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京都大学 研究Discovery Saga
2026年1月14日

巨大ウイルスのmRNA翻訳戦略

―局所環境構築を構築し宿主との競合を回避か?―

【注目の成果:共同研究・産学連携のためのチェックポイント】
細胞内の不均一性とその生物学的意義を、より系統的かつ包括的に定量化できると期待
【産学連携対象 全学共通分野 Discovery Saga】
複合領域環境学化学生物学医歯薬学
【Sagaキーワード】
危機管理/突然変異/ポリペプチド/タンパク質合成/tRNA/コドン/オミクス/オミクス解析/マルチオミクス/マルチオミクス解析/mRNA/不均一性/アミノ酸/蛍光顕微鏡/ウイルス/ゲノム/遺伝子
公開日:2026年1月9日 本研究成果は、2026年1月9日に国際学術誌「Nature Microbiology」にオンライン掲載されました。 

概要

ウイルスは、mRNAからタンパク質を合成するための翻訳システムを保持せず、宿主の翻訳システムに依存しています。張瑞軒 京都大学化学研究所 特定研究員、緒方博之 同教授、疋田弘之 同助教(現国立健康危機管理研究機構 主任研究員)、岩崎信太郎 理化学研究所開拓研究所 主任研究員、七野悠一 同上級研究員(研究当時、現同客員研究員、現筑波大学医学医療系 教授)、ウィーン大学Anouk Willemsen博士らの研究チームは、ウイルスが宿主の翻訳システムを細胞内の一部の区画に集積させ、その局所翻訳環境を利用することで、ウイルス遺伝子を効率的に翻訳している可能性を見出しました。
 mRNAがタンパク質へ翻訳される過程は、各コドンの使用頻度とtRNAの細胞内濃度とのバランスに影響されます。濃度の低いtRNAに対応するコドンでは、翻訳速度が低下し、mRNAの安定性も損なわれます。しかし、多くのウイルスは宿主の翻訳システムを利用しているにもかかわらず、そのコドン使用頻度が宿主のものから大きく乖離していることが知られていました。本研究では、ウイルスがこのtRNAの供給とmRNAによる需要の間のミスマッチをどのように乗り越えているのかという問題に、アメーバを宿主とする巨大ウイルスの一種、ミミウイルスを題材に取り組みました。その結果、ウイルス感染により細胞内tRNA組成は大きく変化しないにもかかわらず、ウイルスのmRNAは、宿主のmRNAよりも高い効率で翻訳されることが明らかになりました。研究チームはこの結果から、ウイルスと宿主のmRNAは細胞内の異なる環境で翻訳されているという仮説を立てました。さらに、詳細な蛍光顕微鏡観察を実施し、ウイルスが宿主細胞内の局所領域でウイルスのmRNAを翻訳していることを明らかにしました。ミミウイルスは特殊な翻訳環境を細胞内に形成することで、tRNAの供給と需要のミスマッチを克服している可能性が見えてきました。  


  用語解説コドン:mRNA上の連続した3塩基の組み合わせで、タンパク質合成の際、対応するtRNAと結合してポリペプチド鎖に取り込まれるアミノ酸の種類を指定する。例えば、ACUはトレオニンに翻訳される。
 
ミミウイルス:アメーバを宿主とするウイルスで、約120万塩基対のゲノムを保持し、ウイルス粒子径は750 nmである。ウイルスとしては例外的にtRNAや翻訳関連のタンパク質をコードする遺伝子を少数ながら保持する。

研究者のコメント
「本研究では、マルチオミクス解析と顕微鏡観察を通じて、ウイルス感染細胞における不均一な特徴を発見し、「ウイルスは自身の遺伝子翻訳を助けるために、特殊な局所環境を作り出している可能性がある」という仮説を提唱しました。今後は、近接ラベリング技術を活用することで、細胞内の不均一性とその生物学的意義を、より系統的かつ包括的に定量化できると期待されます。」(張瑞軒)  
「ウイルスにおけるtRNAの供給と需要の間のミスマッチは、突然変異圧による受身的な進化の結果と考えていました。しかし、今回の研究により競合回避戦略の結果としてウイルスのコドン利用頻度が決定される、つまりウイルスは積極的に宿主と異なるコドンを利用している可能性が見えてきました。」(緒方博之)

詳しい研究内容について
巨大ウイルスのmRNA翻訳戦略 ―局所環境構築を構築し宿主との競合を回避か?― [PDF]

研究領域情報
化学生命科学

書誌情報
Zhang, R.; Mayer, L.; Hikida, H.; Shichino, Y.; Mito, M.; Willemsen, A.; Iwasaki, S.; Ogata, H., A Giant Virus Forms a Specialized Subcellular Environment within Its Amoeba Host for Efficient Translation,Nat. Microbiol., 10.1038/s41564-025-02234-x (2026).