程で大量のCO2を排出しますが、これまで日本全体でどれだけのカルシウムがどこに存在し、どのように流れているのかという詳細なデータは不足していました。
 
本研究では、2020年における日本国内のカルシウムの動きを包括的に調査・分析しました。
1)「都市鉱山」としてのカルシウム:
日本の道路や建物などのインフラに蓄積されたカルシウム(ストック)は約55億トンに達します。これは国内の石灰石やドロマイトの推定埋蔵量(約46億トン)を上回る規模であり、都市そのものが巨大な資源貯蔵庫であることを示しています(図1,2)。
2)建設セクターが流れの主役:
日本で1年間に使われるカルシウム約6,090万トンのうち、約77%が建設分野に投入されています。この多くは数十年間にわたり建物や構造物として維持されますが、将来的にこれらが解体された際、いかに効率よく回収し再利用するかが脱炭素の鍵となります。
3)CO2削減に直結するルートの特定:
セメント製造時の石灰石分解(脱炭酸)など、特にCO2排出量が多いプロセスに関わるカルシウムのフローを特定しました(図3の赤線部分)。これにより、どのリサイクル技術が最も効果的にCO2を削減できるかを議論するための科学的根拠が整いました。
 
本研究で得られたデータは、単なる廃棄物リサイクルを超え、建築物から回収したカルシウムを再びセメント原料として活用する「水平リサイクル」や、コンクリートにCO2を吸収させる技術(カーボンキャプチャー)の導入評価に役立ちます。特に、建設分野における可能性の高い応用先として、ウェットカーボネーションによる高炉スラグ中のカルシウムの抽出、コンクリート中セメントペーストの再資源化、炭酸化コンクリートの混合材としての活用、完全骨材リサイクルなどが挙げられます。研究チームは今後、この知見をもとに、より具体的な脱炭素・循環型社会の実現に向けたシナリオ策定と関連技術の開発を進めていく予定です。 
 



図1:2020年時点での日本におけるカルシウムの存在形態
 



図2:都市構造物ストック中のカルシウム量
 



図3:日本の産業におけるカルシウムのフロー
図中の赤色の帯はCO2排出を伴うカルシウム利用を示す。
 
 
発表者・研究者等情報
東京大学大学院工学系研究科
 物質サーキュレーション建設学講座
山下 奈穂 特任助教:研究当時
 現所属:同研究科都市工学専攻 助教
 
 建築学専攻
丸山 一平 教授
鍋島 憲司 博士課程
 
 技術経営戦略学専攻
村上 進亮 教授
 
清水建設株式会社技術研究所建設基盤技術センター資源循環グループ
依田 侑也 主任研究員
矢野 慧一 研究員
 

論文情報

雑誌名:Resources, Conservation & Recycling Advances
題 名:CO2 reduction pathways of the construction sector through calcium stock-flow dynamics
著者名:Naho Yamashita, Shinsuke Murakami, Keiichi Yano, Yuya Yoda, Kenji Nabeshima, Ippei Maruyama
DOI:10.1016/j.rcradv.2026.200322
URL:https://doi.org/10.1016/j.rcradv.2026.200322
 

研究助成

本研究は、東京大学大学院工学系研究科に設置された社会連携講座「物質サーキュレーション建設学講座」において実施されました。 
 
 
 
プレスリリース本文:PDFファイル
Resources, Conservation & Recycling Advances:https://doi.org/10.1016/j.rcradv.2026.200322