脳に近づくAI
――教師なし学習を行うエコーステートネットワーク――
【注目の成果:共同研究・産学連携のためのチェックポイント】
![]() | 効率的なAI設計や脳の自律的な学習機構の理解に寄与することが期待 |
【産学連携対象 全学共通分野 Discovery Saga】
【Sagaキーワード】
パターン認識/教師なし学習/AI/インテリジェンス/タスク/ニューラルネットワーク/時系列データ/情報学/人工知能(AI)/複雑系/ノイズ/数値実験/リザバー計算/電子回路/理論解析/ニューラルネット/モデル化/脳型情報処理/ヘルスケア
発表のポイント
脳の働きをまねした人工知能の仕組みの一つである、エコーステートネットワークにおける、教師なし学習を定式化しました。従来は教師データが不可欠だと考えられていたエコーステートネットワークにおける処理が、教師データなしでも可能であることを初めて示しました。
効率的なAI設計や脳の自律的な学習機構の理解に寄与することが期待されます。

発表概要
東京大学大学院情報理工学系研究科数理情報学専攻博士課程の山田泰輝大学院生、公立はこだて未来大学システム情報科学部複雑系知能学科の香取勇一教授、東京大学国際高等研究所ニューロインテリジェンス国際研究機構(WPI-IRCN)の藤原寛太郎准教授らの研究グループは、ニューラルネットワークの一種であるエコーステートネットワーク(ESN) (注1) において、教師なし学習 (注2) に基づく新しい定式化を提案しました。この方法では、従来のように「正解データ」をあらかじめ与えなくても、入力データのパターンを自分で学び取り、さらに入力データに含まれる雑音を外部情報に頼ることなく取り除くことができることを理論的に示しました。この成果は、AIとしてのエコーステートネットワークが本来持っている能力を明らかにしたもので、今後は効率的なAIの開発や、人間の脳がどのように自律的に学んでいるのかを理解するための手がかりになると期待されます。
この研究成果は、2026年1月20日(米国東部時間)に査読付き国際学術誌 Neural Computation に掲載されました。
発表内容
背景エコーステートネットワークは、リザバー計算 (注3) と呼ばれる枠組みに属する再帰型ニューラルネットワークの一種です。ESNは、さまざまな時系列タスクへの応用が可能であることが知られています。通常、ESNは入力から望ましい出力を得るために、正解となる出力時系列を教師データとして用いる教師あり学習 (注2) によって訓練されます。
ESNのタスクの一つに「入力時系列をそのまま出力する」というものがあります。本研究では、これを「入力再構成」と呼びます。入力再構成は一見単純に見えますが、このタスクに取り組むことで入力時系列のパターンを学習できるだけでなく、その延長として雑音を取り除く処理も実現できることが先行研究により示されています。そのため、入力再構成は、人が受ける複雑で雑音が混じった感覚情報を他者に伝える脳の働きをモデル化したものとしても注目されています。
しかし、従来のESNにおける入力再構成には、真の入力時系列そのものを教師データとして与える必要があるという制約がありました。例えば、人が雑音を含んだ感覚情報を処理して他者に伝える場面を考えると、「どのパターンを学習するか」という指針や、本来存在しない「雑音のない純粋な入力系列」が、どこからともなく与えられることを前提にしているようなもので、現実的ではありません。すなわち、教師データが利用可能であれば、そもそも学習を行う意義が薄れてしまうという、問題設定上の不自然さが課題となっていました。
研究手法と成果
ESNは入力層・リザバー層・出力層から構成され、通常はリザバー層から出力層への結合行列を、外部から与えられる教師データに基づいて学習します。従来の入力再構成タスクにおいても、入力と同じ系列を出力するためには、真の入力系列そのものを教師データとして与える必要がありました (図1-上)。
本研究では、ESNにおける入力再構成を教師なし学習として再定式化しました (図1-下)。具体的には、ネットワークの可逆性に関する数学的条件が成り立つ場合、教師データをリザバー状態で表現できる数式が成立することを示しました。これにより、ESNが正しい出力例を与えられなくても、リザバー状態の系列のみを用いて入力再構成を実現できることを理論的に明らかにしました。この結果として、入力系列のパターンの学習やノイズ除去も、リザバー状態の系列のみで自律的に可能であることを示しました。さらに、理論解析に加えて行った数値実験の結果、理論上の条件が完全に満たされない場合でも、本手法によって入力再構成が可能であることを確認しました。これは、より現実的な状況においても本手法が有効に機能することを示しています。
本研究は、従来、教師データが不可欠と考えられていた処理が、実際には教師なしの枠組みで成立することを初めて数理的に示した点で、ESNに関する新たな知見を提供しました。

下段:本研究による再定式化。特定の数学的条件が成り立つ場合、教師データを用いずにリザバー状態の系列のみから入力再構成を実現可能であることを示しました。
東京大学 研究