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名古屋大学 研究Discovery Saga
2025年12月25日

音の方向感知はオリゴデンドロサイトの多様性に支えられている

【産学連携対象 全学共通分野 Discovery Saga】
情報学生物学工学総合生物医歯薬学
【Sagaキーワード】
音源定位/ナトリウムチャネル/3次元構造/マイクロ/神経活動/ナトリウム/ニワトリ/髄鞘/グリア細胞/聴覚/グリア/神経回路/生理学



生物学
2025.12.24

研究のポイント

・両耳で聞いた音情報をマイクロ秒レベルの精度で統合する脳幹聴覚回路において、軸索に沿って分布するオリゴデンドロサイトの形態や密度が領域ごとに異なっていることを発見。
・このオリゴデンドロサイトの領域差によって軸索上の情報伝導速度が精密に制御されていることで、音がどこから来たのかを感知する音源定位という機能が支えられていることが示唆された。
・脳内に広く分布するオリゴデンドロサイトの特徴は多様であることは知られていたが、本研究によりこの多様性が局所神経回路の情報処理に寄与しうることと、多様なオリゴデンドロサイトを適材適所に配置する未知のメカニズムの存在が示唆された。
 
名古屋大学大学院医学系研究科 細胞生理学の江川遼助教と久場博司教授らの研究グループは、京都大学の渡邉大教授らとの共同研究により、オリゴデンドロサイトの多様性が音の方向感知を担う神経回路での情報処理のしくみを支えていることを発見しました。
オリゴデンドロサイトは脳内に存在するグリア細胞の一種で、神経回路の配線である軸索に突起を巻き付けて髄鞘を形成することで、跳躍伝導*1によって情報の伝導速度を最大で100倍ほど高速化しています。跳躍伝導の速度は、髄鞘間のランビエ絞輪と呼ばれる軸索区画の間隔によって変化します。このランビエ絞輪の間隔は、脳領域間のみならず一本の軸索上でも異なっていますが、この間隔の違いを生じさせるしくみについてはまだよくわかっていません。
本研究ではこのしくみを解明するために、軸索上のランビエ絞輪間隔に領域依存的な偏りがあるニワトリの脳幹聴覚回路に着目しました。この回路は両耳に届く音情報のわずかな時間差(両耳間時差*2)を検出することで、音源定位を支えていることが知られています。脳を透明化して回路の3次元構造を詳細に調べた結果、ランビエ絞輪の間隔の違いは、軸索そのものの構造(直径や分岐)によるものではなく、オリゴデンドロサイトの形態と密度の領域差を反映していることが明らかとなりました。また、神経活動はオリゴデンドロサイトの産生を制御して領域間の密度の差をつくるのに関与していて、ランビエ絞輪間隔の違いは各領域のオリゴデンドロサイトに備わった髄鞘形成能力の違いによって決まることが示唆されました。脳内のオリゴデンドロサイトは多様な集団であることは知られていましたが、本研究によりこのオリゴデンドロサイトの多様性が神経回路の情報処理において重要な意義を持つことが示されました。
本研究成果は、2025年12月23日付(日本時間12日24日)に国際科学誌『eLife』電子版に掲載されました。
 
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用語説明

*1)跳躍伝導:神経回路における電気信号は、軸索上に分布する電位依存性ナトリウムチャネルが連鎖的に活性化することで伝導していく。髄鞘が軸索を絶縁し、また髄鞘の間のランビエ絞輪で電位依存性ナトリウムチャネルが高密度に集積することで、この伝導は効率化され、高速化する。伝導速度は軸索に沿ったランビエ絞輪の間隔にも依存しており、間隔が広いほど伝導速度は速くなる。最も速いものでは、秒速100m(時速360km)にも達する。伝導速度は脳から遠く離れた手足を瞬時に動かすのに重要だが、脳内においては神経回路における情報の統合を支える要因としても重要視されている。
 
*2)両耳間時差:ひとつの音源から生じた音が左右それぞれの耳に届く際に生じる時間のずれ。音源が頭部に対して正面にあると時間差は生じないが、音源の位置が真横に近づくにつれて時間差は増大する。その時間差は左右の耳の間の距離にも依存していて、ヒトでは最大で600マイクロ秒程度。正面付近であれば、ヒトは約10マイクロ秒(角度として1-3°)の精度で時間差を検出し、音源方向を知覚することができる。一部の鳥類はこの検出能力が特に優れていて、例えばメンフクロウは真っ暗闇の中で音の情報だけを頼りに獲物を捕まえることができる。
 

論文情報

雑誌名: eLife
論文タイトル: Regional heterogeneities of oligodendrocytes underlie biased Ranvier node spacing along single axons in sound localization circuit
著者:Ryo Egawa, Kota Hiraga, Ryosuke Matsui, Dai Watanabe,Hiroshi Kuba
DOI: 10.7554/eLife.106415
URL: https://elifesciences.org/articles/106415
 
 

研究代表者

大学院医学系研究科 久場 博司 教授
https://www.med.nagoya-u.ac.jp/saibouseiri/index.html