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名古屋大学 研究Discovery Saga
2026年1月9日

CRISPR-Cas3による新たなin vivoゲノム編集技術を開発

―モデルマウスの肝臓でトランスサイレチン遺伝子の特異的欠失に成功―

【注目の成果:共同研究・産学連携のためのチェックポイント】
より確実で安全なin vivo遺伝子治療法の新たな選択肢として、CRISPR-Cas3の臨床応用が期待
【産学連携対象 全学共通分野 Discovery Saga】
情報学化学生物学工学総合生物農学医歯薬学
【Sagaキーワード】
プロファイル/生物有機化学/遺伝性疾患/ナノ粒子/生体内/CRISPR-Cas/遺伝子破壊/ゲノム編集技術/獲得免疫/CRISPR/浸潤/末梢神経/臨床応用/mRNA/心臓/ゲノム編集/モデルマウス/CRISPR-Cas9/RNA/アミロイド/ファージ/マウス/マクロファージ/ラット/遺伝子治療/核酸医薬/ゲノム/ワクチン/遺伝子/細菌/脂質/新型コロナウイルス感染症/生体材料



化学
2026.01.08

研究のポイント

・CRISPR-Cas3を搭載したmRNA-LNPを用いて、in vivo(マウス肝臓)でゲノム編集することにより、血中トランスサイレチン(TTR)量を約80%低下させることに成功しました。
・従来のCRISPR-Cas9と異なり、CRISPR-Cas3はTTR遺伝子を主に一方向に広範囲に欠失させ、隣接遺伝子への影響は最小限で、オフターゲット変異が検出されない安全な編集プロファイルを示しました。
・CRISPR-Cas9による編集では3塩基欠失などインフレーム変異(IFM)によりアミロイド化する潜在的なリスクのあるタンパク質が確認された一方で、CRISPR-Cas3ではそのような異常タンパク質は検出されませんでした。
・今後、より確実で安全なin vivo遺伝子治療法の新たな選択肢として、CRISPR-Cas3の臨床応用が期待されます。
 
東京大学医科学研究所先進動物ゲノム研究分野の真下知士教授、石田紗恵子助教らの研究グループは、北海道大学大学院薬学研究院の佐藤悠介准教授、信州大学医学部の関島良樹教授、名古屋大学糖鎖生命コア研究所・大学院理学研究科の阿部洋教授、東京科学大学 総合研究院 難治疾患研究所 高地雄太教授、同 生体材料工学研究所 山口健介特任助教、理化学研究所などとの共同研究により、国産ゲノム編集技術 CRISPR-Cas3(注1)を生体内で応用する新たな手法の開発に成功しました(特許出願済み)。
本手法は、CRISPR-Cas3システムをメッセンジャーRNA(mRNA)として脂質ナノ粒子(LNP)(mRNA-LNP:注2)に搭載し、体内に投与することで標的臓器の遺伝子をゲノム編集する技術です。今回の研究では、肝臓に特異的に送達されるLNPを用いることで、肝臓遺伝子の効率的なゲノム編集に初めて成功しました。
今回標的としたトランスサイレチン(TTR)遺伝子は、肝臓で産生されるトランスサイレチンタンパク質(TTR)が変性してアミロイドとして蓄積し、心臓や神経に障害をもたらす難治性疾患トランスサイレチンアミロイドーシス(ATTR)(注3)の原因遺伝子です。TTRの産生抑制による治療効果が明らかになっていますが、既存治療は長期間の継続投薬を要する点が課題です。
本研究では、CRISPR-Cas3を搭載したLNPを投与することで、マウス肝臓のTTR遺伝子を生体内で直接ノックアウト(破壊)しました。その結果、一度の投与で、継続して血中TTR量が約80%減少し、心臓組織におけるTTR沈着および、それに伴う異物除去細胞であるマクロファージの浸潤が明らかに抑制されました。
これらの成果は、CRISPR-Cas3を用いた新しいin vivo遺伝子治療法の実現可能性を示すものであり、ATTRのみならず他の遺伝性疾患への応用にもつながることが期待されます。
本研究成果は、2026年1月5日付で、英国科学誌「Nature Biotechnology」のオンライン版で公開されました。
 
◆詳細(プレスリリース本文)はこちら
 

用語説明

(注1)CRISPR-Cas3
多くの細菌は、CRISPR-Cas(クリスパー・キャス)システムと呼ばれる獲得免疫に似た防御機構を備えています。CRISPR-Cas3はその中でもクラス1に属する多因子型のCRISPRシステム で、CRISPR-Cas9とは作動原理が大きく異なります。CRISPR-Cas3はDNAを広範囲かつ主に一方向に削除する特徴を持ち、crRNAによる標的配列認識の長さが長いため、高い特異性と確実な遺伝子破壊効果が期待されます。現在、国産ゲノム編集ツールとして開発が進められています。
 
(注2)mRNA-LNP(脂質ナノ粒子によるmRNAデリバリー)
mRNAを脂質ナノ粒子(LNP)に封入し、体内の細胞へ安全かつ効率的に届ける技術です。COVID-19ワクチンにも用いられたプラットフォームで、遺伝子編集ツール(CRISPR-Cas9やCRISPR-Cas3など)を体内で発現させるデリバリーとして利用されます。mRNAや翻訳されたタンパク質は速やかに分解され長期残存しないため、安全性の高い投与が可能です。今回の研究では、mRNA-LNPをマウスに投与し、肝臓内で直接CRISPR-Cas3が働くin vivoゲノム編集を実現しました。
 
(注3)トランスサイレチンアミロイドーシス(ATTR)
肝臓で作られるトランスサイレチン(TTR)というタンパク質が変性し、アミロイドとして全身に蓄積することで生じる進行性の難治性疾患です。心アミロイドーシスや末梢神経障害を引き起こします。TTR四量体を安定化する治療薬や、TTR産生を抑制する核酸医薬が実用化されていますが、根治には至っていません。
 

論文情報

雑誌名:Nature Biotechnology
題 名:CRISPR/Cas3-based editing for targeted deletions in a mouse model of transthyretin amyloidosis
著者名:Saeko Ishida, Yusuke Sato, Keisuke Chosa, Eri Ezawa, Yuko Yamauchi, Masaaki Oyama, Hiroko Kozuka-Hata, Rina Ito, Rikako Sato, Masatoshi Maeki, Tomo-o Ishikawa, Kenichi Yamamura, Kohei Takeshita, Kensuke Yamaguchi, Yuta Kochi, Fumitaka Hashiya, Yiwei Liu, Naoko Abe, Hiroshi Abe, Yoshiki Sekijima, Kazuto Yoshimi, Tomoji Mashimo*
(*Corresponding author)

DOI: 10.1038/s41587-025-02949-6
URL:https://www.nature.com/articles/s41587-025-02949-6
 

研究代表者

大学院理学研究科 理学専攻化学講座 阿部 洋 教授
https://biochemistry.chem.nagoya-u.ac.jp/