[Top page] [日刊 研究最前線 知尋] [Discovery Saga総合案内] [大学別アーカイブス] [Discovery Saga会員のご案内] [産学連携のご案内] [会社概要] [お問い合わせ]

東京大学 研究Discovery Saga
2025年12月8日

グリッドシェルの新しい形状決定手法

──複雑形状も設計可能に──

【注目の成果:共同研究・産学連携のためのチェックポイント】
大幅な計算コストの削減も達成し、標準的なラップトップPCで計算が実行できる
【産学連携対象 全学共通分野 Discovery Saga】
情報学複合領域数物系科学工学
【Sagaキーワード】
グラフィックス/形状処理/GPU/アルゴリズム/プレゼンテーション/数値解法/Grid/トポロジー/応力場/生産技術/ボトルネック/空間構造/材料力学/膜構造

2025年12月8日
東京大学

発表のポイント

建築の曲面構造の一つであるグリッドシェルの形状の計算手法を大幅に改善しました。
自由で複雑な境界形状をもつグリッドシェルの形状を計算できるようになりました。
大幅な計算コストの削減も達成し、標準的なラップトップPCで計算が実行できるようになりました。


複雑な境界形状をもつグリッドシェルの形状の計算結果

発表概要

 東京大学大学院総合文化研究科の三木優彰助教と、米国Thornton Tomasetti勤務の構造エンジニアToby Mitchellは共同研究により、建築大空間構造の一つであるグリッドシェル(注1)の形状決定問題の数値解法の大幅な改善を達成しました。これは既存のAiryの応力関数(注2)を用いた手法に新しくSchaefer-Gurtin応力関数(注3)を用いた手法を組み合わせるというものです。
 従来のAiryの応力関数を単独で用いた手法では、複雑な境界形状では計算が破綻してしまいました。新手法により、複雑な境界形状でも計算が破綻することがなくなりました。また、これまでGPUを用いて4日かかっていた計算がCPUのみで1.5時間で終了するようにもなり、標準的なラップトップPCを用いて簡単に計算が実行できるようなりました。これらの研究成果によりグリッドシェルの設計における技術的ハードルが大きく下がることが期待されます。


図1:開発した計算手法で設計したグリッドシェルの展示

発表内容

 東京大学大学院総合文化研究科の三木優彰助教と米国Thornton Tomasetti勤務の構造エンジニアToby Mitchellは、建築の曲面構造、特に鉄とガラスからなるグリッドシェルの形状の計算手法の共同開発を進め、これまでにコンピュータ・グラフィックス分野で最も権威ある国際会議である SIGGRAPH や SIGGRAPH Asia で論文を発表してきました(プレスリリース①)。しかし従来の提案手法には、「(1) 複雑な境界形状では計算が破綻する」、「(2) 計算コストが膨大である」、という二つの課題がありました。そこで三木と Mitchell は、ほとんど注目されてこなかった Schaefer と Gurtin による過去の研究(参考文献1、2)に着目しました。三木とMitchellのこれまでの手法は Airy の応力関数を用いて平面応力状態を記述する点に特徴がありましたが、複数の穴を持つトポロジーの複雑な領域ではAiryの 応力関数を用いて全ての平面応力状態を表現することはできません。Schaefer と Gurtin は、Airy の応力関数に新しい応力関数を重ねることで全ての平面応力状態を記述できると主張しました。その定式化はAiryの応力関数に比べて複雑で、数値解法としての実装や実務への応用が試みられることはほとんどありませんでしたが、三木と Mitchell はこの新しい応力関数をこれまでの手法に組み込むことで、複雑な境界形状でも計算が破綻しないことを確認しました。さらに、数値解法の大きなボトルネックであった逆行列の陽的な計算を回避する手法を見出し、これにより従来 GPU で4日を要していた大規模な問題を 、CPU のみで90分で解けるようになりました。これらの成果により、グリッドシェルの自由な形状を一般的なラップトップ PC 上で手軽に計算できるようになります。本研究は SIGGRAPH Asia 2025(香港)に採択され、論文は Transactions on Graphics(ToG)に掲載されるとともに、2025年12月16日にHong Kong Convention and Exhibition Centreでプレゼンテーションが予定されています。また、9月16日〜10月15日の期間、東京大学駒場キャンパス16号館一階ロビーにて提案手法で計算したグリッドシェルの1/8スケールの模型の展示を行いました(図1)。この模型は11月1日より東京大学生産技術研究所S棟で開催中の「つながるかたち展05」に場所を移し、12月14日まで展示を継続しています。提案手法を用いると図2に示すような、より複雑な形状も安定して計算できます。


図2:複雑な境界形状をもつグリッドシェルの計算例。影がコンピュータ・グラフィックスで有名なスタンフォード・バニーになっている。スタンフォード・バニーは1944年にスタンフォード大で3Dスキャナにより作成された形状データ。様々なコンピュータ・グラフィックスの形状処理アルゴリズムのテストに用いられる。

関連情報


「プレスリリース①:鉄とガラスからなるグリッドシェルの形状デザイン手法の開発」(2024/07/23)
https://www.c.u-tokyo.ac.jp/info/news/topics/20240723140000.html

発表者・研究者等情報

東京大学大学院総合文化研究科広域科学専攻・広域システム科学系
三木優彰 助教
Thornton Tomasetti(Chicago, USA), Structural Engineer,
Toby Mitchell

論文情報

雑誌名:ACM Transactions on Graphics (通称TOG)
題名:NURBS-Based Grid Shell Form finding on Domains with Topologically Arbitrary Boundaries
著者名:Masaaki Miki and Toby Mitchell
DOI:10.1145/3763284
URL:https://dl.acm.org/doi/10.1145/3763284

参考文献

[1]Hermann Schaefer. 1953. Die Spannungsfunktionen des dreidimensionalen Kontinuums und des elastischen Körpers. ZAMM-Journal of Applied Mathematics and Mechanics/Zeitschrift für Angewandte Mathematik und Mechanik 33, 10-11 (1953), 356-362.
[2]Morton E Gurtin. 1963. A generalization of the Beltrami stress functions in continuum mechanics. Archive for Rational Mechanics and Analysis 13 (1963), 321-329.

研究助成

本研究は、JSPS科研費「挑戦的研究(萌芽)(課題番号:23K17784)」、能村膜構造技術振興財団、JST ASPIRE (課題番号:JPMJAP2401)の支援により実施されました。

用語解説

(注1)グリッドシェル
直線部材を網目状に繋ぎ合わせガラスで覆う、建築の曲面構造の一種。部材の加工技術の発展にともない、近年海外で施工事例が増えている。
(注2)Airyの応力関数
平面応力場を記述する関数。本来材料力学や薄い板の理論に登場するものだが、シェル構造の釣り合い式をきれいに記述できることが指摘されている。
(注3)Schaefer-Gurtin応力関数
Airyの応力関数により平面応力場を簡潔に記述することができるが、Airyの応力関数はあらゆる平面応力場を記述できるわけではない。SchaeferとGurtinはこのことをそれぞれ独立に指摘しAiryの応力関数を補う新しい応力関数を提案した。

―東京大学大学院総合文化研究科・教養学部 広報室―