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東京大学 研究Discovery Saga
2026年3月2日

昆虫における最大の転写因子群の進化的起源を解明

【注目の成果:共同研究・産学連携のためのチェックポイント】
新規遺伝子がどのように生命の基本設計図に組み込まれるのかという根本的な謎の解明につながることが期待
【産学連携対象 全学共通分野 Discovery Saga】
複合領域化学生物学工学総合生物農学医歯薬学
【Sagaキーワード】
著作権/二量体/ゲノムDNA/初期胚/胚発生/個体発生/ダイナミクス/超解像/Hi-C/モデル生物/トランスポゾン/変異体/ゲノム編集技術/生合成/初期胚発生/ジンクフィンガー/新規遺伝子/分子機能/ゲノム解析/ホルモン/ゲノム編集/ショウジョウバエ/ライブイメージング/転写因子/発現制御/立体構造/ゲノム/遺伝子/遺伝子発現/分子生物学
2026年2月28日 / 最終更新日時 :2026年2月19日 adiqb 遺伝子発現ダイナミクス研究分野 東京大学

発表概要

発表のポイント

◆ゲノム編集技術を用いて、ショウジョウバエ初期胚内で転写因子の働きをゲノムスケールで解析する新技術を開発しました。
◆昆虫の進化の過程で爆発的に増加した遺伝子群ZAD-ZnFは、ゲノムの立体構造を制御する共通性質をもつことを解明しました。
◆新規遺伝子がどのように生命の基本設計図に組み込まれるのかという根本的な謎の解明につながることが期待されます。

昆虫における最大の転写因子群の進化的起源は「ゲノムの立体構造の制御因子」であった

発表概要

東京大学定量生命科学研究所の齋藤 絡特任助教と深谷 雄志教授らの研究チームは、ショウジョウバエに存在するZAD型ジンクフィンガー(以下、ZAD-ZnF)(注1)タンパク質が、初期胚発生においてゲノムの立体構造を制御する重要な役割を担うことを明らかにしました。
ZAD-ZnFは昆虫の進化過程で爆発的に増加してきた非常にユニークな転写因子群ですが、これまでの研究は個々の遺伝子機能に関する断片的な報告にとどまり、遺伝子群に共通の分子機能や進化的意義はこれまで不明でした。
本研究では、ショウジョウバエ初期胚内で転写因子の働きをゲノムスケールで解析する新技術を開発しました。超解像ライブイメージングや、最先端のゲノム解析手法を駆使することで、昆虫の発生過程におけるZAD-ZnF群の核内挙動、およびゲノム上における結合様式を体系的かつ網羅的に理解するための技術的基盤を確立することに成功しました。
詳細な解析の結果、対象とした全てのZAD-ZnFがゲノムの立体構造の制御に寄与するというこれまでにない新たな知見が得られました。この結果は、多様な分子機能を持つZAD-ZnF遺伝子群が、「ゲノムの三次元的な立体構造の制御」という共通の役割から派生することで、生物学的に重要な役割を個別に獲得してきたという、独自の進化の道筋を経てきたことを強く示唆しています。

発表内容

<背景>
ゲノムDNAは核内で折り畳まれた三次元的な立体構造を形成しています。この立体構造の制御は、遺伝子の発現制御と個体発生に重要な役割を果たすと考えられています。ショウジョウバエを含む昆虫では、長年の研究により、立体構造を形成する因子が数多く同定されてきました。しかし、これらの因子が存在しない場合においてもゲノムの立体構造の大部分が維持されることから、未知なる因子の存在が示唆されていました。
<研究の成果>
本研究では、モデル生物であるショウジョウバエにおいて、最大の転写因子ファミリーを構成するZAD-ZnF遺伝子群に着目しました。
まずZAD-ZnFタンパク質のゲノム上の局在を網羅的に解析するため、ゲノム編集技術を用いて個々の内在ZAD-ZnF遺伝子に、実験的に追跡可能なタグを付加した系統を作出することで、ゲノム中の結合部位を網羅的に同定する新たな解析系を開発しました。この手法を駆使することで、既存技術における「実験上の偽陽性」という問題を回避しつつ、同一の発生過程で統合的に比較可能な独自のデータベースを構築することに成功しました。詳細な解析の結果、今回対象とした全てのZAD-ZnFタンパク質が、ゲノムの立体構造の区画境界に局在するというユニークな性質を共通に持つことを、新たに見出しました(図1)。
次に、ZAD-ZnF遺伝子を失った際の表現型を解析するために、特定のZAD-ZnF遺伝子の欠損変異体をゲノム編集技術によって作成しました。ゲノムの立体構造を高解像度に検出可能なMicro-C(注2)と呼ばれる最先端の手法を用いた解析の結果、ZAD-ZnF遺伝子を個別に失った変異体では、ゲノム立体構造の区画化に一部異常が生じることがわかりました。興味深いことに、各ZAD-ZnFタンパク質は、それぞれ異なるゲノム領域において立体構造の区画化に働いているという機能的な棲み分けが存在することが明らかになりました。
生物の進化の歴史を辿ると、ZAD-ZnF遺伝子は昆虫の進化において急速かつ爆発的にその数を増やし、ゲノムの立体構造の制御とは別の多種多様な機能を獲得してきたことが、過去の研究から知られています。例えば一部のZAD-ZnFタンパク質は、トランスポゾンと呼ばれる利己的な遺伝子を抑制する働きを担います。また別の一群のZAD-ZnFタンパク質は、脱皮ホルモンとして知られるエクジソンの生合成を制御するように、生物学的に重要な役割を果たしています。今回の研究で得られた結果から、これらZAD-ZnF遺伝子の祖先型遺伝子は、ゲノムの立体構造を制御する因子であり、その祖先的形質を保持しながら遺伝子ごとに多種多様な機能を獲得することで、昆虫の進化・多様化に寄与してきたと考えられます(図1)。

図1:昆虫のゲノムにおいて最大の転写因子ファミリーを構成するZAD-ZnF遺伝子群は、多様な生命機能を有する。本研究により、ZAD-ZnF遺伝子は「ゲノムの立体構造の制御」という共通の役割から進化的に派生することで、生物学的に重要な役割を個別に獲得してきた可能性が示された。掲載の野外昆虫写真は第一著者・齋藤絡による撮影・提供であり、著作権は同著者に帰属する。

発表者・研究者等情報

東京大学定量生命科学研究所 附属生命動態研究センター
遺伝子発現ダイナミクス研究分野
齋藤 絡 特任助教
(兼:カロリンスカ研究所 細胞分子生物学部門 客員研究員)
牧野 支保 助教
深谷 雄志 教授
大学院総合文化研究科 広域科学専攻
梅村 悠介 大学院生(博士課程)/日本学術振興会特別研究員

研究助成

本研究は、日本学術振興会(JSPS)の科研費(課題番号:23K05631、24KJ0843、24H02327、25K18438、25H00967)、科学技術振興機構(JST)の創発的研究支援事業(課題番号:JPMJFR214W)、CREST(課題番号:JPMJCR25T2)、日本医療研究開発機構(AMED)のASPIRE(課題番号:JP23jf0126003)、住友財団、中島財団、稲盛財団の支援により実施されました。

用語解説

(注1)ZAD型ジンクフィンガー(ZAD-ZnF)
昆虫のゲノムにおいて最大の転写因子ファミリーを構成する遺伝子群。N末側にタンパク質の二量体を形成するZADドメイン、C末側にDNAとの結合を司る5~13個のジンクフィンガードメインを持つ。昆虫(六脚類)の進化の過程で爆発的にその数が増殖してきた。キイロショウジョウバエのゲノムでは92種類のZAD-ZnFが確認されている。
(注2)Micro-C
従来技術であるHi-Cに比較して、極めて高い解像度でゲノムの立体構造を解析できる最新手法。

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雑誌名等

雑誌名:Science Advances

題 名:Decoding the molecular logic of rapidly evolving ZAD zinc finger proteins in Drosophila

著者名:Raku Saito(齋藤 絡),Yusuke Umemura(梅村 悠介),Shiho Makino(牧野 支保), Takashi Fukaya(深谷 雄志)

DOI:10.1126/sciadv.ady7568

問い合わせ先

(研究内容については発表者にお問合せください)

東京大学 定量生命科学研究所
教授 深谷 雄志(ふかや たかし)
Tel:03-5841-1453 E-mail:[email protected]

東京大学 定量生命科学研究所 総務チーム
Tel:03-5841-7813 E-mail:[email protected]