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大阪大学 研究Discovery Saga
2026年1月5日

\包摂的な社会環境の形成へ/ 能力主義的なさりげない差別にさらされて、 自閉スペクトラム症者はひっそりと孤独感を高める

【注目の成果:共同研究・産学連携のためのチェックポイント】
神経多様性を尊重する包摂的な社会環境の形成につながることに期待
【産学連携対象 全学共通分野 Discovery Saga】
情報学工学医歯薬学
【持続可能な開発目標(SDGs)】
【Sagaキーワード】
社会ネットワーク/アイデンティティ/持続可能/マイノリティ/持続可能な開発/マイクロ/ダイバーシティ/障害者/日常生活/リハビリ/自閉症/うつ/ストレス/メンタルヘルス/リハビリテーション/自閉スペクトラム症/小児/心理的ストレス/認知行動療法/発達障害/抑うつ
2025-12-18●社会科学系連合小児発達学研究科教授大島 郁葉

発表のポイント

おとなの自閉スペクトラム症者は、能力主義的なマイクロアグレッション(さりげない差別的言動)にさらされると、非自閉スペクトラム症の人に合わせて発達特性を抑え、同化行動を取るという社会的カモフラージュ行動を引き起こす心理的メカニズムを明らかに。
自閉スペクトラム症者の社会的カモフラージュは、抑うつ・不安・自殺リスクの増悪要因として知られているが、その背景にあるマイノリティ・ストレスを引き起こすメカニズムは十分に解明されていない。
周囲からの自閉スペクトラム症への被受容感を高める対人的環境の構築は、非自閉的多数派への過剰な同化行動を減少させることを通じて、神経多様性を尊重する包摂的な社会環境の形成につながることに期待。

発表概要

大阪大学大学院連合小児発達学研究科(千葉校)・千葉大学子どものこころの発達教育研究センターの大島郁葉教授(責任著者)、千葉大学子どものこころの発達教育研究センターの特任研究員である管思清(筆頭著者)、大阪大学大学院連合小児発達学研究科(浜松校)の土屋賢治特任教授(常勤)、信州大学の高橋史准教授、国立障害者リハビリテーションセンター研究所の和田真室長らの共同研究チームは、自閉スペクトラム症者が日常生活で経験する「できないのは努力不足」といった能力主義に基づくさりげない差別的言動(能力主義的マイクロアグレッション)が、孤独感や、多数派の社会的圧力に適応するために自閉特性を隠したり、本来の自分を抑えたりする社会的カモフラージュ行動を引き起こす心理的メカニズムを明らかにしました。
自閉スペクトラム症者の社会的カモフラージュは、抑うつ・不安・自殺リスクの増悪要因として知られていますが、その背景にあるマイノリティ・ストレスを引き起こすメカニズムは十分に解明されていません。
本研究は、自閉症の若者330名(18~39歳;平均30歳)を対象にオンライン調査を行い、能力主義的マイクロアグレッション、自閉スペクトラムに対する受容感、孤独感、そしてカモフラージュについて測定しました。その結果、マイクロアグレッションが多いほど3つ(マスキング、補償、同化)のカモフラージュ行動が増加し、これが長期的にはメンタルヘルスの悪化や燃え尽き症候群のリスクを高める可能性があることが明らかになりました。
これらの結果は、神経多様性を尊重する包摂的な社会環境の形成に向けた新たな手がかりを示すものです。
本研究は、科学技術振興機構(JST)社会技術研究開発センター(RISTEX)による「オールマイノリティプロジェクト:発達障害者をはじめとするマイノリティが社会的孤立・孤独に陥らないための、認知行動療法を用いた社会ネットワークづくり」の一環として実施されました。
本研究成果は、国際誌「Autism」に、12月7日(日)21時(日本時間)に公開されました。



図1. 研究の概念図

研究の背景

おとなの自閉スペクトラム症者は、抑うつ・不安・自殺リスクが高く、深刻なメンタルヘルス格差に直面しており、背景には社会的孤立と「孤独感」があります。孤独感は、人付き合いの量ではなく「実際の関係」と「望ましい関係」のギャップから生じる主観的で苦痛な状態であり、つながりを増やすだけでは必ずしも軽減しません。これはニューロダイバーシティへの理解・受容の不足と結び付き、マイノリティ・ストレス(差別や偏見などの遠位ストレッサーにより、孤独感などの近位ストレッサーが生じ、やがて抑うつ・不安に至る慢性的負担)の中心要因となります。
さらに、社会には「能力のある人ほど優れている」とする能力主義が根強く、発達特性による困難を見落として「できないのは努力不足」とみなす構造を生みます。これが当事者に不当な責任を負わせるだけでなく、日常の何気ない言葉や態度として現れる「能力主義的マイクロアグレッション」を通じて、神経多数派への同調圧力を強めます。善意に見える助言であっても、実際には神経少数派の若者の孤独感や心理的ストレスを増幅し、メンタルヘルスの悪化に結び付くことが示唆されています。

研究の内容

本研究は、自閉スペクトラム症者が経験する能力主義的マイクロアグレッション(さりげない差別)が、マイノリティ・ストレスと対処(社会的カモフラージュ)にどう結び付くかを検討しました。
理論枠組みは「社会的アイデンティティの随伴性」とマイノリティ・ストレスの理論を統合して神経多様性に拡張し、マイクロアグレッションが被受容感への脅威と孤独感を高め、カモフラージュを促す過程と捉えました。
日本在住の自閉スペクトラム症者330名を対象にオンライン調査を行い、能力主義的マイクロアグレッション、自閉スペクトラムに対する受容感(対他・自己)、孤独感、カモフラージュ(マスキング・補償・同化)を測定しました。調査の結果、マイクロアグレッションが多いほど3タイプ(マスキング・補償・同化)すべてのカモフラージュが増加することが分かりました。特に、「周囲から受け入れられていない」という外的被受容感の低さと孤独感が、マイクロアグレッションと同化型カモフラージュの関連を媒介し、自己受容の低さは媒介しませんでした。年齢や自閉特性、診断時期、一般的ストレス、抑うつ・不安を統制しても同様で、神経多数派基準への同調圧力下で行動調整を強いられている可能性が示唆され、短期的な適応性はあっても、長期的には燃え尽きや抑うつ・不安リスク増大につながることが予想されました。

本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)

本研究の結果は、周囲からの自閉症への被受容感を高める対人的環境の構築が、メンタルヘルス格差を軽減するための重要な鍵となる可能性を示しています。これは、個人の努力ではなく社会が受け入れ方を変えていく必要があり、神経多様性を尊重する包摂的な社会環境の形成につながることが期待されます。

特記事項

本研究成果は、2025年12月7日(日)21時(日本時間)に国際誌「Autism」(オンライン)に掲載されました。
タイトル:“Understanding Autistic Identity Contingencies: The Chain Mediation Effect of Autism Acceptance and Loneliness in Ableist Microaggressions and Social Camouflage”
著者名:Siqing Guan, Fumito Takahashi, Makoto Wada, Hikari N Takashina , Midori Ueda, Yasuo Kawaguchi, Masamitsu Kawashima, Takeo Kato, Shinichiro Ogawa , Kenji Tsuchiya , Fumiyo Oshima
DOI:https://doi.org/10.1177/13623613251389876
なお、本研究は、JST RISTEX研究推進事業オールマイノリティプロジェクト研究の一環として行われました。

参考URL

大島郁葉教授 研究者情報
https://www.cn.chiba-u.jp/researcher/oshima_fumiyo/

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