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神戸大学 研究Discovery Saga
2026年2月26日

根をもたないコケ植物が栄養を吸収するしくみを解明

【注目の成果:共同研究・産学連携のためのチェックポイント】
陸上植物がどのようにして栄養を取り入れるしくみを進化させてきたのかを理解するうえで重要な手がかり
【産学連携対象 全学共通分野 Discovery Saga】
数物系科学生物学工学総合生物農学医歯薬学
【持続可能な開発目標(SDGs)】
【Sagaキーワード】
安定同位体/中性子/同位体/クローン/膜輸送/コケ植物/ゼニゴケ/維管束/生殖/CMOS/イメージセンサー/可視光/蛍光体/持続可能/持続可能な開発/センサー/有機物/モデル生物/放射性同位体/リン欠乏/リン酸/輸送体/変異株/トレーサ/土壌/アイソトープ/細胞膜/生体イメージング/トランスクリプトーム/遺伝子/放射線
2026.02.26

根をもたないコケ植物が栄養を吸収するしくみを解明

概要

神戸大学大学院理学研究科の石崎公庸教授、酒井友希特命講師らと、名古屋大学高等研究院の菅野里美准教授らの研究グループは、非維管束植物であるゼニゴケの仮根に、栄養元素を吸収する機能があることを明らかにしました。この成果は、陸上植物がどのようにして栄養を取り入れるしくみを進化させてきたのかを理解するうえで重要な手がかりとなります。今後、植物の進化や栄養吸収のしくみに関する基礎研究の発展が期待されます。
この研究成果は、2月26日に、国際学術誌「New Phytologist」に掲載されました。


図1:ゼニゴケの仮根ゼニゴケは扁平な形をしており、地面と接する腹側に維管束植物の根毛に似た仮根を持つ。©石崎公庸(CC BY)

ポイント

維管束(根と水や栄養を運ぶ組織)を持たないコケ植物ゼニゴケにおいて、独自開発した生体イメージング技術により、仮根から吸収されたリンが植物体内部へ短時間で移動する様子をリアルタイムで可視化することに成功した。
ゼニゴケの仮根を高純度で分離・解析する手法を組み合わせることで、仮根特異的に発現する遺伝子群を明らかにした。
コケ植物の仮根はこれまで植物体を地面に固定するための器官と考えられてきたが、維管束植物の根毛と似たような役割も担っている可能性を示しており、今後、植物の進化や栄養吸収のしくみに関する研究の発展が期待される。

研究の背景

陸上で生きる植物にとって、水や無機栄養を取り込み、それを体内で運ぶしくみを確立することは、非常に重要な課題です。なかでも、リン(リン酸)は植物に必須の栄養素ですが、土の中では利用できる量が少なく、植物は進化の過程で、効率よくリンを吸収するためのさまざまな工夫を身につけてきました。被子植物をはじめとする維管束植物では、根や水・栄養を運ぶ維管束といった高度に発達した器官によって、効率的な栄養の吸収と長距離の輸送が可能になっています。
一方で、コケ植物のような非維管束植物は、根や維管束といった構造をもっていません。それにもかかわらず、どのようにリンを吸収し、体内で運んでいるのかは、これまでほとんどわかっていませんでした。コケ植物には「仮根(rhizoid)」と呼ばれる器官があります。これは、維管束植物の根に生える「根毛」と似たような構造ですが、これまで仮根は地面に体を固定するための役割しかないと考えられており、水や栄養を吸収する機能があるかどうかは、はっきりしていませんでした。その背景には、仮根の機能を詳しく調べるための技術が限られていたという問題があります。
そこで研究グループは、新たに生体イメージング技術を開発し、仮根が栄養を吸収する力をもっているのか、また維管束が無い植物の体内で栄養がどのように運ばれるのかを検証することにしました。

研究の内容

本研究では、コケ植物の一種であるゼニゴケ(Marchantia polymorpha L.)※1をモデルとして、リンの吸収と体内での輸送のしくみの問題に取り組みました。これまでの研究から、ゼニゴケではリン酸輸送体に似た遺伝子が仮根で主に発現し、さらにリン欠乏条件下で発現誘導されることなどがわかってきており、仮根がリンの獲得において従来考えられてきたより積極的な役割を果たしている可能性が示唆されていました。
この可能性を検証するため、研究グループは、ゼニゴケの仮根と葉状体を分けて遺伝子の働きを比較するトランスクリプトーム解析を行いました。また、他の器官(葉状体中肋、杯状体・無性芽、雌雄生殖器托)についても、公開されているデータベースを活用して、リン吸収や輸送に関わる遺伝子の発現パターンを比較しました。その結果、リンを取り込む輸送体の多くが仮根で高く発現していることが分かりました。とくに、「PHT1」というタイプのリン酸輸送体※2は、6つの遺伝子が確認され、その中でもMpPHT1;6 が最も強い発現を示しました。
次に、実際に仮根がリンの取り込みに寄与しているかを確かめるため、放射性リンを用いたトレーサー実験を行いました。通常のリン溶液に微量の放射性同位体※3を加えて植物体に与えることで、その動きを特殊なカメラで可視化します。今回使用した放射性同位体のリンは、ベータ線という種類の放射線を放出します。このベータ線を蛍光体により可視光に変換したものをCMOSイメージセンサーでシグナルとして取得するのです。これにより、仮根の先端に投与したリンが、葉状体へすばやく移動する様子を捉えることに成功しました(図2)。また、長期間のトレーサー実験では、葉状体内に取り込まれたリンが、成長点や無性芽(クローン繁殖器官)へと運ばれることも確認しました。これにより、仮根は単に体を地面に固定するだけでなく、リンなどの栄養を積極的に吸収する役割を担っていることが明らかになりました。また、非維管束植物でも体内でリンが必要な組織へと運ばれていることも示されました。


図2:ゼニゴケの仮根のリン吸収の可視化ゼニゴケの仮根の先端をリンの放射性同位体32Pが含まれた寒天培地に触れさせ(左写真)、20秒、80秒、140秒後に32Pから発せられる放射線を検出した。©菅野里美(CC BY)

 
さらに、被子植物では、リン酸が不足すると根毛が増えたり有機物からリンを取り出す酵素(PAP)を分泌したりすることが知られていますが、ゼニゴケでも同様に、リンが少ない環境では仮根の数が増え(図3)、リン酸輸送体やPAP遺伝子の発現が高まることがわかりました。
これらの結果から、コケ植物でもリンが少ない環境に適応する仕組みが働いており、仮根を通じて積極的にリンを取り込み、必要な組織へ運ばれていることが示されました。


図3:リンを含まない培地で育てたゼニゴケリンを含む培地で育てた場合(左写真)と比べ、リンを含まない培地で育てたゼニゴケは多くの長い仮根を形成する(右写真)。スケールバーは1 mm。©石崎公庸(CC BY)

今後の展開

本研究により、仮根が単に植物体を固定するだけではなく、維管束植物の根毛のように栄養を吸収する機能をもっていることが明らかになりました。これは、陸上植物がどのようにして栄養を取り込むしくみを進化させてきたのかを理解するうえで重要な手がかりとなります。
今後は、リン酸輸送体が植物のどの部分に存在しているのかをさらに詳しく調べたり、遺伝子を変化させた変異株を使った実験をおこなったりすることで、根や維管束をもたないコケ植物における栄養の輸送メカニズムの全体像を明らかにしていく予定です。

用語解説

※1ゼニゴケ

コケ植物の一種で、茎や葉の区別がない「葉状体」をもつ。水辺など湿った場所に生育し、植物の進化研究でモデル生物として広く使われている。

※2リン酸輸送体(PHT1)

原核・真核に広く保持されているMFS(Major Facilitator Superfamily)輸送体に属する膜輸送タンパク質の一つである。細胞膜に存在し、主に土壌から細胞内へのリンの取り込みを担う。

※3同位体(アイソトープ)

同じ元素でありながら、中性子の数が異なる原子。安定して存在するもの(安定同位体)と、放射線を出すもの(放射性同位体)があり、体内での物質の動きを追う「トレーサー実験」などに使われる。

謝辞

本研究は下記の研究助成を受けて行われました。
日本学術振興会(JSPS)科研費(KAKENHI) (JP15H04391, JP19H03247, JP21J40092, JP25K09689, JP23K27031, JP23H02338)
日本学術振興会(JSPS)J-PEAKS (JPJS00420230009)
科学技術振興機構(JST) GteX Program Japan (JPMJGX23B0), A-Step Program (JPMJTR25U4)
福島国際高等教育機構F-REI (JPFR25040101)

論文情報

タイトル

Rhizoid-mediated Phosphate Uptake and Internal Transport in the Non-Vascular PlantMarchantia polymorpha

DOI

10.1111/nph.70980

著者

Satomi Kanno, Hinatamaru Fukumura, Shiori Sato, Kenta C. Moriya, Yuuki Sakai, and Kimitsune Ishizaki

掲載誌

New Phytologist

問い合わせ先

神戸大学総務部広報課
E-Mail:ppr-kouhoushitsu[at]office.kobe-u.ac.jp(※ [at] を @ に変更してください)

研究者


石崎 公庸
教授

理学研究科

SDGs




理学研究科