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東京科学大学 研究Discovery Saga
2025年12月13日

脳卒中回復期患者の口腔状態から睡眠関連呼吸障害のリスクに気づく

口腔健康状態が悪い患者ほど睡眠関連呼吸障害が重症であることを確認

【注目の成果:共同研究・産学連携のためのチェックポイント】
歯科医療職は口腔内を日常的に診る立場であり、睡眠にも関心を持つ歯科医療者が増えることで、回復期医療における歯科の新たな貢献が期待
【産学連携対象 全学共通分野 Discovery Saga】
情報学総合生物医歯薬学
【Sagaキーワード】
多変量解析/診断法/加齢変化/Body mass index (BMI)/健康管理/骨折/障害者/身体機能/要介護/リハビリ/歯学/歯周病/スクリーニング/マウス/リスク因子/リハビリテーション/医師/医療の質/加齢/血圧/高血圧/高齢者/睡眠/生活習慣病/早期発見/唾液/糖尿病/脳卒中/有病率/嚥下障害

2025年12月11日 公開

ポイント

脳卒中患者では睡眠関連呼吸障害(SDB)の有病率が高いにもかかわらず、回復期病院ではSDBの評価が十分に行われていません。
回復期病院に入院した脳卒中患者91名を対象に調査した結果、口腔健康状態が悪いほどSDBが重症であることが分かりました。
歯科医療職は口腔内を日常的に診る立場であり、睡眠にも関心を持つ歯科医療者が増えることで、回復期医療における歯科の新たな貢献が期待されます。

概要

東京科学大学(Science Tokyo)大学院医歯学総合研究科 摂食嚥下リハビリテーション学分野の戸原玄教授、山口浩平講師、柳田陵介医員らの研究チームは、回復期病院[用語1]に入院した脳卒中患者を対象として、
Oral Health Assessment Tool(OHAT)[用語2]を用いた口腔健康状態の評価と睡眠検査を実施しました。

その結果、次の3点が明らかになりました。(1)OHATの合計点が悪いほど、
睡眠関連呼吸障害(SDB)[用語3]の重症度を示す
無呼吸低呼吸指数(AHI)[用語4]のスコアが高い(悪い)こと、(2)SDBが重症な患者とそうでない患者を分けるOHAT合計点のカットオフ値が「7」であること、(3)SDBが重症な患者では、OHATの評価項目のうち「残存歯」のスコアが特に悪いこと。

SDBを有する患者は、脳卒中からの回復に時間がかかることや、脳卒中再発のリスクが高いことが報告されており、適切な管理が必要です。しかしながら、回復期病院ではSDBの検査がほとんど実施されていません。

一方、歯科医療職は口腔健康管理や歯科治療、摂食嚥下リハビリテーションを通じて患者の口腔内を診察する機会が多く、口腔所見から脳卒中患者のSDBリスクに気づくことで、回復期医療における歯科の新たな貢献が期待されます。

なお、睡眠歯科医療に関心を持つ、あるいは訓練を受けている歯科医療職は必ずしも多くありません。本研究の成果は、歯科医療職が睡眠に関心を寄せることの重要性を示すものであり、回復期医療における歯科のさらなる役割拡大につながり得ることを示唆しています。

まずは、リハビリテーションに関わる医療職において、睡眠に対する関心度や認知度を高めることが重要です。

本成果は、11月24日付(現地時間)の「Journal of Oral Rehabilitation」誌に掲載されました。

背景


睡眠関連呼吸障害(SDB)は、睡眠中に呼吸が止まる、もしくは浅くなる障害です。SDBは脳卒中のリスク因子であり、脳卒中患者の少なくとも半数以上に認められることが、これまでの研究で明らかになっています。しかしながら、脳卒中患者に対して医師が睡眠に関する質問を行う割合は6%、睡眠検査を実施する割合は9%と、いずれも低いことが過去の調査[参考文献1]で報告されています。

脳卒中患者の治療においては睡眠にも着目することが望まれるものの、SDBリスクのある患者に十分に対応できているとはいえません。歯科医療職は回復期病院においても、口腔健康管理や摂食嚥下リハビリテーションを通じて、日常的に入院患者の口腔内を診察しています。口腔内の特徴からSDBのリスクに気づくことができれば、適切な介入につなげられる可能性があります。


本研究では、回復期病院に入院した脳卒中患者を対象とし、SDBの重症度と、口腔健康状態の指標であるOHAT(Oral Health Assessment Tool)スコアとの関連を検討しました。

研究成果

本研究の対象者は、2021年8月から2024年3月の間に脳卒中と診断され、千葉県内の回復期病院に入院した140名の患者(平均年齢:73.3±12.4歳、男性78名)でした。対象者は入院後、WatchPATを用いて睡眠検査を受けました。その結果、91名(平均年齢:72.3±12.7歳、男性50名)が解析対象となりました。

また、診療録から年齢、性別、OHATスコア、残存歯数、肥満度を示すBody Mass Index(BMI)、意識レベルを示すJapan Coma Scale(JCS)、脳卒中の重症度を示すmodified Rankin Scale(mRS)の情報を収集しました。OHATは、口唇、舌、歯肉・粘膜、唾液、残存歯、義歯、口腔清掃、歯痛の8項目をそれぞれ0~2点で評価し、合計点(0~16点)は口腔健康状態が悪いほど点数が高くなります。

睡眠検査では、1時間当たりの無呼吸・低呼吸の回数を示すApnea Hypopnea Index(AHI)が測定されました。解析対象者91名のうち、42名(46.2%)はAHIが30以上、すなわち重症のSDBと判定されました。

OHATについて、SDB重症群と非重症群で比較したところ、重症群では「残存歯」の項目およびOHATの合計点数が有意に悪いことが分かりました。

次に、SDBの重症度とOHATの合計点数の関連を明らかにするため、多変量解析を行いました。年齢や性別などの因子を調整したうえでも、口腔健康状態が不良なほどSDBが重症であることが示されました。さらに、SDBの重症と中等症・軽症を見分ける指標となるOHATのカットオフ値は7点であることが示されました。

本研究の結果から、回復期病院に入院する脳卒中患者では、OHATの合計点数が悪い場合、SDBが重症である可能性が高いことが示唆されました(図1)。ただし、OHAT単独でSDB重症度を高精度に判定できるわけではありません。したがって、口腔所見からSDBリスクに気づき、睡眠に関する質問票など他のスクリーニング方法と組み合わせることで、より必要な医療につなげることが望まれます。


図1. 本研究で明らかになった成果
AHI:1時間当たりの無呼吸・低呼吸の回数、OHAT:口腔健康状態のスコア、SDB:睡眠関連呼吸障害

社会的インパクト

本研究は、回復期病院における脳卒中患者のSDBと口腔健康状態の関連を明らかにした、初めての報告です。歯科医療職は、口腔健康管理や摂食嚥下リハビリテーションを通じて、日常的に入院患者の口腔内を診察しています。口腔内の特徴からSDBのリスクに気づくことができれば、より精度の高いスクリーニングや適切な介入につなげられる可能性があります。

研究チームはこれまでに、嚥下障害とSDBの関連も明らかにしています[参考文献2]。回復期脳卒中患者の診察において、口腔健康状態や嚥下障害の所見からSDBに着目できることで、歯科医療職がリハビリテーションに果たす役割はいっそう大きくなると考えられます。

今後の展開

本研究では、回復期病院への入院時を対象とした横断研究を実施しました。今後は、入院時から退院時までの縦断的な解析に加え、歯科によるSDBリスクの早期発見、医科との情報共有やその後の管理を含む、回復期脳卒中患者の医療の質向上を目指したプロトコールの開発やその効果検証へとつなげていきます。

参考文献

[参考文献1]
Brown DL, Jiang X, Li C, et al. Sleep apnea screening is uncommon after stroke. Sleep Med. 2019.
[参考文献2]
Yanagida R, Yamaguchi K, Nakagawa K, et al. Sleep apnea and dysphagia in patients after a stroke recovering in convalescence rehabilitation. J Prosthet Dent. 2024.

用語説明

[用語1]
回復期病院:脳卒中や骨折などの疾患で急性期を経過した患者が、身体機能の回復を図るためにリハビリテーションを行う病院。
[用語2]
Oral Health Assessment Tool(OHAT):口腔内の状態について評価する方法。口唇、舌、歯肉・粘膜、唾液、残存歯、義歯、口腔清掃、歯痛の8項目を評価し、それぞれ健全(0点)から病的(2点)までの3段階で点数化する。
[用語3]
睡眠関連呼吸障害:睡眠中に呼吸が止まる、もしくは浅くなる障害。睡眠が妨げられることにより、起床時の頭痛や日中の眠気、倦怠感などを引き起こすほか、高血圧や糖尿病などの生活習慣病のリスクを上昇させる。
[用語4]
無呼吸低呼吸指数:就寝中に1時間当たり何回無呼吸・低呼吸が生じたかを示すスコア。5以上15未満が軽症、15以上30未満が中等症、30以上が重症と分類される。

論文情報

掲載誌:
Journal of Oral Rehabilitation
タイトル:
Oral health status and sleep-disordered breathing in post-stroke patients in convalescent rehabilitation wards: A cross-sectional study
著者:
Ryosuke Yanagida, Kohei Yamaguchi, Kazuharu Nakagawa, Kanako Yoshimi, Takami Hino, Ayumi Kisara, Haruka Tohara
DOI:
10.1111/joor.70109

研究者プロフィール


柳田 陵介 Ryosuke Yanagida
東京科学大学 大学院医歯学総合研究科
摂食嚥下リハビリテーション学分野 医員
研究分野:高齢者歯科、摂食嚥下リハビリテーション



山口 浩平 Kohei Yamaguchi
東京科学大学 大学院医歯学総合研究科
摂食嚥下リハビリテーション学分野 講師
研究分野:高齢者歯科、摂食嚥下リハビリテーション


戸原 玄 Haruka Tohara
東京科学大学 大学院医歯学総合研究科
摂食嚥下リハビリテーション学分野 教授
研究分野:高齢者歯科、摂食嚥下リハビリテーション

関連リンク

プレスリリース 脳卒中回復期患者の口腔状態から睡眠関連呼吸障害のリスクに気づく—口腔健康状態が悪い患者ほど睡眠関連呼吸障害が重症であることを確認—(PDF)
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