非破壊的リアルタイム観測で、プロスタグランジンの代謝経路と速度を解明
【注目の成果:共同研究・産学連携のためのチェックポイント】
![]() | 生理的環境を反映した条件下のプロスタグランジン代謝反応の正確な理解に寄与し、プロスタグランジンを安定化させた製剤の開発に貢献することに期待 |
【産学連携対象 全学共通分野 Discovery Saga】
【Sagaキーワード】
磁気共鳴/水溶液/シクロデキストリン/質量分析/X線結晶構造/システイン/結晶構造/微生物/ELISA/炎症反応/生理機能/HPLC/アルブミン/プロスタグランジン/プロスタグランジンD2/生理活性/生理活性物質/代謝物/脳脊髄液/睡眠
2026-2-6●生命科学・医学系薬学研究科教授上田 卓見発表のポイント
磁気共鳴法 (NMR法) により、プロスタグランジンD₂ (PGD₂) の代謝反応をリアルタイム観測して、中性水溶液中、高濃度アルブミン溶液中、人工脳脊髄液中、そしてPGD₂輸送タンパク質であるL-PGDSとの複合体中における代謝反応経路と速度を解明。また、L-PGDSとPGD₂代謝物が形成する共有結合複合体のX線結晶構造も解明。これまでELISA(酵素免疫測定)やHPLC(高速液体クロマトグラフ)、質量分析ではPGD₂代謝物を分離観測するのは難しかったが、NMR法による代謝反応のリアルタイム観測で可能に。
生理的環境を反映した条件下のプロスタグランジン代謝反応の正確な理解に寄与し、プロスタグランジンを安定化させた製剤の開発に貢献することに期待。
発表概要
大阪大学薬学部の太田宗一郎さん(卒業生)、小田明佳さん(3年生)、大阪大学大学院薬学研究科の大久保忠恭名誉教授、白石勇太郎講師、河原一樹助教、吉田卓也准教授、上田卓見教授、大阪大学微生物病研究所の沖大也特任助教(常勤)、および近畿大学の島本茂准教授の研究グループは、様々な環境におけるプロスタグランジンD₂(PGD₂)の代謝反応をNMR法によりリアルタイム観測することで、中性水溶液中、高濃度アルブミン溶液中、人工脳脊髄液中、そしてPGD₂輸送タンパク質であるL-PGDSとの複合体中における代謝反応の経路と速度を解明しました。これまで、PGD₂の代謝物の分子量が同一であることやHPLCの保持時間も極めて近いことから、PGD₂の代謝反応の速度は解明されていませんでした。今回、化学構造の微妙な違いを高い感度で観測できる、NMR装置群を利用することで、代謝反応の経路と速度を解明し、さらに、PGD₂代謝物の複合体のX線結晶構造を解くことにも成功しました。
これにより、プロスタグランジンを安定化させた製剤の開発が進むことが期待されます。
本研究成果は、アメリカ化学会が発行する、分析化学分野の国際的トップジャーナルである「Analytical Chemistry」 誌に12月8日に掲載されました。

図1. A. 代謝反応の進行に伴う、PGD₂および代謝物に由来するNMRシグナル強度の経時変化。B. 中性水溶液中における、PGD₂の代謝反応の経路と速度。C.L-PGDSと15d-PGJ₂の共有結合複合体のX線結晶構造。D. L-PGDS複合体中における、PGD₂の代謝反応の経路と速度。
研究の背景
プロスタグランジンは痛覚や炎症反応、血管拡張等を司る生理活性物質です。プロスタグランジンは不安定であり、自発的あるいは酵素的に様々な代謝物に変換されます。例えばシクロデキストリン等で安定化したプロスタグランジン類の製剤が、臨床で使用されています。また、脳脊髄液中に存在するプロスタグランジンD₂ (PGD₂)は、睡眠を誘発するプロスタグランジンであり、自発的な代謝反応により15d-PGD₂やPGJ₂、15d-PGJ₂等の代謝物に変換されることが知られています。PGD₂および代謝物の生理機能を理解する上では、PGD₂の代謝反応の経路と速度を明らかすることが不可欠です。しかし、PGD₂の代謝物であるPGJ₂と15d-PGD₂の分子量が同一であり、HPLCの保持時間も極めて近いことから、PGD₂の代謝反応の速度は解明されていませんでした。
研究の内容
研究グループは、化学構造の微妙な違いを鋭敏に反映するNMRシグナルを高い感度で観測できる、本学蛋白質研究所のNMR装置群を利用して、様々な環境におけるPGD₂の代謝反応をリアルタイム観測しました (図1A)。その結果、中性水溶液中および人工脳脊髄液中では、数十時間のタイムスケールで、PGD₂がPGJ₂および15d-PGD₂を経由して15d-PGJ₂に代謝されること (図1B)を解明しました。加えて、PGD₂輸送タンパク質であるL-PGDSとの複合体中では約3時間で中間体が検出されることなく15d-PGJ₂に変換されることも解明しました。さらに、15d-PGD₂とL-PGDSの複合体のX線結晶構造を解くことに成功して、L-PGDSが形成する溝の中に位置する65番目のシステイン残基と15d-PGJ₂の9位が共有結合した複合体を形成することを明らかにしました (図1C-D)。
本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)
本研究成果により、生理的条件に対応する様々な環境におけるプロスタグランジンの代謝反応の経路や速度を解析することが可能となり、プロスタグランジン類の生理機能の理解が進むとともに、プロスタグランジン製剤開発の推進が期待されます。特記事項
本研究成果は、2025年12月8日にアメリカ化学会の 「Analytical Chemistry」 誌に掲載されました。タイトル:“Integrative real-time NMR and X-ray crystallography reveal prostaglandin D₂ metabolism”
著者名:Soichiro Ohta, Shigeru Shimamoto, Haruka Oda, Tadayasu Ohkubo, Hiroya Oki, Yutaro Shiraishi, Kazuki Kawahara, Takuya Yoshida, Takumi Ueda
DOI:https://doi.org/10.1021/acs.analchem.5c03604
参考URL
上田卓見教授 研究者総覧https://rd.iai.osaka-u.ac.jp/ja/7dd1bab38365ecfd.html
大阪大学 研究