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神戸大学 研究Discovery Saga
2026年1月23日

水溶液プロセスだけで“可視光応答”を有する光エネルギー変換電極を簡便に作製

【注目の成果:共同研究・産学連携のためのチェックポイント】
酸化チタンに代表される半導体電極は、太陽電池といった次世代の光エネルギー変換材料として期待
【産学連携対象 全学共通分野 Discovery Saga】
情報学環境学数物系科学化学生物学総合理工工学農学医歯薬学
【持続可能な開発目標(SDGs)】
【Sagaキーワード】
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2026.01.22


Reproduced from ACS Applied Energy Materials 🄫American Chemical Society

概要

神戸大学大学院工学研究科の南本大穂講師、水畑 穣教授、田尻悠人氏(研究当時:博士課程前期課程)、工学部の岡本千馬氏の研究グループは、水溶液中で進行する「液相析出法(LPD法)※1」を用いて、金ナノ粒子(AuNP)を内包する酸化チタン(TiO2)薄膜光電極の開発に成功しました。
酸化チタンに代表される半導体電極は、太陽電池といった次世代の光エネルギー変換材料として期待されています。太陽光を有効にエネルギーとして利用するためには、使用する材料には太陽光の大部分を占める可視光に対する応答能が求められます。本研究では、酸化チタン成長過程に金イオンを導入することで、酸化チタン薄膜内部に約20ナノメートル(nm)サイズの金ナノ粒子が自己形成・自己内包する構造を有する複合膜を調製しました。その結果、本来紫外域にしか応答しない酸化チタンが、可視光で電気化学反応を示すことを明らかにしました。この可視光応答は、金ナノ粒子の局在表面プラズモン共鳴(LSPR)※2に由来し、可視領域の波長約550 nmにおける入射光子電流効率値は約3%に到達しました。酸化チタン系光電極において可視光応答を得る試みは広く進められていますが、多くは高温真空成膜、微細加工、強アルカリ条件、助触媒併用など高度な要素を必要とします。一方本研究は、常圧・水溶液・低温という極めてシンプルなプロセスで同等の光応答性能を実現した点に特徴があり、光電変換材料研究における新たな製造指針を示す成果です。
本研究成果は、2025年12月10日に米国化学会誌ACS Applied Energy Materials に掲載され、Supplementary Cover に選定されました。

ポイント

簡便な低温水溶液プロセスであるLPD法により、Auナノ粒子(~20nm)内包酸化チタン薄膜を合成し、その表面状態を明らかにした。
可視域の明瞭な吸収(~580nm)と、可視光照射下において水の酸化反応が中性条件でも高効率に進行することを確認。
水溶液・低温・簡便なプロセスで可視光応答電極を得る実用的な道筋を示す成果であり、今後太陽光により駆動する水分解セルや光電気化学デバイスへの展開が期待される。

研究の背景

昨今のエネルギー問題の解決に向けて、無尽蔵なエネルギー源である太陽光のエネルギーを効果的に化学反応に利用することが求められています。半導体である酸化チタンは安定・安価で光エネルギー変換材料として広く用いられています。しかし酸化チタンのバンドギャップ※3は約3.2eVと広いため、紫外域に応答波長が限定され、太陽光の多くを占める可視光を利用できないという課題があります。
これを補う方法として、貴金属ナノ粒子のLSPRを利用したプラズモニック電極が注目されていますが、従来のプラズモニック電極の作製は高温・真空装置や微細加工といった手法に依存し、スケールや再現性に課題がありました。本研究は、水溶液中で進行するLPD反応を活用し、可視光応答を示すAu‒酸化チタン光電極を簡便に作ることを目指しました。

研究の内容

(1) 低温・水溶液プロセスでAuNP複合電極の合成

六フッ化チタン酸アンモニウムとホウ酸からなるLPD反応溶液にAuイオンを添加すると、酸化チタンの成長と同時にAu核が生成し、ポストアニールにより薄膜内部にAuNPが包み込まれるように内包されたような複合膜が合成されます(図1)。電子顕微鏡やX線光電子分光測定といった測定から、AuNPの内包を確認しました。


図1. LPDで合成したTiO2薄膜とAuNP内包酸化チタン薄膜の写真。黒色はAuNPに由来。🄫南本大穂(CC BY ND)

(2) 可視域での光エネルギー変換を観測

形成した薄膜の吸収スペクトルを取得した結果、550nm付近にAuNPのLSPR由来の吸収帯が観測されました。また光電気化学測定を中性溶液中で実施すると、可視光照射下で水の酸化反応が高効率に進行することを確認しました(図2)。同時に、反応浴に入れるAuイオンの濃度を検討することで、可視光応答が最大化する合成条件も明らかにしました。


図2:可視光照射下で測定した光エネルギー変換挙動。
光のエネルギーが電流(水の酸化反応に相当)に変換されている。🄫南本大穂(CC BY ND)

(3) 可視応答メカニズムの解明

Mott–Schottky解析※4から得たフラットバンド電位と、波長依存の光応答が吸収プロファイルを追随すること等の電気化学測定結果から、本系における光照射に伴うユニークな電荷移動過程の詳細を明らかにすることに成功しました(図3)。


図3:本系の駆動メカニズム。
AuNPの可視光応答に由来する電子移動とTiO2の光学遷移の増強が協奏的に進行している。🄫南本大穂(CC BY ND)

今後の展開

本成果は、水溶液・低温・簡便なプロセスで可視光応答電極を得る実用的な道筋を示しています。今後はAu粒径・含有量の精密制御や共触媒併用、電極の大面積化を進め、太陽光により駆動する水分解セルや光電気化学デバイスへの展開を通じて、持続可能な社会の実現を目指していきます。

用語解説

※1 液相析出(LPD)法

水溶液中で材料を低温・常圧で合成する手法。装置が簡便で、環境負荷が低いのが特長。

※2 局在表面プラズモン共鳴(LSPR)

貴金属ナノ粒子の自由電子が光で集団振動する現象で、可視域での強い吸収・近接場増強・ホットキャリア生成をもたらす。

※3 バンドギャップ

半導体の導電体と価電子帯のエネルギー幅。バンドギャップエネルギーが半導体の吸収波長を決める。

※4 Mott–Schottky解析

電気化学測定法の1つで、半導体のフラットバンド電位を求めることが可能。

謝辞

本研究は、MEXT「データ創出・利活用型マテリアル研究開発プロジェクト」(JPMXP1122712807)、板硝子財団の支援の下で行われました。

論文情報

タイトル

Aqueous Solution-Based Liquid-Phase Deposition of Plasmonic Photoanodes with Enhanced Visible-Light Response

DOI

10.1021/acsaem.5c03020

著者

H. Minamimoto, Y. Tajiri, K. Okamoto, M. Mizuhata

掲載誌

ACS Applied Energy Materials

問い合わせ先

神戸大学総務部広報課
E-Mail:ppr-kouhoushitsu[at]office.kobe-u.ac.jp (※ [at] を @ に変更してください)

研究者


南本 大穂
講師

工学研究科



水畑 穣
教授

工学研究科


SDGs



工学研究科