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東北大学 研究Discovery Saga
2026年1月13日

反強磁性体で電流による電子の液晶化を実証

―エレクトロニクス応用可能な電気抵抗変化として世界初観測―

【注目の成果:共同研究・産学連携のためのチェックポイント】
電流と磁場により反強磁性パターンを制御し、ダイオード的な性質の極性のスイッチングにも成功
【産学連携対象 全学共通分野 Discovery Saga】
数物系科学化学総合理工工学農学
【持続可能な開発目標(SDGs)】
【Sagaキーワード】
ディラック方程式/フェルミ面/時間反転対称性/精密測定/対称性/反強磁性/反強磁性体/非線形/磁場/液晶/空間反転対称性/磁性体/キャリア/メモリ/渦電流/強磁性/持続可能/持続可能な開発/強磁性体/電気抵抗/電気伝導/電子状態/電気伝導性/スピン/金属材料/原子力/半導体/結晶構造
2026年1月 8日 10:00

研究者情報

〇金属材料研究所 教授 酒井英明
研究室ウェブサイト

発表のポイント

空間反転対称性・時間反転対称性注1のいずれも持たない特殊な反強磁性体注2では、電流により電子の動きやすさに偏りが生じる「電子液晶化」に伴う新原理の電気伝導が予想されていましたが、実験的にはこれまで検証されていませんでした。
ディラック電子注3を有する反強磁性体において、抵抗のダイオード的な成分注4を磁場中で精密測定することで、世界で初めて、電流による電子液晶(ネマティック注5)化を電気伝導において検出できました。
さらに、電流と磁場により反強磁性パターンを制御し、ダイオード的な性質の極性のスイッチングにも成功しました。

発表概要

近年、自発的な磁化を持たない反強磁性体は、耐磁場性などの利点から次世代デバイスへの応用が期待されています。現在の開発の主流は、磁化を持つ強磁性体と同様に時間反転対称性のみが破れた反強磁性体です。一方、空間反転対称性も同時に破れる特殊な反強磁性体では、強磁性体とは全く異なる電子状態となるため、新原理の電気伝導が予言されていましたが、実験的な証拠はこれまで得られていませんでした。
東北大学金属材料研究所の酒井英明教授(研究開始時:大阪大学大学院理学研究科)、宮本雄哉氏(研究当時:大阪大学大学院理学研究科)、日本原子力研究開発機構の木俣基研究副主幹(研究開始時:東北大学金属材料研究所)らは、時間・空間反転対称性のいずれも持たない反強磁性体SrMnBi2において、均一な電子の動きやすさ(電子状態)が電流により液晶のように特定の方向へ偏って歪むという新現象を、電気抵抗のダイオード的な成分として初めて検出することに成功しました。さらに、反強磁性パターンを電流と磁場で制御することでダイオード特性の極性反転にも成功しました。このスイッチング可能な現象は、革新的なメモリや整流素子としてエレクトロニクス応用が期待されます。
本成果は、2026年1月7日10:00(英国時間)に科学誌Nature Communicationsにオンライン掲載されました。
なお本成果は、東京大学大学院理学系研究科の渡邉光助教(当時、現:北海道大学工学研究院)、京都大学大学院理学研究科の栁瀬陽一教授、大阪大学大学院理学研究科の越智正之准教授、近藤雅起大学院生(当時、現:東京大学物性研究所)、村川寛助教、花咲徳亮教授との共同研究によるものです。



図1. (a) PT対称磁性体の電子状態(フェルミ面)の概念図。電流印加によりフェルミ面がシフトし、系全体で面内方向に歪んだ電子ネマティック液晶状態が実現する。(b) SrMnBi2の結晶構造の模式図(左)。四面体に囲まれたMnサイトがPT対称反強磁性秩序を示す。二次元Bi層のディラック電子が形成する電子ポケットの概念図(右)。層間方向の電流により、面内で等方的な4回対称から異方的な2回対称(ネマティック状態)となる。

用語解説

注1. 空間反転対称性・時間反転対称性
空間反転対称性とは、上下・左右を反転させても結晶構造や磁気的性質が変わらない対称性のこと。時間反転対称性とは、時間の流れを反転させても磁気的性質が変わらない対称性のこと。磁化は渦電流が作る「磁場」とみなせるため、時間反転操作によりその向きが反転する。このため、自発磁化をもつ強磁性体では、時間反転対称性が破れる。
注2. 反強磁性体
隣り合う磁性元素のスピンが互いに逆向きに秩序しており、自発磁化を持たない磁性体のこと。時間反転操作により個々のスピンの向きが反転しても、全体として打ち消し合う様子は変わらないため、通常は時間反転対称性が保存される。
注3. ディラック電子
特殊な結晶構造をもつ物質において、相対論的なディラック方程式により運動が記述される電子(伝導キャリア)のこと。このような電子は、通常の金属や半導体での伝導キャリアと比べて桁違いに高い易動度を示すなど、優れた電気伝導性を有する。
注4. 抵抗のダイオード的な成分
通常、オームの法則により電圧は電流に比例し、その比例係数である抵抗は電流の向きを変えても不変である。しかし、電流による状態変化が無視できない物質では、電圧が電流の一次だけでなく、二次に比例する非線形成分を持つようになる。この非線形成分に由来する抵抗は、電流の向きを変えると符号反転するため、ダイオードと同等の特性となる。
注5. ネマティック
空間的な位置秩序は持たずに、一方向に配向秩序を持つ状態のこと。ネマティック液晶では、異方的な分子がランダムに分布しつつ、分子の方向がそろっている。今回のディラック電子は、位置秩序のない金属のまま、電流により一方向に電子ポケットが歪んでいる。

論文情報

タイトル:Transport evidence of current-induced nematic Dirac valleys in a parity-time-symmetric antiferromagnet
著者: H. Sakai*, Y. Miyamoto, M. Kimata, H. Watanabe, Y. Yanase, M. Ochi, M. Kondo, H. Murakawa, N. Hanasaki
*責任著者:東北大学金属材料研究所 教授 酒井英明
掲載誌:Nature Communications
DOI:10.1038/s41467-025-67229-y

詳細(プレスリリース本文)

問い合わせ先

(研究に関すること)
東北大学 金属材料研究所
教授 酒井 英明
TEL:022-215-2022
Email:hideaki.sakai*tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)
(報道に関すること)
東北大学 金属材料研究所
情報企画室広報班
TEL:022-215-2144
Email:press.imr*grp.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)






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