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名古屋大学 研究Discovery Saga
2025年12月10日

電流を使わず人工反強磁性体の電界制御技術を構築 超省エネルギー型スピントロニクスデバイスへの応用に新たな扉

【注目の成果:共同研究・産学連携のためのチェックポイント】
超低消費電力電界制御型反強磁性スピントロニクスデバイスの実現に新たな道
【産学連携対象 全学共通分野 Discovery Saga】
数物系科学総合理工工学医歯薬学
【Sagaキーワード】
反強磁性/反強磁性体/テラヘルツ/磁場/磁気モーメント/磁性体/圧電効果/強磁性/電子デバイス/省エネ/エピタキシャル/圧電体/強磁性体/磁気特性/単結晶/電気抵抗/電子状態/コバルト/シミュレーション/スピン/スピントロニクス/ダイナミクス/マイクロ/結晶方位/省エネルギー/積層構造/多層膜/第一原理/第一原理計算/低消費電力/膜構造/量子力学/層構造/ルテニウム



数物系科学
2025.12.10

研究のポイント

・ジュール発熱注1)の原因となる電流を用いず、電界のみで磁気結合の制御を実証。
・[Co/Ru/Co] エピタキシャル注2)多層膜人工反強磁性体注3)/圧電単結晶注4)PMN-PTヘテロ構造の創製。
・人工反強磁性体[Co/Ru/Co] エピタキシャル多層膜における層間磁気結合注5)の電界制御に成功。
・超低消費電力電界制御型反強磁性スピントロニクスデバイス注6)の実現に新たな道。
 
名古屋大学大学院理学研究科の久田 優一 博士後期課程学生、小森 祥央 助教、井村 敬一郎 講師、谷山 智康 教授の研究グループは、東京科学大学物質理工学院の沈 晨宇 博士後期課程学生、合田 義弘教授、南洋理工大学のCalvin Ching Ian Ang 研究員、Wen Siang Lew 教授との共同研究で、コバルト (Co)とルテニウム (Ru)から成る [Co/Ru/Co] エピタキシャル多層膜人工反強磁性体とPb(Mg1/3Nb2/3)O3-PbTiO3 (PMN-PT)圧電単結晶との積層構造において電界によるCo層間の磁気結合(交換結合)の変調制御に成功しました。
隣り合った磁気モーメントが互いに逆向きに配向した反強磁性体は、外部からの浮遊磁場に対する頑健性やテラヘルツ(THz)帯域における超高速磁化ダイナミクスなど優れた磁気特性を示すことから、新たなスピントロニクスデバイスへの応用が期待されています。一方、[強磁性体/非磁性体/強磁性体]多層膜構造では、非磁性層の厚さを調整することで二つの強磁性層の磁化を逆向きに結合させることができることから、反強磁性体と類似した磁気特性を人工的に作り出すことが可能です。このように強磁性層の磁化が逆向きに結合した磁性多層膜構造は人工反強磁性体と呼ばれ、一般的な反強磁性体と比較して層間に働く交換結合の強さが小さく外部制御が容易であると考えられ、スピントロニクスデバイスにおいて磁化配向を制御して新機能を実現するための新たな材料として期待されています。
本研究では、人工反強磁性体である[Co/Ru/Co]多層膜の高品質成長を実現し、圧電単結晶PMN-PTと積層化することで、ジュール発熱の原因となる電流を用いることなく、電界のみで、二つのCo層間の交換結合の変調制御を実証しました。また、交換結合の電界変調効果が交換結合の強さと共に顕著となることを見出しました。さらに、実験結果とマイクロマグネティクスシミュレーション注7)や第一原理計算注8)などの計算結果と併せて精査することで、交換結合の電界変調効果が、PMN-PTに生じる圧電歪みとそれに伴うRu層の電子状態の変調効果に起因することを突き止めました。
本成果は、人工反強磁性体を構成する磁性層の磁化配向を極低消費電力で切り替え制御するための技術基盤を提供するものであり、新たな省エネルギー反強磁性スピントロニクスデバイスの開発への道を切り開くものとして期待されます。
本研究成果は、2025年11月28日付国際学術雑誌『Advanced Science』に掲載されました。
 
◆詳細(プレスリリース本文)はこちら
 

用語説明

注1) ジュール発熱:
電気抵抗のある導体に電流を印加した際に生じる熱のこと。
注2) エピタキシャル:
単結晶基板上で、結晶方位を揃えて薄膜が成長すること。
注3) 人工反強磁性体:
[強磁性体/非磁性体/強磁性体]積層構造のうち、二つの強磁性体の磁気モーメントが反平行に結合した構造。
注4) 圧電単結晶:
圧電体に圧力を加えると、その圧力に応じて表面にプラスとマイナスの電荷が生じる。これを圧電効果と呼ぶ。一方、圧電体に電界を印加すると、形状が変形する現象が生じる。これを逆圧電効果という。本研究では、この逆圧電効果を利用し、圧電体上に成長させた人工反強磁性体へと歪みを伝播させ、反強磁性層間磁気結合を変調させた。
注5) 層間磁気結合:
人工反強磁性体において、二つの強磁性体の間に生じる磁気結合のこと。この層間磁気結合の強さは、非磁性体の膜厚を変えることで制御できる。
注6) (反強磁性)スピントロニクデバイス:
電子の電荷と角運動量 (スピン) の二つの自由度を利用し、新規物理現象を創製する学術分野をスピントロニクスという。また、これらを利活用した電子デバイスをスピントロニクデバイスという。最近では、スピンが反平行に結合した反強磁性体をスピントロニクデバイスへと応用する反強磁性スピントロニクスが盛んに研究されている。
注7) マイクロマグネティクスシミュレーション:
サブマイクロメートルスケールの磁性体内部の磁気挙動を数値的に解析する手法。
注8) 第一原理計算:
ある物理量を、実験値や経験則に頼らず、量子力学の基本原理に基づいて計算する手法。
 

論文情報

雑誌名:Advanced Science
論文タイトル:Electric Field Modulation of Interlayer Coupling via Piezostrain in a Synthetic Antiferromagnet
著者:Yuichi Hisada*(名古屋大学), Sachio Komori(名古屋大学), Keiichiro Imura(名古屋大学), Chenyu Shen(東京科学大学), Yoshihiro Gohda(東京科学大学), Calvin Ching Ian Ang, Wen Siang Lew, and Tomoyasu Taniyama*(名古屋大学)
DOI: 10.1002/advs.202517798
URL:https://doi.org/10.1002/advs.202517798
 

研究代表者

大学院理学研究科 谷山 智康 教授, 主著者;久田 優一(博士後期課程学生)
https://www.j-group.phys.nagoya-u.ac.jp