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京都大学 研究Discovery Saga
2026年1月14日

“パブロフの犬”の新たな脳内機構の解明

~条件づけ学習における記憶痕跡細胞の役割~

【注目の成果:共同研究・産学連携のためのチェックポイント】
条件づけの制御の破綻により生じると考えられるPTSDや依存症などの精神疾患の原因究明や治療法の開発に役立つことが期待
【産学連携対象 全学共通分野 Discovery Saga】
情報学総合生物医歯薬学
【Sagaキーワード】
情報学/行動選択/神経活動/連合学習/カルシウムイメージング/光遺伝学/イミン/カルシウム/マウス/神経細胞/PTSD/遺伝学/海馬/精神疾患
この研究の主な対象者
企業・研究者の方
公開日

概要

パブロフの犬で有名な条件づけは、餌などの「無条件刺激」と、ベルの音のような「条件刺激」が結びつけられることにより生じる連合学習です。この学習が成立して記憶が形成されるためには、条件刺激が無条件刺激よりも少しだけ先行したタイミングで起きる必要があることが、100年以上も前から行動学的に知られています。しかし実際の脳内で、条件刺激を伝える具体的な神経細胞やその活動の様子は不明でした。
 このたび、寺前順之介 情報学研究科准教授、松尾直毅 九州大学教授、小林曉吾 同助教、曾我部蓮 同大学院生らの研究グループは、海馬内で文脈情報を表現すると考えられる記憶痕跡(エングラム)細胞に特有の神経活動が、条件刺激として働くことを明らかにしました。
 記憶痕跡細胞は、目に見えない記憶の細胞レベルの実体として世界中で注目されていますが、記憶の形成前には同定できないため、その学習中での神経活動状態や役割については未だ理解が進んでいません。本研究グループは、文脈依存的な恐怖条件づけ学習中のマウス海馬において記憶痕跡になる予定の細胞の活動動態を、独自の遺伝学的手法とカルシウムイメージング法を用いて計測しました。その解析の結果、無条件刺激を提示する1〜2秒前に、記憶痕跡細胞が一時的に強く活性化することが明らかになりました。さらに、このタイミングの神経活動を光遺伝学手法により抑制したところ、記憶の形成が阻害されました。
 今回の発見は、古くから知られている行動学的な現象の脳内基盤を最新の科学により実証した好例であり、ヒトを含む動物の行動選択に重要な役割を担う条件づけ学習と記憶の脳内機構のさらなる理解に貢献します。また、条件づけの制御の破綻により生じると考えられるPTSDや依存症などの精神疾患の原因究明や治療法の開発に役立つことが期待されます。
 本研究成果は、2026年1月9日に、国際学術誌「PNAS(米国科学アカデミー紀要)」に掲載されました。
画像

条件づけ学習が生じる瞬間の海馬の神経活動:海馬において記憶痕跡になる神経細胞は、怖い出来事が起きる(無条件刺激)直前の2秒間ほど、周囲の他の神経細胞に比べて強い活動を示した。この一時的な神経活動は、条件刺激を伝える神経活動が起きるべき時間枠と一致する。

研究者のコメント
「記憶痕跡細胞の学習前や学習中での神経活動動態は、私が記憶痕跡に関する論文を最初に公表した15年ほど前から大きな疑問でしたが、今回の研究により、ようやくその一端を明らかにすることができました。一つ疑問が解消されると、それに関連する新たな疑問が湧いてきますので、順に明らかにしていきたいと思います。」(松尾直毅)

詳しい研究内容について

“パブロフの犬”の新たな脳内機構の解明~条件づけ学習における記憶痕跡細胞の役割~

研究者情報

研究者名 寺前 順之介
京都大学 教育研究活動データベース

書誌情報

【DOI】
https://doi.org/10.1073/pnas.2519161123

【書誌情報】
Kyogo S. Kobayashi, Ren Sogabe, Tsuyoshi Tatsukawa, Jun-nosuke Teramae, Naoki Matsuo (2026). Neural substrate of conditioned stimulus for associative learning in the hippocampus. Proceedings of the National Academy of Sciences (PNAS), 123, 2, e2519161123.

関連部局

情報学研究科