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東京科学大学 研究Discovery Saga
2026年3月2日

転移を有する腎細胞癌の一次治療効果は時間とともに変化する

RMSTを用いた時間依存解析により、IMDCリスク分類別の最適治療戦略を提示

【注目の成果:共同研究・産学連携のためのチェックポイント】
「今すぐ腫瘍を強く制御することを優先するのか」「長期的な生存を目指すのか」という観点から、リスク分類に応じた最適な一次治療を選択するための一助となることが期待
【産学連携対象 全学共通分野 Discovery Saga】
情報学数物系科学工学医歯薬学
【Sagaキーワード】
メタアナリシス/近赤外/赤外光/腎がん/放射線治療/臨床応用/分子標的/医療費/画像診断/歯学/免疫治療/免疫療法/イミン/がん細胞/近赤外光/腎臓/副作用/免疫チェックポイント/免疫チェックポイント阻害薬/臨床試験/医師/手術/生活の質/分子標的薬/放射線/薬物療法

2026年2月27日 公開

ポイント

転移を有する淡明細胞型腎細胞癌の一次治療において、治療効果はIMDCリスク分類によって異なるだけでなく、治療開始後の時間経過に応じて変化することを明らかにしました。
国際第3相試験5件(計4,206例)のデータを統合し、制限付き平均生存期間(RMST)を用いて、治療開始後12~72ヵ月までの時期ごとの治療効果を比較・可視化しました。
その結果、短期的な病勢制御と長期生存では有利な治療が異なる可能性が示され、患者のリスク分類と治療目標に応じた一次治療選択の重要性が示唆されました。

概要

東京科学大学(Science Tokyo)病院 泌尿器科の福島啓司助教、大学院医歯学総合研究科 腎泌尿器外科学分野の吉田宗一郎准教授、藤井靖久教授らの研究チームは、転移を有する淡明細胞型腎細胞癌[用語1]一次治療[用語2]について、従来とは異なる新しい評価方法で解析を行い、治療効果が時間の経過に伴って変化することを明らかにしました。
近年、
免疫チェックポイント阻害薬[用語3]を含む治療法の登場により、転移を有する淡明細胞腎細胞癌の治療成績は大きく向上しています。免疫療法では、治療開始直後には効果がはっきりしない一方で、一部の患者では長期生存が得られることが知られています。しかし、従来の治療効果の評価方法は、治療効果が経過を通じて一定であるという前提に基づいており、真の治療効果を十分に捉えられない可能性がありました。
本研究では、複数の国際的な第3相臨床試験のデータを、
ネットワークメタアナリシス[用語4]という解析方法を用いて統合し、
制限付き平均生存期間(RMST)[用語5]という指標を用いることで、治療効果が患者の状態(リスク分類)によって異なるだけでなく、時間の経過に伴って変化することを可視化しました。
本研究の結果は、「今すぐ腫瘍を強く制御することを優先するのか」「長期的な生存を目指すのか」という観点から、リスク分類に応じた最適な一次治療を選択するための一助となることが期待されます。
本成果は、1月23日付(現地時間)で国際学術誌「Targeted Oncology」にオンライン掲載されました。

背景


近年、転移性腎がんの治療は大きく進歩しています。特に、「免疫チェックポイント阻害薬」を含む治療の登場により、生存期間が延びる患者が増えています。

しかし、従来の治療効果の評価方法では、治療開始直後の効果や長期にわたる効果の違いを十分に捉えることができませんでした。

免疫治療は、効果の現れ方に特徴があり、初期にはゆっくりと効果が現れる一方で、その後、長期間にわたり効果が持続する患者がいることが知られています。そのため、時間の経過を考慮した評価が重要であると考えられました。

研究成果

本研究では、転移を有する淡明細胞型腎細胞癌に対する一次治療について、ネットワークメタアナリシスという手法を用いて解析を行いました(図1)。国際的に実施された5つの第3相臨床試験(計4,206症例)のデータを統合し、イピリムマブ+ニボルマブ、ペムブロリズマブ+レンバチニブ、ニボルマブ+カボザンチニブ、ペムブロリズマブ+アキシチニブ、アベルマブ+アキシチニブ、スニチニブといった標準的な一次治療を対象としました。さらに、各論文に掲載された生存曲線から、患者一人ひとりのデータに近い情報を統計的に再構築しました。これにより、公開データのみを用いながらも、詳細で精密な時間解析が可能となりました。
そのうえで、
IMDCリスク分類[用語6]ごとに、制限付き平均生存期間(RMST)という評価方法を用い、12、24、36、48、60、72ヵ月時点における生存期間の差を算出し、さらに
SUCRA score[用語7]を算出しました。この手法により、治療効果が時間の経過とともにどのように変化するかを解析しました。


転移を有する淡明細胞型腎細胞癌に対する標準的な一次治療
· 免疫チェックポイント阻害薬の2剤併用療法:イピリムマブ+ニボルマブ
· 免疫チェックポイント阻害薬と分子標的薬の2剤併用療法:ペムブロリズマブ+レンバチニブ、ニボルマブ+カボザンチニブ、ペムブロリズマブ+アキシチニブ、アベルマブ+アキシチニブ
· 分子標的薬単剤での治療:スニチニブ

図1. IMDCリスク分類ごとの治療効果の経時的変化

解析の結果、短期的に強い治療効果が期待できるのはペムブロリズマブ+レンバチニブであることが示されました。一方で、IMDC中間・不良リスク群では、イピリムマブ+ニボルマブが長期生存において最も良好な結果を示しました。また、IMDC良好リスク群では、統計学的に有意差は認められませんでしたが、アベルマブ+アキシチニブが長期的に良好な傾向を示しました。
これらの結果は、治療効果が一律ではないことを示しています。患者の状態や治療目標(短期間での病勢制御か、長期的な生存か)によって、最適な選択が異なる可能性があります。短期的に腫瘍を強く抑える治療では、その後に手術や放射線治療を組み合わせる戦略も考えられます。
本研究は、薬剤の単純な優劣を示すものではなく、患者の状態や治療目標に応じた治療戦略を検討するための新しい科学的根拠を提供するものです。

社会的インパクト

本研究は、医師が患者と相談しながら治療方針を決定する際に、「今すぐ病勢を制御することを優先するのか」「長期的な生存を目指すのか」という観点から治療を選択することの重要性を示しました。
短期間で腫瘍を縮小できれば、その後に手術などによってがんを制御できる可能性も広がります。これは、治療の選択肢が広がることを意味します。
本成果は、転移を有する淡明細胞型腎細胞癌の患者一人ひとりに合わせた治療戦略の構築につながることが期待されます。

今後の展開

今後は、副作用や生活の質、医療費なども含めた総合的な評価を進め、実際の医療現場により即した治療戦略モデルの構築を目指します。
また、薬物療法と手術・放射線治療をどのようなタイミングで組み合わせることが最も効果的であるかを検証する研究へと発展させていく予定です。

参考文献

[参考文献1]
Oh DY, Rokutanda N, Żotkiewicz M, et al: Delayed separation of Kaplan-Meier curves is commonly observed in studies of advanced/metastatic solid tumors treated with anti-PD-(L)1 therapy: systematic review and meta-analysis. Target Oncol 2025.
[参考文献2]
Zhong Y, Schaubel DE: Restricted mean survival time as a function of restriction time. Biometrics 2022.

用語説明

[用語1]
淡明細胞型腎細胞癌:腎臓にできるがん(腎癌)の中で最も多いタイプのがん。
[用語2]
一次治療:病気が見つかった後、最初に行う治療。
[用語3]
免疫チェックポイント阻害薬:がん細胞が利用している「免疫のブレーキ(免疫チェックポイント分子)」を阻害することで、免疫の働きを回復・活性化させ、がん細胞を攻撃しやすくする薬剤。
[用語4]
ネットワークメタアナリシス:複数の臨床試験の結果をまとめて解析し、直接比較されていない治療法同士を統計的に比較できる方法。治療の効果を広い視点で評価できる。
[用語5]
制限付き平均生存期間(RMST):ある一定の期間までに、患者さんが平均してどれくらい長く生存できたかを示す方法。時間ごとの治療効果をわかりやすく比較できる。
[用語6]
IMDCリスク分類:患者さんの検査結果や体の状態などをもとに、病気の進みやすさを予測してグループ分けする方法。治療を選ぶ際の参考になる。
[用語7]
SUCRA score:ネットワークメタアナリシスにおいて、複数の治療法を順位づけするための指標。

論文情報

掲載誌:
Targeted Oncology
タイトル:
Time-Dependent Comparative Effectiveness of First-Line Treatment for Metastatic Clear Cell Renal Cell Carcinoma: A Restricted Mean Survival Time-Based Network Meta-analysis
著者:
Hiroshi Fukushima, Shugo Yajima, Wei Chen, Akihiro Hirakawa, Kenji Tanabe, Motohiro Fujiwara, Yuki Arita, Hajime Tanaka, Hitoshi Masuda, Yasuhisa Fujii, Soichiro Yoshida
DOI:
10.1007/s11523-025-01194-w

研究者プロフィール


福島 啓司 Hiroshi Fukushima
東京科学大学病院 泌尿器科 助教
研究分野:泌尿器がん、近赤外光線免疫療法(光免疫療法)


吉田 宗一郎 Soichiro Yoshida
東京科学大学 大学院医歯学総合研究科 腎泌尿器外科学 准教授
研究分野:機能的画像診断による泌尿器がん診断及び局所治療、3D映像技術の泌尿器臨床応用


藤井 靖久 Yasuhisa Fujii
東京科学大学 大学院医歯学総合研究科 腎泌尿器外科学 教授
研究分野: 泌尿器がんに対する臓器温存治療

関連リンク

プレスリリース 転移を有する腎細胞癌の一次治療効果は時間とともに変化する—RMSTを用いた時間依存解析により、IMDCリスク分類別の最適治療戦略を提示—(PDF)
吉田 宗一郎 Soichiro Yoshida | Science Tokyo研究情報データベース(医歯学系)
藤井 靖久 Yasuhisa Fujii | Science Tokyo研究情報データベース(医歯学系)
泌尿器科 | 東京科学大学病院
東京科学大学病院 医科(医系診療部門)
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