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自然科学研究機構 核融合科学研究所 研究Discovery Saga
2025年12月24日

株式会社Spakona、核融合科学研究所と共同で核融合プラズマの安定化に向けたAI制御技術の実証実験を実施政府が推進する核融合原型炉および商用炉の基盤技術とすべく今後詳細な解析を進め、AI制御の効果を示す観点での研究成果として発表を予定

【注目の成果:共同研究・産学連携のためのチェックポイント】
「核融合原型炉開発」において重要な技術基盤となることが期待
【産学連携対象 全学共通分野 Discovery Saga】
情報学複合領域数物系科学工学総合生物農学医歯薬学
【Sagaキーワード】
ハードウェア/アンサンブル学習/データ駆動/アルゴリズム/最適化/人工知能(AI)/産学連携/スペクトル解析/プラズマ・核融合/核融合/核融合プラズマ/核融合炉/スペクトル/重水素/太陽/電子温度/システム設計/シナリオ/センサー/レーザー/実証実験/制御システム/二酸化炭素/決定木/技術革新/フュージョン/ラット

2025.12.24
株式会社Spakona
自然科学研究機構 核融合科学研究所

概要

株式会社Spakona(本社:東京都渋谷区 代表取締役:河﨑 太郎)は、自然科学研究機構核融合科学研究所(所在地:岐阜県土岐市 所長:山田 弘司 以下、「NIFS」)と共同で、核融合プラズマの安定化を目的としたAI制御技術の実証実験を実施しました。プラズマが不安定化して消失してしまう「放射崩壊」をAIにより予測する可能性について、今後解析を行い、研究成果として発表を予定しています。本取り組みは、日本政府が推進する「核融合原型炉開発」において重要な技術基盤となることが期待されます。


共同研究の背景


日本政府は2025年6月に「フュージョンエネルギー・イノベーション戦略(核融合戦略)」を改定し、世界に先駆けた2030年代の発電実証に向けて大きく舵を切りました。核融合エネルギーは、太陽と同じ原理で膨大なエネルギーを生み出す、安全でクリーンな次世代エネルギー源として注目されています。CO2を排出せず、燃料となる重水素なども海水から得られることから、脱炭素社会とエネルギー安全保障の両立に寄与する技術として期待されています。
しかし、核融合反応を維持するには1億度を超えるプラズマ状態を長時間安定的に保つ必要があり、その制御は極めて困難です。中でも、プラズマが突然不安定化して消失してしまう「放射崩壊」などの現象は、核融合炉実現の大きな障壁とされています。
こうした課題の解決に向け、SpakonaのAIエンジニアとNIFSの核融合研究者による共同研究チームは、AIを活用して放射崩壊の発生を予測し、制御する技術の実証実験を実施しまし た。

AIによる核融合プラズマ制御の実証実験に至る経緯の概要


研究チームは、プラズマの状態を監視し、放射崩壊の兆候を捉えるためのAIモデルを開発しました。これは、NIFSの大型ヘリカル装置(LHD)における放射崩壊現象に関して蓄積された実験データベース[1]を共有することで初めて可能となったものです。このAIは、実験から得られる電子温度や電子密度、不純物発光強度などのセンサーデータをリアルタイムで分析し、放射崩壊が起きる前にその発生を予測するよう学習しています。このAIをLHDの制御システムに接続し、AIが放射崩壊を予測した際に自動で粒子供給や加熱パワーに関する制御信号を発信して、リアルタイムで外部制御を実施する仕組みを構築しました。

AIモデルの詳細


時系列スペクトル解析に特化した決定木アンサンブル学習を採用。先行研究をもとに放射崩壊発生の100ミリ秒前を予測起点とし、異なるサンプリングレートを持つ分光データとプラズマパラメータを統一的に前処理。崩壊前1秒間を数区間に分割し、各区間の統計量と時間変化率を特徴量として抽出・学習しました。

AIモデル構築とLHD接続の工夫:円滑かつ迅速な実装を支えた技術的基盤


今回の実証実験では、NIFSが保有するLHDに対し、SpakonaのAI制御モデルを短期間で実装することに成功しました。これは、従来からNIFSが整備してきた制御系・通信基盤を、さまざまな制御手法に応用できる汎用設計として構築していたことに加え、Spakonaが独自に開発したAI技術を柔軟に組み合わせられる設計思想を共有していたことによります。
AIモデル自体は、過去の実験データをもとに約半年かけて構築されたもので、LHDへの実装はわずか1週間程度で完了しました。円滑かつ迅速な統合を実現できたのは、先人が整備してきたデータベースやハードウェア基盤があり、その上にSpakonaのAI技術を組み込むことができたためです。
研究機関とAI企業の強みを活かした柔軟なシステム設計と迅速な実装体制が、今回の実証実験実施の大きな原動力となりました。


試験項目:200ミリ秒前の予測と安定化の確認


実験では、AIは放射崩壊が発生する200ミリ秒以上前に兆候を検知し、制御信号を送ることで複数条件下で崩壊が抑制できるかどうかを試験しました。主な試験項目は以下のとおりです。
    予測性能
    AIにより、放射崩壊が起きる200ミリ秒以上前にその兆候を捉えることを試行しました。これは制御介入のための時間的余裕を確保するためです。
    プラズマの安定化
    AI制御により、複数の実験条件下で放射崩壊の発生を抑制し、プラズマを安定維持できるかどうか試行しました。

*燃料供給(ガスパフ)、電子サイクロトロン加熱の制御性能や、制御シナリオに関する知見を得ることを試みました。

今後の取り組み:AIの核融合炉への有効性を検証し、今後成果発表へ


詳細な解析は今後となりますが、本実証実験によって、AI技術の核融合炉運転における有効性を検証する研究の一連の流れを世に示すことができました。
AIを基盤としたシステムを実際の実験装置に統合し、プラズマをリアルタイムで制御できるかどうかの実証実験を実施しました。今後の解析を通して、将来は人間の熟練者だけでなく、AIが核融合炉の運転を担う可能性にもつながる取り組みであると確信しています。また、AIエンジニアと核融合研究者との分野横断的・異文化協力により、短期間で実証実験まで実施した本事例は、AIエンジニアが先端科学技術分野にインパクトを与えて研究開発を加速させうることを示す好事例とも言えます。
放射崩壊現象のデータ駆動的予知・回避については、核融合分野の研究者による先行研究[2][3]などもすでに発表されています。今回、AI専門家が独自の手法で取り組んだ事例となりました。これら手法の違い、制御性能の定量比較など、核融合研究者にとっても非常に興味深い事例となり、放射崩壊現象の予測・回避という同一の研究ターゲットに対して、重層的かつ競争的な研究展開をもたらすものでもあります。
今回のAI制御技術とNIFSの知見が今後さらに密接に連携していくことで、核融合プラズマの制御精度や安定性が一層向上し、日本が目指す核融合原型炉および将来の商用炉の実現に向けた技術革新が、加速度的に進展していくことが期待されます。

自然科学研究機構 核融合科学研究所 教授 横山 雅之(Masayuki Yokoyama)コメント




株式会社Spakona様との産学連携により、実機プラズマのAI制御実証実験をスピード感を持って準備、実施することができました。大学院生である鈴木優也氏(総合研究大学院大学物理科学研究科核融合科学専攻、上の写真中央奥)が構築していた実験データベース[1]の共有が重要であったとともに、核融合実験データのとてもよいユースケースとなりました。また、毎回の打ち合わせを通じて、産業界の事の進め方を目の当たりにすることとなり、大学院教育・次世代人材育成にも大きな貢献となりました。本プレスリリースを通じて、今回の実証実験に至るプロセスをお示しすることが、核融合研究へのAI分野からの参入のカンフル剤になることを大いに期待しています。
2025年度 自然科学研究機構Open Mix Laboratory事業 「統計数理核融合学の創成と展開」が本産学連携の基盤となりました。また、本産学連携のきっかけを与えていただいた 大野 哲靖 名古屋大学 教授(名古屋大学低温プラズマ科学研究センター・センター長)に感謝申し上げます。

自然科学研究機構 核融合科学研究所 准教授 釼持 尚輝(Naoki Kenmochi)コメント




今回、AI制御モデルをLHDのプラズマ制御系に統合するにあたり、短期間で実装まで到達できたことは、関係者の高い技術力と緊密な協力体制によるものであり、研究者として非常にエキサイティングな経験でした。スピード感のある実装を可能にしたのは、長年にわたり先人が整えてきた実験データベースや制御基盤が存在し、その成熟した環境の上に最新のAI技術を重ね合わせることができたからにほかなりません。
今回の実証実験は、核融合炉の安定運転に向けたAI制御への重要な一歩であり、今後、より高度なプラズマ制御手法へと展開していくことが期待されます。私たちとしても、今回開発した制御基盤をさらに発展させ、産学連携を通じて核融合研究をより一層推進するとともに、原型炉時代に向けた核融合プラズマ制御の革新に貢献していきたいと考えています。

株式会社Spakona 代表取締役 河﨑 太郎(Taro Kawasaki)コメント




今回の実証実験では、AIが実際の実験装置と連携し、プラズマの不安定化をリアルタイムで予測・回避することを目指しました。これは、AIが単なる解析ツールではなく、核融合炉の“運転者”として機能し得ることを示していく上での重要な一歩だと考えています。
今後は、AIの判断根拠の可視化や制御アルゴリズムの高度化を進めることで、より複雑な運転条件にも対応できる技術への発展を目指します。また、核融合分野に限らず、極めて複雑な現象の制御や最適化が求められる領域への応用も見据えています。AIが科学と工学の境界を越えて研究開発を支える未来を、今後も産学連携の中で追究していきたいと考えています。
[1] 鈴木優也、庄司主、釼持尚輝、横山雅之、研究・技術ノート「大規模データからの放電データ探索とラベリング~LHDにおける放射崩壊を例として~」プラズマ・核融合学会誌 掲載受理済み(2025)、および、鈴木優也、庄司主、釼持尚輝、第4回「身近な研究DXコンテスト」入賞(大阪大学レーザー科学研究所、パワーレーザーDXプラットフォーム主催)
[2] Tatsuya Yokoyama et al., “Data-Driven Approach on the Mechanism of Radiative Collapse in the Large Helical Device”, Plasma and Fusion Research 16 (2021) 2402010.
[3] Yuya Suzuki et al., “Prediction of Radiative Collapse in the Large Helical Device Plasma Discharges using Convolutional Neural Networks”, Plasma and Fusion Research 20 (2025) 1402021.
本件のお問い合わせ先

大学共同利用機関法人 自然科学研究機構 核融合科学研究所
管理部 総務企画課 対外協力係